吐く息が白くなるような冷えこんだ朝のこと。のそのそと布団から這い出して洗面所へ向かうと、蛇口から少しずつ垂れた水が、凍って下まで届いたのか、シンクに氷柱ができていた。
「顔も洗えないや。」
冷気を感じて窓に目をやると、文豪の机に置いてあるような羽根ペンの、羽根をもっと大きくしてヨットの帆のようなのが、いくつも並んで、窓の上から下までずっと、扇のように広がって、今にも飛び立ちそうだ。
「きみもヒトリかい?」
窓いっぱいに広げた羽根の真ん中、嘴のあたりから、透き通った声がした。
「窓の右下にね、君の名前を書いてごらん。」
と続く声。ガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ。私は爪で名前を書いた。爪の間に入った氷が、体温で解けて染み込んで、指先が凍りそう。堪らずヒーターをつけると、少し白みがかった羽根が、次第に透明になってゆく。
「上昇気流だ、行くよ。」
飛び立つ翼に飛び乗って、私は氷鳥と旅に出た。
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