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Axie Infinityを作ったSky Mavisの共同創業者はGameFiの過ちを認めた

文責 : sholana (@sholana0421)

この記事に書いてあること
- これまでのGameFiには欠陥があった
- ゲームにBlockchainを使う意味
- 次世代のBlockchain Gameを考えるための事例 "Dark Forest"

この記事で言いたいこと
- 次のweb3 nativeな一線級のゲームはInteroperability、そしてComposabilityを如何にして実装するかが鍵になる。
- そのイメージはAxie Infinityのような現在一般的なWeb3ゲームからだと見つけることができない
- おそらく計画としては壮大で、かつ現在のL1スケーラビリティだと難しい部分もあるが、チャレンジとしては大きな価値がある。

Introduction

先日、cointelegraphからこんな記事が公開されていました。

ここではSky Mavis (Axie Infinityの開発母体) の共同創業者や、BNB Chainのシニアビジネスディレクター、Web3Game特化型VCのパートナーなど、業界で権威ある方々が、2023年のNFTgameについてコメントをしています。

個人的に最も興味深かったのは、Sky Mavisの共同創業者であるAleksander Larsen氏の話でした。以下は上記記事からの引用になります。

23年におけるP2Eの適切性について意見を求められたラーセン氏は、現在のところこのモデルには欠陥があることを認め、次のように説明した。

「初めてのP2Eゲームのパイオニアとして、私は確信を持って、このモデルは今のままではうまくいかないと言うことができる。ゲームはまず、楽しいものでなければならず、さらに、プレイヤーが稼ぐことを可能にする確かな経済的裏付けが必要だ」
COINTELEGRAPH JAPAN

簡単に上記Larsen氏の主張をまとめると以下のようになります。

現在のPlay to Earnモデルには2つの欠陥がある
- ①楽しくないこと
- ②稼ぐモデルに経済的裏付けがないこと
COINTELEGRAPH JAPAN

①に関しては、主観的なものではありますが多くの人が賛成するところでしょう。上記記事の中でもBNB ChainのシニアビジネスディレクターであるZoe Wei氏が、「稼ぐ仕組みに重点を置きすぎ、ゲームの楽しさが十分配慮されていなかった」と指摘しています。ただ、これだけでは既存のP2Eの欠陥を改善しきることはできません。

より重要なのは②の主張でしょう。確かに現在のPlay to Earnには経済的裏付けがない、という論理は理解できます。経済的裏付けを定義するのは難しそうですが、一旦「需要があるかどうか」という体で話を進めましょう。Play to Earnの需要は必然的に、ゲームを遊んだ人に対してお金を払いたい人になりますが、この状況が非常に限定的であることはすぐにわかります。また、仮にできたとしても持続可能なものを創ることは簡単ではありません。

これまでのGameFiは、新規に参入したプレイヤーの資産を既存プレイヤーに分配するような仕組みを中心に、「如何に獲得した資産をロックさせるか」や、「如何に流動性の低いNFTのような商品を購入させるか」という金融ゲームを行うことでなんとかPlay to Earnという幻想を成立させていました。

Larsen氏の言葉を解釈すれば、このモデルのままでは上手くいくことができません。その一方で、「では何をすれば良いのか?」という問に対しては彼はその答えを公開していません。

しかしながらこの問は、全てのGameFi開発者やVCの課題でありますから、このnoteで可能な限り掘り下げていきます。

BCG doesn't mean "Play to Earn"

導入を終えたところで、まず私がこの記事で伝えたい結論を話します。それが「ブロックチェーンを利用したゲームには必ずしもPlay to Earnが必要ない」ということです。

おそらく、今世間で認識されているブロックチェーンゲーム (BCG) のイメージは「ゲームプレイの報酬としてトークンをもらい、それを市場で売却してリターンを得ることが目的のゲーム」というようなものでしょう。実際、Play to Earnもほぼこの意味で使われています。

しかしながら、ブロックチェーンを使う意味はトークンを利用したマネーゲームを行うことだけではありません。そもそも上記のモデルに経済的合理性があるのなら、法律を整備してWeb2でやることも技術的には可能なはずです。

私はゲームにブロックチェーンを利用する意味は「相互運用性」であると考えています。英語で言えば "Composability"や"Interoperability"にあたる言葉です。

これらの特徴により、ブロックチェーンを中心にしたゲームエコシステムでは従来のWeb2ゲームでは存在し得なかった市場参加者の獲得や、そうした参加者が収益を得るシステムが可能になります。

ちなみに上記2つの単語の定義は人によって多少変わるでしょうが、私の場合は以下を参照していると考えてください。

https://www.youtube.com/watch?v=-91DRVP__m4&t=2043s

"Dark Forest" tell us why we use blockchain

クリス・ディクソン氏の有名な言葉に "What the smartest people do on the weekend is what everyone else will do during the week in ten years" (賢い人々が休日にしていることが、10年後一般人がやっていることだ) というものがありますが、少し前までクリプトのGeek達がハマって休日にプレイしていたBCGを紹介します。それが "Dark Forest"というゲームです。

https://zkga.me

このゲームはzk-SNARK技術を利用したイーサリアムチェーン上のフルオンチェーンゲームです。ゼロ知識証明によって不完全情報ゲームをオンチェーンで実装することに成功しました。これについてはでりおてんちょーさんが書かれている記事が丁寧に説明しています。
ゲーム内トークンを発行していないなど、他のBCGと比べてPlay to Earnの要素はあまり強くなかったのですが、現在はステーブルコインを用いたPlay to Earnの機能が実装されているようです。 (実装の経緯が面白いので後述します)

このゲームはよく"True Composability (真の相互運用性) "を持つと言われるのですが、その一番の理由は、全てのゲームデータとロジックがブロックチェーン上にあることです。Dark Forestは惑星を取り合うゲームで、自身が所有する惑星で作られたエネルギーを利用して他の星を征服する、という行動をします。この時、惑星の所有者やその移転履歴、惑星を攻撃した履歴等を全てリアルタイムでトランザクションとしてブロックチェーンに記録します。以下画像はDark ForestのGameplayですが、右上の文字をよく見るとトランザクションが送信されているのが確認できます。

https://www.youtube.com/watch?v=vMwnVLJ8Yyo

これは他のBCGとは大きく異なる部分です。例えばAxie Infinityを例に挙げて考えてみましょう。

ゆっくり魔理沙だぜ

Axie Infinityはポケモンのように「自分のキャラが持っているワザを使って相手のキャラを倒しきったら勝ち」のゲームで、勝負に勝つと報酬の仮想通貨がもらえます。
つまり、報酬を獲得するまでのフローを整理すると
- 1. キャラを選ぶ
- 2. ワザを選択する
- 3. 勝利する
- 4. 仮想通貨を受け取る
となります。しかし、この1~4の行動の内、オンチェーンに記録されるのは4の仮想通貨の受け渡しのみです。これはワザを選んだり、相手にダメージを与えたりするゲーム内のロジックがオフチェーンで実装されているためです。オンチェーンに書き込まれるのは報酬の受け渡しのみで、誰が何回勝ったという情報すらトランザクションとしては残りません。

一方でDark Forestは、先述の通り全ての履歴がオンチェーン上に記録されます。(もちろんその分やれることはAxieほど多くありません)
なので極端な話、私達がDark Forestをプレイするときに彼らの公式HPであるhttps://zkga.me に必ずしもアクセスする必要がないんです。なぜなら全てのロジック (関数) がコントラクトに公開されており (Composable) 、全てのデータがトランザクションとしてイーサリアムというDBに残っていますから (Interoperable) 、究極全く同じロジックとデータを持ったDark Forest2というクライアントを構築し、Dark Forestを遊んでいる人と一緒に遊ぶことが可能なのです。もっとわかりやすく言えば、あなたはDark Forestのモバイル版を開発する権利を持っているということです。実際にこのゲームのVer6.1で優勝したディートリッヒは、ゲームのフロントに修正を加えた上でプレイを行っていました。

また、同じようにプレイヤーがゲームの挙動を変更するJava Scriptプラグインを作成し、無料で公開しています。Dark Forestは招待制で、そもそもプレイヤーも2000人程度しかいないため市場にはなりませんが、(プレイ可能な時間も1~2週間ほどしかない) もし数十万人というプレイヤーがいる場合はこうしたpluginも有料で販売される可能性があります。

そして、最も面白く、そして最もComposabilityの重要性を感じる話題が「ユーザーによるPlay to Earn機能の実装」です。これは昨年の5月に行われた実装ですが、COINTELEGRAPH で記事にもなっています。

記事に書いてあることをわざわざ言うのも野暮なので、以下に上記記事の簡単な抜粋を載せておきます。

Players of the decentralized real-time strategy game Dark Forest have introduced new and innovative ways of earning cryptocurrency within the virtual ecosystem.
(分散型リアルタイム戦略ゲーム「Dark Forest」のプレイヤーは、仮想エコシステム内で暗号通貨を獲得する新しい革新的な方法を導入しました。)

This is the first plugin that has its own smart contract that talks directly to Dark Forest. It allows you to broadcast a planet to receive a reward or, if you are in need of extra broadcasts, you can post a bounty to the board!
(これは、Dark Forestと直接対話する独自のスマートコントラクトを持つ最初のプラグインです。惑星を放送して報酬を受け取ったり、余分な放送が必要な場合は掲示板に懸賞金を投稿したりすることができるのです)

Dark Forest praised the plug-in as showcasing the possibilities enabled by decentralization, emphasizing that players — not only Dark Forest’s official developers — can expand the DApp’s gameplay and functionality
(Dark Forestは、このプラグインが分散化が可能にする可能性を示すものだと評価し、Dark Forestの公式開発者だけでなく、プレイヤーもDAppのゲームプレイや機能を拡張できることを強調した。)

“Thanks to interoperability, *new game features* in a decentralized game can be added by anyone, not just the original devs — this is literally not possible in traditional games.”
("相互運用性のおかげで、分散型ゲームにおける*新しいゲーム機能*は、オリジナルの開発者だけでなく、誰でも追加することができます - これは従来のゲームでは文字通り不可能なことです。")
翻訳はDeeplです。課金したらリサーチの速度がエグい上がりました

彼らはロジックとデータを全てブロックチェーン上に設計することによって、構築や拡張といった新たなユーザー体験を生んでいます。またこれは、ユーザーが新たな市場をエコシステム上に作成することを可能にしています。例えば、Dark Forestでは自身の所有する惑星を仮想通貨で売買するマーケットプレイスのpluguinを作成するユーザーがいます。彼は売買をするユーザーから、例えば手数料を取るようなコントラクトを作成できます。もちろんこれは自由市場 (Permissionless) なので、他のユーザーが別のpluginを開発してより安い手数料で提供するかもしれません。

最初の導入でLarsenの言葉を引用したのを覚えているでしょうか。現在のPlay to Earnに足りていないのは「経済的裏付け」である、と彼は主張していました。Dark Forestのようなゲームは、ComposabilityやInteroperabilityを最大化することによりユーザー主体でサービスを構築する可能性を持っており、それらの中には効率的なゲームプレイを実現するものや、アセットの流動性を高めるものなど、実需を生むプロダクトもあるでしょう。

現在はこうした開発者に対しては運営から惑星のNFTが付与されています。まだまだクローズドなサービスで、仮想通貨によるトークン報酬等はありませんが、ユーザーは喜々としてゲームをプレイし、プラグインを開発しつづけています。

No decentralize No Metaverse

さて、前章ではDark Forest上でユーザーができることを解説しました。この章は他の章より一つ小さな見出しにしていますが、それはこの文章の本筋から少しずれるためです。

このDark Forestの魅力はその相互運用性やゼロ知識証明によるオンチェーンでの不完全情報ゲームの実現だけではありません。それはこのゲームが「自律的」なゲーム世界、つまり誰もコントロールできず、ダウンさせることもできないオンライン環境であるということです。

Dark Forestはブロックチェーンのスマートコントラクトのみで構成されているため、Dark Forestの世界に対して攻撃をするには、ブロックチェーン全体のハッキングが必要です。また、運営の悪意によっても破壊されません。

このような"Digital Planet"は「デジタル物理学」が許す限りどんなことでもできる、というのがJustin Glibert氏の主張です。彼はDark Forestのユーザー開発団体で、EFやgnosisからも支援を受ける0xPARCの共同設立者です。先に述べたような、ユーザーのによる自由なゲーム世界の構築はまさにその一例でしょう。

Gilbert氏は、この自立分散的な発展こそが、インターネットの自然な姿であると話しています。既存の中央集権的な組織が管理するメタバースは、ユーザーのインセンティブや自由度という観点で人々が受け入れる可能性が低くなっていくと彼は予測しています。

The problems

この文章を通して私が伝えたいことが読んでいる方に伝わっていればそれに越したことはないのですが、実は今言ったことが「絵に書いた餅」であるということもまた真実です。

一番の圧倒的な問題点は、ブロックチェーンのスケーラビリティです。イーサリアムを始めとしたL1ブロックチェーンは速度が遅く、使用量も高いため、相互に接続された多くのシステムと膨大な数のプレイヤーの動きを追跡しなければならないゲームにとって、理想的なインフラとは程遠いです。(Dark Forestがむやみにユーザーを増やさない理由もここにあります)

そのため、今話したコンセプトを今すぐに実装したとしても、面白く、そしてユーザーをスケールさせられるようなものにはならない可能性が限りなく高いはずです。実際Ethereum上に実装されたフルオンチェーンゲームはWolf Gameなどいくつかありますが、ほぼ賭博といって差し支えない程度の非常に簡単なゲームシステムなものばかりです。

Conclusion

この文章では、"Dark Forest"というゲームを例に挙げて、今市場で勢いのあるゲームでは見ることのできない「ブロックチェーンを使う意味」を解説していきました。

Dark Forestはゲームのロジックとデータをブロックチェーンに置くことによって、ユーザーのゲーム体験の自由度と市場参加機会を最大化しています。正確には市場機会というほど大きなユーザー数を持っているわけではなく、どちらかといえばユーザーの善意に依存している事実はありますが。

ゲームにブロックチェーンを使用する意味は、トークン報酬でユーザーにインセンティブを与えるというだけではなく、相互運用性を利用してユーザーがエコシステムを拡大させたり、ゲームの体験を改善していくことができるようになることも含まれます。


あとがき

この記事を後輩に見せたら???という顔をしていたのですが、10分間の議論の後に理解してくれて「おもしれ〜」とも言ってくれました。多分冷静に考えて伝わらない文章を書いてしまったなあと思います。文章の構成とか間違えた気がする。次回以降気をつけます。
なのでもしわからないですという方がいたら、一緒に議論しましょう。
また、逆にこのComposabilityを使って外部ユーザーに市場機会を提供するシステムにめちゃくちゃ可能性を感じている人等いれば是非ご飯行きましょう。多分同じようにあんまり理解されない (理解してもらうように言語化するのが難しい) という課題を感じていると思うので。

Reference

https://jp.cointelegraph.com/news/nft-gaming-trends-in-2023-industry-execs-expect-more-big-players-to-jump-in

https://www.youtube.com/watch?v=-91DRVP__m4&t=2043s

https://zkga.me

https://plugin.zkga.me/

https://www.youtube.com/watch?v=vMwnVLJ8Yyo

https://cointelegraph.com/news/community-members-integrate-play-to-earn-features-into-dark-forest-game


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