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30_海に囲まれた「教育の島」へ

庭の草木の生存確認が日課になった7月。秋の花コスモスが咲き始め、イチジクの木が仲間入り。青紫蘇とミントがわさわさと茂り、食べ放題飲み放題取り放題。蝉、トンボ、蝶、蜂がやってきて、隣家の田んぼには鷺の群れ。時々カエルの大合唱。相変わらず賑やかな毎日。

「山」に囲まれた場所で食農教育を始めて9年目の今年、ついに「海」に囲まれた島で食を考える機会がやってきた。

大崎上島町へ

大崎上島町は瀬戸内海・芸予諸島のいくつかの島々からなる離島のまちで、2024年7月現在人口6,600人ほど。その中心となっているのが町名になっている大崎上島。島には橋がかかっておらず、島への入口は船になる。

往路は愛媛経由、復路は広島・岡山経由で

広島経由を予定していたのに、出発直前にとんだ勘違いから愛媛ルートに変更し(…猛省…)愛媛県大三島まで行ったものの、大三島から大崎上島までの陸路はなくフェリーのみ。フェリーの便数も極端に少ない。ドギマギしながら港に向かったけれどラッキーなことに1時間後に乗船できるフェリーを確認。ちょうどお昼時で近くの飲食店を巡るも立て続けにフラれる。行き着いた食堂でどんぶりをかき込み、急いで港に戻って乗り込み完了。ホッとした(泣)。乗船時、スタッフに誘導されるままに車を進めたら、まさかの後進での乗り込み。これにもかなりドキドキした。

車を後進させてこの位置に駐車。そのまま出航。

余裕って、だいじ。肝に銘じます。


気を取り直して。
今回の目的は一般社団法人まなびのみなとさんが主催する「食のフォーラム」(12月開催)に向けたミーティングへの参加。

昨年10月に神山町でひらいた「School Food Forum」に、今回の主催者神田さん円光さん、そして岩崎農園の岩崎さんがご参加くださって、大崎上島町でフォーラムを開く予定があることはお聞きしていた。その時が早くもやってきて、島内の農家、役場担当者、栄養教諭、コーディネーターの方々と作戦会議のようなミーティングが開かれるとのこと。一事例として私たちの取り組みを紹介させてもらった。

到着時刻が大幅に遅れたけれど…、ミーティング前に神田さん円光さんに島内を案内してもらった。

かつては〝海賊の島〟でもあったというこの島の一大産業は造船業。大きな造船所がいくつかあり、それぞれ得意とする造船のタイプが異なるのだと聞いた。車窓から見た木造5階建ての家屋(おそらく現在も居住されている民家)は、1階から4階付近まで同じ幅で積み上げられている珍しい構造。造船を手がける職人さんがその技術を用いて建てられたと聞き、とても興味深く眺めた。

まちのスーパーへ。
店主さんは高校の寮の食材調達も担っている方。話題のトマトのクラフトビールを入手し(昼から飲んだわけではない)、アイスをいただいた。円光さんや神田さんは行く先々で地域の方々と近況報告がてら話を交わしている。

スーパーの一角に子どもたちからのメッセージ


大崎上島町には小学校が3校、中学校が1校。中学卒業後、島内にとどまる生徒は3割ほどで、7割くらいの生徒は島外に出ると聞いた。

2015年以降、広島県立大崎海星高校では魅力化プロジェクトの流れで島外からの生徒を迎える動きが生まれ、2019年には広島県立広島叡智学園(中高一貫校)が開校。創立120周年を越える国立広島商船高等専門学校を含め、全国から集まった生徒や学生が多く暮らしている「教育の島」。


高校の魅力化プロジェクト

人口減少と少子高齢化で進む地方の学校の統廃合。
2014年に統廃合対象校となった大崎海星高校は、広島県から「5年以内に生徒数80名以上」という存続条件が課され、魅力化に着手している(当時の生徒数は67名)。

町長が「教育の島」構想を掲げ、地域コーディネーターを配置。「仕事図鑑」の構想、さらには総合的な探究の時間「大崎上島学」が始動し、結果として2017年には生徒数が目標を越える88名まで増加した。県外からの入学者も迎え、2019年には教育寮も開設。

大崎海星高校発「仕事図鑑」


案内していただく先々で、高校生の活動の跡を見ることができた。
カフェの商品開発。小学生から高校生までが入り混じって勉強する場所。まちの大人と一緒に高校生が進めている探究プロジェクト。それぞれの「想い」が聞こえてくる仕事インタビュー。

店主が「この島でしか作れない」と話していたカレー


小学生対象の食のプログラム「SHIMAキッチンの時間」にも、高校生が関わっていた。高校生らの小学生への声かけは、地域コーディネーターが高校生に日頃接している姿と重なるんだろうなぁと思えて、温かい気持ちになった。伝播するよね。


まちに根ざす食と職

ミーティングの話に戻すと。
神田さんからの声かけで集まった農家、栄養教諭、役場担当者、そして高校コーディネーター、みなさんの熱量がすさまじく…「やってみたいこと」でホワイトボードは埋め尽くされていくし、会の終わりの時刻がきてもまだまだ話し足りない感じ。
12月のフォーラムまで、その熱量をつなげていくなにかをやってみたい。

左:神田さん

海に囲まれたまちに根差した人々の暮らしがここにはある。
小売店が存在しているのは島ゆえのあり方なのだろうなと思うし、文具店、書店、喫茶店のような場所は「仕事」が見えやすい。子どもたちにとって、ひとの働きがよく見える環境。抱く大人像も多様で豊かになってくるんじゃないかな〜なんてことを思った。

島の仕事図鑑、とても良い◎


神山校と食と農

神山校の1年生で取り組んでいる「聞き書き」も、ちゃんと見える形でアーカイブできていくとすごく貴重な資料になるよなーなどと思いつつ。

まちの風景をつくる高校」の森山さんと、NPOのネクストについて話している。今回、大崎海星高校の魅力化プロジェクトを肌で感じられたこともあり、改めて、城西高校神山校のプロジェクトの特長が言い表せないものかと考えてみたり。

あたらしい試みが次々と生まれ、つながり、子どもたちは成長していく。私たちが「未来」だと思っていた光景はすぐ目の前にきていて、待ったなし!

先日、神山在住または出身の10代の子たち5名に「最近、どう?」などと近況を聞いた。
そのうちの一人は神山校を卒業し、神山町内の農家でのインターンを経て「神山町で農家になる」と話している。力強い言葉で話しているのがとても頼もしくて、嬉しかった。9年前、わたしたちと一緒に初めて田植えと稲刈りをした5年生の今の姿。

「教室での学びが社会と地続き」であるとはどういうことなのか。そこには常に敏感でありたいと思いつつ、教室の中で授業をしていない私たちから、学校における学びに対してどんなアプローチが可能なのかはこれまでなかなか見えてこなかった。具体的に手に取ってもらえる「もの」としてイメージできなかった、ということ。
先週、森山さんとのミーティングで「言葉を極力省く/説明的にならない」という方法をとり、その「もの」を活用できる状況をつくることで私たちの大切にしたい活動を表現できるのではないか、という話になって、これまで積み重ねてきたことを土台にいろんなことが納得感をもってつながりそうだと思ってる。(なんのことだかさっぱり伝わらないと思うが書いておく)

海をたくさん見たせいか、泳ぎたくてたまらん。

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