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和紙漉き 2 和紙十工

はじめに

昔、小川町の和紙学習センターを訪問したとき、和紙教室をやっているとのことで通った。これが今の自分の和紙に関する基本になっている。
当時、和紙学習センターには女性が中心で数名の先生たちがいた。
和紙十工という手作りの指南書をいただいた。学習センターを技術的に支えているのは、小川町にある和紙工房の職人たちで、組合として和紙道具のメインテナンスなどを行っていた。和紙漉きの指導は、学習センターで働く和紙技術を身につけた指導者たちだった。結局、生徒も含めて、2,30名の和紙好きがいつも行動していた。大学の生徒たちも顔を見せていたので、活気があった。人も入れ替わって数年前には、和紙の世界遺産に小川町と東秩父村が指定された。この地域の和紙は細川紙と呼ばれ、もともと紀州から伝わった技術だ。

江戸の町へ供給する和紙で、丈夫で強く、商業で使われた。大火の多かった江戸の町で、その時、元帳など直接井戸に沈めてもそのまま文字も崩れず残る丈夫さだった。江戸の周辺には和紙を供給する和紙工房がいっぱいあったわけだ。私は八王子に住んでいるが、隣のあきる野には軍道紙という和紙があり、今も和紙仲間が何人かいる。一方、越前や美濃では今も和紙作りが盛んだ。かって、京都文化への供給が多く、絵画、書など美術紙が中心だった。四国の徳島、高知など、山陰地方も、現在も継承している。
以下、和紙の主な10の工程をまとめておく。この工程の前には、畑で楮を育てるという一年を通して夏場や芽かき作業などの労苦がある。

1.蒸 2.剥 (かしき・皮剥ぎ)

① 楮(こうぞ)の葉が落ちる12月、1月に枝を切って切りそろえる。
② 束にして、窯に入れ1,2時間、蒸す。
③ 蒸しあがったら、冷めないうちに表皮(黒皮楮)と軸芯(かずがら棒) 
  を剥ぎ分ける。簡単に剥ぐことができる。
④ 天日で皮を乾燥させ、冷暗所で保存する。

干す

3.削(かず引き)

① まず黒皮楮を一晩水に漬け柔らかくする。
② まりと呼ばれる台座に載せ、幅広の小刀(かずひき包丁)で黒皮や
  芽の後を、取り除く。
③ 剥いだ皮を洗って、冷暗所で乾燥させる。
④ 表皮の削り方で2種類がある。
  イ)白皮加工(本引き)皮の表面とその下の緑の甘皮まで削る。
    白皮楮と呼ぶ。
  ロ)撫皮加工(なでかわ)緑の甘皮を残すように黒皮を削る。 
    なで楮と呼ぶ。

かずひき中

4.煮 (煮熟・かず煮)

① 楮を一晩、水に浸して柔らかくする。
② 窯に水を入れ、アルカリのソーダ灰や炭酸ナトリウムを用いて、
  繊維を接着しているグリシンなどを溶解する。
 (昔は苛性ソーダがもちられていたが、公害物質で今は用いられない。)
③ 約30分から一時間程度、かき混ぜながら煮る。グリシンなどが溶け出す  
  と、茶色になっていく。
④ 経験に頼るが繊維が外れる状態を確認して、水に移し晒す。

5.晒(さらし)6.取 (ちり取り)

① できるだけ太陽光が全体に当たるように水の中に広げる。
② 一日以上していくと、紫外線によって白い材料に変化していく。
③ 水の中で材料に付いている塵をとっていく。

さらしとちり取り

7.解 (叩解(こうかい)、かずうち、打解)

① 手打ち叩解
  出来た楮の皮を、固い板の上か平らな石板に載せて木製の樫でできた
  かず打ち棒で叩く。
② 機械による叩解
  石臼でできた杵つき方式の打解機で自動的に叩く。

打解機

8.漉 (紙漉き)

① 紙漉きの道具
  紙漉きが日本に伝わったのは高句麗の僧侶、曇徴が610年であると、    
  日本書紀に記されているとのこと。
  1500年以上の歴史がある。平安朝になると、政府は紙の研究所を作
  った。「紙屋院」という官立の漉き場だった。おそらく、京都の紙屋川
  沿いにあったのだろう。ここで、紙の材料や道具 
  が研究されたようだ。日本独自の効率の良い道具や材料が完成していっ
  た。主な和紙用具を示す。
  イ)簀桁(すけた)ロ)槽(ふね) ハ)馬鍬(まんが)
  ニ)漕梁(たがやすめ)ホ)竿切り棒 ヘ)紙床台(しとだい)と定木
  ト)圧搾機(ジャッキ)チ)刷毛 リ)乾燥機 ヌ)打解機
  ル)ビーター(なぎなた、ホーレンダー)
② 簀桁は竹簀を含めて、漉く前に水に漬けておく。
③ 漉いた紙を重ねていく台座に足つきの敷き詰を置く。
  厚口の布(毛布)をかぶせる。水打ちして凹凸をならし、
  面を平らにする。
④ 定木をくさびを用いて立てる。竹簀の角が定木の位置決めとなる。
⑤ トロロアオイの根を叩き、粘液を抽出する。このねり材を濾す。
⑥ このねり材を水を満たした漉き槽に少量入れて、軽く撹拌する。
⑦ バケツ8分目の紙料を漉き槽に満たした水の中に投入する。
⑧ 上記ハ)の馬鍬は大きな櫛状の形状をしていて、前後に船の中で
  紙料を切るように強く移動させる。(80~100回程度)
⑨ ここで、ねりを投入する。その日の温度や水の量、紙料の量で異なるの
  で、経験ノウハウとなる。
⑩ 竹竿で撹拌する。ねりを切るように強く弱くリズミックにかき混ぜる。
⑪ 雲のように塊状だった資料は、次第に均一に分散していく。
⑫ この状態を作り出すには経験が必要で、ねりが聴いていると紙料は固定
  され沈まない。

 紙漉き
① 簀桁を漉き槽の水面に平行になるように、ぶら下げている紐を左右調整     
  する。
② 最初に化粧水として、竹簀全体に素早く少し汲み込んで紙料を広げる。③ 漉く紙の厚さによって、組む回数が決まる。毎回組むごとに、前後に   
  簀桁を揺らす。さらに左右にも揺らす。揺らすことによって、楮の繊維   
  は絡まり紙の層を形成させる。毎回、簀桁を傾けて、前方に寄った紙料   
  を捨てる。捨て水という。④ 標準的には3,4回組み込み揺らしを行
  う。 
床移し
① 簀桁をニ)漕梁(たがやすめ)という左右に1本筒置いた棒の上に乗せ  
  て竹簀を手前から持ち上げる。
② 文章表現では説明は難しいが、竹簀
  の手前の板を左手の指でつかんで持ち上げる。下の棒板は右手の指でつ
  まむ。
③ 後ろに設置している紙床へ裏返して置く。この時左手の竹簀の棒板の  
  端っこを紙床台の定木にあてて、位置を決める。
④ 手前から、竹簀を線上に置いていくが、動きを止めてはならない。
⑤ 竹簀が一面紙床に置けたら、右手で手前から紙と竹簀を分離していく。  
  空気が入らないように注意して行う。⑥ 分離するのは経験して覚える
  しかない。
⑦ この状態で、体を漉き槽に戻すと、右手が上で、今漉いた紙の面が手前  
  にくるので左手で下をつまみ、今漉いた面が上面に来るように簀桁に配  
  置する。ネット上のビデオなどで動作を確認
⑧ 漉きが終わると、竹簀は水に浮かべて、楮を取り去る。  
  そっと、端から丸めて、水を切る。ぶら下げて乾燥させる。

搾り (かんだ搾り)
① 積み重ねた和紙は湿紙層になっていて、かんだと呼ぶ。
② 上面に毛布をかけ、圧搾機にセットする。
③ 足付きの台座と同じ敷詰めを上下逆さに置く。
④ 角材を井桁に配置して、圧搾機に配置する。
⑤ 油圧の加圧装置で徐々に圧力を上げていく。
⑥ 染み出る水がなくなったら終了

10. 干 (乾燥)

紙の乾燥には、鉄板乾燥と天日乾燥がある。
鉄板乾燥
① 熱板は50~60度に調整する。
② 専用の刷毛を使い、用紙を上から一枚剥ぎ、刷毛で上から、
  抑えながら剥いでいく。
③ 熱板へ手に持っている刷毛を通して、紙の角から貼り付けていく。
  この時しわや、空気を巻き込まないように貼り付けていく。
④ 空気を押し出すようにそっと抑えていく。
この手法は、教わりなれることが必要。

天日干し
理想は銀杏の板がいいが手に入りにくい。松や桧の板や、いろいろ利用できる。木目がついて和紙らしい模様となる。

以上が和紙の十の工程だが、すべてが実際に経験してノウハウを積み重ねるしかない。まさに職人の世界だ。

プロの世界

楮畑 芽かき
春に楮の芽が出て、枝の小枝を取っていく作業が夏の暑い中も続く。
一番大変な作業だ。

芽かき中
一休み
トロロアオイの根から粘剤を得る


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