浅草演芸ホール上席前半~神田伯山主任興行4日目

浅草演芸ホール上席前半に行ってきました。
伯山先生の主任興行は今年の4月上席以来でした。
土曜日ということもあり、2階席まで大入り。私は事前に当日の整理券を取っており、1階席に座れるくらいの番号ではあったのですが、入場時間をあえてずらして2階で立ち見をしていました。(物好きと言われそうですが笑)舞台を俯瞰して観るのはすごく新鮮でした。

主な出演者は以下の通り。

柳亭小痴楽 「反対俥」
男が上野に向かうために人力車を探していると2人の車夫とそれぞれ出会うが、一方は体が弱くて全く進まず、もう一方はいわゆる筋肉バカで目的地を通り越して福島の郡山まで行ってしまう。2人の車夫の対比と演者の高座での動きが楽しい噺。
小痴楽師匠はマクラで「客席が真面目すぎる」とイジリ、前座時代に彼女と人力車に乗っているところを文治師匠に見つかって破門になったという話からうまく噺の世界に入っていたのが印象的。
後半上野に向かう場面での話のテンポが気持ち良く、とても引き込まれました。

三笑亭夢丸「ご用心」
高座を拝見するのは2回目。前回は確か「素人鰻」をかけていました。鰻を捕まえようとする所作と顔の表情がなんとも面白かったので印象に残っています。今回の演目は強盗に出会った男が馬鹿なフリをして、逆に強盗をうまくやり込めるという噺。男と強盗のちぐはぐなやりとりがおかしく、いかにも落語という噺。師匠の地元、新潟の警察をネタにしたマクラも面白かったです。

神田松鯉「太田道灌」
落語の前座噺として有名な「道灌」ですが、講談の演目で聴くのは初めてでした。太田道灌公が若い時分に狩の途中で大雨に会い、蓑笠を借りようとするところから話が始まります。身分の卑しい少女が山吹の枝を道灌公に差し出すも無礼だと言って枝を折ってしまうのですが、城に戻ってこの話を家来にしたところ、古今和歌集の「七重八重花は咲けども…」の歌を引用して、お貸しする蓑がないことを伝えようとしたのではないかと言われ愕然とします。これをきっかけに和歌の勉強をして、のちに天皇に拝謁するような立派な歌人となるまでを松鯉先生は丁寧に描きます。シンプルな話なだけに聴かせるには力量が問われると思うのですが、先生の語りは声のトーンや抑揚で物語の世界に引き込んでくれます。さすがは人間国宝と思わされました。

笑福亭茶光「ん廻し」
鶴光師匠のお弟子さんで、2014年までは松竹芸能の漫才コンビ「ヒカリゴケ」として活動しており、解散後35歳で落語家に入門したという経歴の方です。出身も大阪のようでテンポの良い上方落語でした。2019年に二つ目に昇進したばかりですが、仲入り休憩後を任されているのが納得いく面白さでした。噺は「ん」の入った言葉を言ったら入っている数だけ田楽をもらえるという遊びを仲間内でするというシンプルなもの。上方落語はあまり聴く機会がないのですが、明るく元気な雰囲気なことが多い印象です。茶光さんは休憩後のお客さんの空気を温めるという意味で重宝される落語家さんなのかもしれません。

好田タクト
指揮者の形態模写をクラシック音楽にのせて行うという唯一無二の芸をされている。初めて観ましたが、客席に全く伝わっていない感じが逆に面白かったです笑。

三遊亭遊馬 「たらちね」
寄席でかけられることの多い滑稽噺で、江戸っ子の八五郎のところに漢学者の娘で言葉遣いが丁寧すぎる女性が嫁いでくるのですが、そのやりとりが面白いです。何人かの落語家さんのたらちねを観たことがありますが、遊馬師匠の噺も良かったです。間の使い方や声のトーンで客席が思わず笑ってしまう場面が多かった気がします。また、非常に良く通る声なので、2階席でも聴きやすかったです。(噺のうまさ以前に、声や滑舌の良さも観客目線ではとても重要なことだと個人的には考えています。)

桂文治 「代書屋」
YouTubeチャンネル「伯山ティービー」でもお馴染みの師匠なので、生の高座は初めてだったのですが、そんな気がしなかったです笑。噺は、まだ識字率が低かった時代にあった代書屋さんとそこにやってくる男の馬鹿馬鹿しいやりとりが面白い。履歴書を「でれきしょ」と言い間違えたり、生年月日を大きな声で言ってくださいと言われて「生年月日」という言葉を大声で叫ぶという男の阿呆さ加減を文治師匠はうまく演じていました。
男の名前が「湯川秀樹」ということを知った代書屋さんの「中途半端な千原せいじみたいな顔」というくすぐりには思わず笑ってしまいました。

神田伯山「中村仲蔵」
マクラでは、好田タクト先生を絶妙にイジったり、文治師匠が代書屋のサゲで最終学歴は武蔵大学(伯山先生の母校)を出していたことに触れて「指揮者はあまり知らないけど、武蔵大学を知ってる方は多いことがわかりました」と言って客席を笑わせていました。
中村仲蔵は前回4月上席の時も拝見しましたが、何度観ても感動しますし、やはり熱量や迫力がすごくて鳥肌が立ちました。仲蔵は歌舞伎の世界を題材にした話で、血筋がない役者でありながら、自らの演じ方の工夫によって最高位である名代、さらには座頭に上り詰めていく様子を描いています。他の役者の妬み嫉みを買い、嫌がらせなどを受けながらも、自分の信念を曲げずに直向きに芝居に向き合う仲蔵に心打たれました。特に私が好きなのは、五段目の斧定九郎を今までにない演出で演じ続け、ついに客席から次々と声がかかり、芝居小屋のボルテージが上がっていく場面です。鬼気迫る伯山先生の姿に震えました。

一席が終わり、幕が下りた後も客席は割れんばかりの拍手で、それに応えるように再度幕が上がりました。私は知らなかったのですが、その日実は伯山先生は誕生日だったんです。それを祝う拍手の後、深々と頭を下げながら、演芸ホールに足を運んでいただいたことに対する感謝や寄席に人が戻りつつあることへの喜びなどを話されていて、この姿も胸にぐっときましたね。

コロナ禍以降、寄席の経営はかなり厳しいと聞きます。新宿末廣亭は再度クラウドファンディングという形で資金を募っています。
私も寄席が大好きなので、なるべく足を運びたいと思っています。

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