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02_農体験は、まちの風景への解像度を高めるポテンシャルをもっている

新年度が始まり、設立イベントが終わり、あぁほんとうに始まったんだなと思いながら過ごしている今日この頃。田植えの季節になりました。
杉本恭子さんからのお題から書くNPO、第2回目です。

杉本恭子さん(フリーライター)
わたしとの出会いは「かみやまの娘たち」の取材。恭子さんのインタビューを通して「子ども時代の原体験は今につながる」ことに気づかされ、行き当たりばったりな自分を少し信じられるようになった気がしています。
著書に『京大的文化事典 自由とカオスの生態系』(フィルムアート社)
<恭子さんからのお題>
いま、まちの食農NPOは何をしようとしていて、樋口さんはどこにわくわくしていますか?

今回は「わくわく」と「学校食」の現在地を書いてみようと思います。

実体験を通して獲得した学びは感覚として残る

NPO設立のきっかけでもあり、わたし自身のターニングポイントでもあったのが「農体験をして風景の見え方が変わった」と話した中学生の言葉でした。一度自転車に乗れるとずっと乗り続けられるように、実体験を通して獲得した学びはその後もずっと感覚的にあり続けるもの。周囲の風景を意識し始めた中学生の言葉から、農体験がまちの風景への解像度を高めるポテンシャルをもっていることがわかったエピソードでした。

「穀物や野菜を育てる」って、簡単ではありません。条件による変数も大きく、種をまいても芽が出ない、水をやっているのに育たない、大きく育っているのに実がつかない…など想定外は次々とやってきます。ベテラン農家でさえ「気候変動もあって経験値だけでは対処できなくなってきた。何が正解になるのかわからないから、毎回よく考えながらやっている」と言います。何より大事なのは「毎日よく観察すること」だそうです。

先日、2年生の子どもたちと種まきをした時のこと。きゅうり、なす、落花生、オクラ、ゴーヤ、トマト…それぞれの種をよく観察して植えたあと、ミニトマトの実を割り種がたくさんあることを確認しました。

ミニトマトの「種」に注目

その日の給食の時間、おかずの中からきゅうりの「種」を見つけた子どもがいたと聞きとてもうれしく思ったものです。「気づきを促すプログラム」という言葉は NPOの理事ミーティングで出てきた言葉ですが、プログラムを通してあたらしい気づきが生まれる瞬間を見聞きできることが一番のわくわくです。見たい!聞きたい!なぜ?どうして?のスイッチが発動する経験をたくさん重ねたいなぁと思います。

種がついたまま発芽している様子を見て「ほら、種からこんなに…!」と2年生の子ども

やってみたいことはたくさんありますが、動ける人員と資金が限られており、優先順位をつけながら進めていかざるを得ません。まずは町内の「学校食」プログラムをかたちにしていくことから始めます。

「学校食」プログラム(Community Supported School Lunch)

新しくつくろうとしている「学校食」プログラムとはどういうプログラムなのか。その経緯と現在地をお伝えします。

文部科学省の2018年の調査によると、給食実施率は小学校で99.1%、中学校で89.9%だそうです。多くの日本人の共通体験である「給食」から子どもたちの食環境へアプローチできることはまだまだありそうです。

2022年度から Food Hub Project(NPOの元会社)と関連会社の モノサス社食研 が神山町の給食調理業務に携わることになりました。これまで以上に給食について見聞きできる範囲が広がり、農体験だけでなく食育だけでもなく、連続した「育てる、つくる、食べる、つなぐ」食の学びを実装していける可能性が見えてきました。そこで、農体験・食育・給食の3つの活動を一体的に捉えた枠組みを『学校食』と名付けました。

農体験+食育+給食=『学校食』

Community Supported School Lunch」を合言葉に、地域の農業、食材調達と流通の仕組み、調理オペレーション、教育プログラムが関連しあい、給食の教育的価値を高めていくことが「学校食」プログラムの目的です。NPOの役割は、食育を担う栄養教諭と連携を図りながら「学校食」のプログラムを体系化していくことです。

「学校食」推進の座組み

教育委員会の協力体制のもと、関連会社のメンバー(フードハブ/モノサス/NPO)で一体的に取り組めることは大きな強み。地域のつくり手、農業、食、風景が子どもたちにとって身近な存在となり、一次産業のよき理解者が育っていく状況をつくっていきます。

以前、町内で勤務している中学校の先生から聞いた「多くの生徒が将来就きたい職業に『先生』と書いていて…」いう話はとても印象に残っています。世の中にあるたくさんの仕事を知らずに選択せざるを得ない状況をどうにかしたい、という話だったと記憶しています。農体験を実施した小学校の先生からは「農家になりたい!」と宣言した2年生の子どもに、周囲の子が「かっこいいなぁ〜!」と声をかけた話とともに「キャリア教育の側面もある」という言葉もいただきました。「(農業を)継がせたくない」という親世代の声も聞きますが、生き生きと働く農家(や他の大人)の姿を見ながら、子どもたちが大人になることを待ち遠しく思えるといいなと願っています。

今年度、神山町内の小学校ではもち米の栽培(広野小・神領小5年生)、夏野菜の栽培(神領小2年生)が始まりました。6月には、大豆の栽培(神領小3年生・広野小1〜3年生)と支援級(神領小)のさつまいもの栽培が始まります。新しく、朝顔の土づくり(神領小1年生)も実施しました。町内で農業を営んでいたり園芸に携わっている方々にご協力いただき、ファームティーチャーとして授業に関わってもらっています。

1年生 朝顔の土づくり:河野宏吉さん(園芸農家)と子どもたち

神山町の保護者からは「子どもが『毎日給食がおいしくなっている』と言っている」「(これまで見ることのなかった)献立表を楽しみに見ている」などの声も聞こえてきます。わたしも、これまで以上に「給食」が身近に感じられるようになっているところです。

近々、調理現場にも入って「給食」を体感したいと思います。

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先日高校生が収穫した神山小麦。麦わらは小学生の畑で活用させてもらいます!