小柄な男性

「おう、元気か?」

不意に話しかけてきたこの小柄な男性は誰なのだろうか?
最初は分からなかった。

正月に親戚で集まる会に、叔父が「今日は別のとこにいっからな」と言った。
毎年祖母の家で集まるのだが、その時は車で知らないとこに連れて行ってもらった。

着いたのは公園が付いている団地。
4階の1室に恐る恐る入った。

2LDKの部屋。壁には2枚の子供の名前を筆で書いたものが飾ってある。
その近くには、生まれて数ヶ月らしき赤ちゃんがいた。

「おう、元気か?ゆっくりしてな。」
と話しかけてきた小柄な男性は私を知っているかのように振る舞っていた。
正月に集まった親戚はこの人を知っているらしい。

全く思い当たらない訳ではなかった。
私には父がいない。
小さい頃に離婚をして、出て行ったっきり会っていない。
もちろん、思い出も覚えていない。
顔すら。

小柄な男性の妻らしき人が奥から出てきた。
軽く挨拶し、奥にいる小さな子供のとこに戻った。

その時の私は中学生。
親戚に心配をかけまいと、気丈に振る舞った。
元気に公園で、親戚の子供と遊んだ。
流行っていたゲームを小柄な男性と楽しんだ。
振る舞ってくれた料理をたらふく食べた。

帰り際、小柄な男性は言った。
「またきてな」


家に帰り、押し入れを開けた。

「たしかここに。あ、あった!」

フィルムがパリパリになった数年前のアルバムを引っ張り出した。
写ルンですで撮って現像した写真を保存しておくアルバム。

どんな感情でやったのか分からないが、アルバムを開いた。
時が止まったように感じた。

私が姉と母と海水浴にいった写真が貼ってあった。




………

そして、今日会った「小柄な男性」も一緒だった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?