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さよなら科学と学習。ようこそ疑問のない世界へ。

小学校にて

「皆さん。マスクはしていますね」
「はーい」
「お隣の人とマスクを外してお話してはダメですよ」
「はーい」
「先生。お父さんがマスクをしても感染は防げないって言っていました」
「いいえ。そんなことはありません」
「世界でそういう事を調べる学者の先生がマスクにはすごい効果があると発表しました。だからあなたの言うその考えは間違ってます」
「でも。くしゃみとかは防げてもウイルスっていうのは小さいから通り抜けるって言っていました」
「山本君。先生は今あなたに『間違っている』と言いましたよね」
「もうこの話は終わりです」
「さあ授業を始めますよ」
「今日やるのは『ふしぎ大好き』です。みんなも色々な不思議なこと知りたいと思うでしょう。どんどん質問してくださいね」
「はーい」
「じゃあ教科書の25ページを開けて」
「ああ朝の会で言い忘れていました。2時間目の体育はマラソンの練習です。怖いのでマスクを忘れず着けて走りましょう」

高校にて

「君たちは、科学というものの本質というのが何だと思う?」
「それは知的探求心だ」
「『なぜって疑問に思う心』と言ってもいいかも知れない」
「『おかしいな。どうしてかな』と思ったら妥協せずに調べ、そして考えるんだ」
「ところで山田はどうした。先生の所にはまだ連絡が入っていないが欠席か?」
「何か山田君のお父さんの会社の人で症状は出ていないけど陽性の人が出て、お父さんが濃厚接触者になるんで、山田君もそのまた濃厚接触者になるらしいです」
「私、近所なんで…」
「そうか、それは仕方ないな。感染を防止するためだ」
「1週間くらいは休みになるな」
「先生」
「白木、質問か?」
「陽性で無症状な人とたまたま一緒にいた人の、そのまた家族が自宅待機っておかしくないですか?」
「何を言っている。おかしくないだろう」
「お前も病気が広まったら困るはずだ」
「しかしほとんどの人が死なない病気だって言われていますよね」
「それにいつから無症状感染なんて認められたんですか。ネットでは無症状の状態のウィルスの曝露から発病に至るような感染なんてほぼ起こらないと言っていましたけど」
「またそんな根も葉もない事をお前は言うのか?」
「これだけ世界中で無症状感染が認められているのに、お前が『そんなものはない』って言ったって誰が信用するんだ」
「じゃあ先生は、『そういうものはある』ってどうして断言できるんですか」
「学者が認めているからだ。テレビに出て説明してるじゃないか。お前ネットの変な情報ばかり見てテレビや新聞を見ないだろう」
「最近の高校生は、ネットのせいかどうも考えが偏ってしまいがちだな」
「あまりわけのわからない疑問を、思ったまま口に出していると社会に出てから困るぞ」

法学部の講義にて

「個人の尊厳を守るための正義の法体系が憲法であり、元々我が国の憲法は英米法の流れを汲み、上位の法概念の『法の支配』に基づくものだ」
「たとえ政治権力が恣意的に国民に権利の制限を加えていて、それを認める行政法規が策定されたとしても、それが個人の尊厳確保の見地から許されないものである場合には、法の支配の法理によって、そんな法規範は無効と判断されるであろう」
「それを具現化したのが違憲審査権だ」
「このようにして、人々の権利と言うものは国家権力によっては決して、決して微塵も損なわれてはならないものなのである」

「さすが谷山先生だよな。流れるような論理構成だな」
「ああ。ゼミはやっぱり谷山で決まりだ」

「先生」
「はい。その3番目の列のあなた。どうぞ」

「今夜間の飲食店の営業について、酒類の提供が知事の専権措置で自粛要請の形で制限されたり、午後8時以降の営業が制限されていて、緊急事態などの下ではそれが命令になり、違反すると行政罰を与えられると思うのですが、これって人権制約として行き過ぎではないですか」
「今話題の話だが・・・確かに保護しようとする法益相互間の十分な比較考量が必要だろう」
「でも営業の自由は重要だとしても、感染防止は今や何よりも大切な事だから・・・。人の命をしっかり守らないといけないからねえ」
「『酒が飲めない』とか『騒げない』とかいうのは、単にわがままで人権とはあまり関係ないだろうな。気が緩んでいるんだよ。ハハハ」
「しかし先生、対立法益とのバランスを考えても、ほとんどの人が生命身体の安全を害されないような疾病の対策で、こんな人権侵害を認めるなんておかしくないですか?」
「それはあくまで君の意見だね。もう少し社会の動きを見て勉強してから質問しなさい。偏りすぎている考えだ」
「飲食店の人には、世の中のためにもうちょっと我慢してもらうしかないんだよ。実際には給付金もたくさんもらえるんだから・・・」
「でもそういう人の人権は・・・」
「それくらいにしなさい」
「はい。今日はこれくらいにしておこうか」

 科学は一体いつ私たちの前から消えてしまったのだろうか?












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