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レジガール、されどレジガール

「ふふふふふ〜、
 お客さんから貰っちゃった」

控え室のロッカーを閉め、
さて、休憩と思っていた矢先のことだった。

カーテン越しに高揚気味の声色で
パートさんの群れが
がやがやと戻ってきた。

どうやら、
レジを担当するパートのお姉さんのひとりが
お客さんに「何か買ってあげる」と言われ、
ハイボールをねだったところ
本日、ハイボール8本の貢ぎ物が
無事に納められたらしい。

なんなんだ、その文化は。
出勤15日目にして、
この世界の面白さには相変わらず心が躍る。

会話の続きをこっそり聞くところによると
(といってもいわゆる女性のおしゃべり特有の声量だったのだが)、
そういう類の進物を
貰える人と貰えない人がいるらしい。
なんとも容赦ない話だがそれが現実だ。

これは
「みんなで」分けてねと一言が添えられる
よくある差し入れではない。

お姉さんの希望を事前に伺った上での、
「あなたに」向けての
れっきとした貢ぎ物なのである。
並々ならぬ熱烈なファン要素を感じ
聞いてるこっちが軽くクラッとする。

さて、気になる当の本人はというと、
愛らしさをまとい、ゆっくりと話す、
ほんわりした癒し系のお姉さんである。
髪は優しい栗色のボブスタイル。
最近は毛先をコテで内側にくるんと巻いてから
出勤しているとのことだった。

高い。
高すぎてっぺんがみえない女子力を
ギラギラと感じる。

キューティクルの存在を忘れたボサボサ黒髪を
誤魔化すようにキュッとひとつに結い、
学生ですかと度々間違われる
その野暮ったい地味ファッションの私とは
雲泥の差である。

そりゃあお姉さんファンのひとりやふたり、
あらわれることだろう。

レジというほんの束の間の流れる時間に
お姉さんファンはときめきを抱き、
愛するその人のもとへ続く列に
並ぶのである。

彼にとっては
バーコードをピッとしてくれる相手は
他のパートさんであっても、
自動レジであっても、ならないのだ。
お姉さんなのだ。

この人に会いたくて通う、
そんなお店があるのかないのかだと、
そりゃああるほうが楽しい。

誰かにとっての日常のときめきになる日が
私にもやってくるのだろうかと
棚の埃を払いながら想いを馳せた。

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