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『スパイダーパンク:バトル・オブ・ザ・バンド』 刊行記念! ホービー・ブラウンの魅力に迫る!(後編)

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』に登場して話題をさらった反骨のヒーロー、スパイダーパンクことホービー・ブラウン。彼を主役に据えた邦訳コミック『スパイダーパンク:バトル・オブ・ザ・バンド』が3月14日に発売されました。これを記念して、本書の翻訳を担当し、音楽誌の記者を務めた経歴も持つ権田アスカさんに、音楽ファン/コミックファンという2つの視点で解説をお願いしましょう!
※本記事は前後編の後編です。
前編はコチラ

文:権田アスカ

高まり続けるスパイダーパンク人気

スパイダーパンクの人気が高まって活躍の場が増えるにしたがい、その音楽性やバンド仲間が徐々に明らかになっていく。たとえば『Web Warriors of the Spider-Verse Vol. 2: Spiders Vs.』(2016年)に、ホービーはスパイダースレイヤーというバンドのボーカリスト/ギタリストとして登場する。バンドは3人編成のようだが、わずか1コマの描写なので詳しくはわからない。

スレイヤーは1981年にカリフォルニアで結成されたスラッシュメタル・バンドで、スパイダースレイヤーのロゴもスレイヤーのロゴに酷似しているため、スラッシュメタルの影響が色濃いハードコアパンク・バンドなのかもしれない。

物語のクライマックスでは、メリー・ジェーンズというロックバンドのドラマーでもあるグウェン・ステイシー(アース65のスパイダーウーマン/スパイダーグウェン/ゴースト・スパイダー)とコラボレーションして「ロック・アンセム」なる曲をぶちまけ、ロックンロールでマルチバースを救っている。ホービーがこれを機に一緒にアルバムを出さないかとグウェンを誘うと、「あんた、見た目はクールだけど歌声がヒドくない?」と一蹴されるが、「それがパンクってもんだろう!」とホービーは譲らない。

ハルクまでモヒカンに!?

『Edge of Spider-Geddon』(2018年)には、パンクなハルクも登場する。インヘリターズとの最初の戦いに勝利し、アース138に戻ったホービーのもとに、未来から来た企業家カーン(カーン・ザ・コングロマリッター)が訪れ、“スパイダーパンク”を商品化するキャラクター・ビジネスへの賛同を強要されるという物語だ。利益最優先の資本主義にも物質主義にも反対姿勢のホービーは、仲間のキャプテン・アナーキー(アース138のキャプテン・アメリカ)と、ロビー(・バナー/アース138のハルク)に助けを求める。すでにスーパーヒーローから引退していたロビーは、一旦はその頼みを断るものの、ホービーは彼がハルク化するために必要な音源が録音されているカセットテープを、そっと置いていく。はたしてこのテープにどんな曲が入っているのか? ロビーの肩には“METAL”の文字入りのハートのタトゥーがあり、風貌もイカついため、ゴリゴリのメタルなのかもしれない。

スパイダーパンクとロビー・バナー。
彼が再びハルクに変身するときは来るのか!?

ついにスパイダーバンド結成!

映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』のホービーはどこか孤高の存在で、徒党を組まず、ルールに縛られることを厭うが、信用できる相手は助け、志を同じくするグウェンやマイルスらとはチームとして動く。いわば、バンドだ。

「パンクはアティテュードだ。スタイルではない」とは、イギリスを代表するパンクバンド、ザ・クラッシュのジョー・ストラマーの有名な言葉だが、映画のホービーと同じく、コミックのホービーもパンクロックの姿勢をけして崩すことなく、突き進んでいく。その過程で、スーパーパワーと、パンク・スピリッツを共有する仲間たちとの交流を深め、ついにバンドの体を成すようになったのが、発売されたばかりのスパイダーパンクの単独作『スパイダーパンク:バトル・オブ・ザ・バンド』だ。

『スパイダーパンク:バトル・オブ・ザ・バンド』では、ノーマン大統領のファシズム政権が崩壊し、アース138は平和を取り戻したように見えたが、ナチパンク・バンド、クレイブン・ザ・ハンターズ(リーダーのクレイブンは、アース616でもスパイダーマンの宿敵)が街を荒らしはじめ、大きな武装勢力が背後にいることが次第に明らかになる。見えない強力な敵と戦うため、スパイダーパンクはスパイダーバンドを結成。小さいバンで初ツアーに出て、巨大な陰謀を追う。

スパイダーバンドのメンバー(の一部)。
左からスパイダーパンク、ライオットハート、キャプテン・アナーキー

バンドメンバーは、前述のキャプテン・アナーキー、ライオットハートことリリ・ウィリアムズ(アイアンハートのアース138版)、カマラ・カーン(ミズ・マーベル)。ハルクは後方支援のためスパイダーベースと呼ばれる基地に残る。また、道中に知り合ったデアデビル・ドラマー・オブ・フィリーことマティア・マードック(デアデビルのアース138版)は、80年代のニューヨーク・ハードコア・シーンから抜け出てきたような、スパイダーパンクも認める超絶にカッコいい盲目のドラマーで、のちにスパイダーバンドに参加する。

アース138版のデアデビル、マティア・マードック(左)。
そのクールな佇まいに、誰もがハートを撃ち抜かれること必至だ。

ピストルズ、クラッシュ、ラモーンズ、MC5、ミスフィッツ……パンクネタが満載!!

味方もパンクだが、敵もまたしかりで、ハードコアパンク・バンド、ミスフィッツのメンバーのようなルックのヴィランも登場する。キャラクターの髪型やファッションはもちろん、発する言葉や背景の壁にいたるまで、そこかしこにパンクロックの要素が散りばめられており、「これってMC5の曲?」「ラモーンズの歌詞?」「セックス・ピストルズのジャケット?」「ザ・クラッシュの影響?」「ジョニー・サンダースまで?」と、パンクの小ネタ探しが止まらなくなるはず。コミックを読みながら、頭で音楽が鳴るような感覚を楽しめるはずだ。

ミスフィッツを思わせる、アース138のタスクマスター。
その名もTa$kma$ter(ちょっとラッパーっぽい?)。

すでにお気づきだろうが、『スパイダーパンク:バトル・オブ・ザ・バンド』の作者であるコーディー・ジグラーは無類のパンク好きである。彼が本作を執筆中に聴いていたという、『スパイダーパンク:バトル・オブ・ザ・バンド』のサントラ的プレイリストをSpotifyで公開しているので、コミックを読みながら聴くと、スパイダーバンドのライブを擬似体験できるかもしれない。

こうした音楽ネタはもちろんのこと、映画ではあまり見られなかったホービーのリーダーとしての葛藤や、仲間とのバカの言い合いも見ものだ。

上からスパイダーパンク、デアデビル、カマラ・カーン。
心から信頼し合っているからこその、ちょっと乱暴なジョークの応酬が楽しい。

アメリカでは『スパイダーパンク:バトル・オブ・ザ・バンド』の続編『アームズ・レース』の刊行が早くも始まり、第1号にはスパイダーバンドの演奏シーンも出てくる。近い将来公開されるであろう映画『スパイダーバース』第3弾『スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース』では、どんな爆音をかましてくれるのか? スパイダーパンクの今後の活躍に、期待は高まるばかりだ。

コミック版のスパイダーパンクを読みながら、映画の公開を楽しみに待つとしよう。

権田アスカ
翻訳家、ライター。『シルク』『スパイダーマン・キャラクター事典』(共に小社刊)をはじめ、様々なジャンルの翻訳に携わっている。

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