2つの課題を解決する新しい職人養成学校の胎動② 〜志教育の重要性と建築業界の抱える課題〜
このnoteでは建築業界の喫緊かつ重大な問題になっている職人不足と、近年社会問題化している学生の不登校、学歴マイノリティーの増加の両方の課題の解決を目指す新しい職人高等教育学校創設のプロジェクトについての構想と進捗を公開すると共に、広くご意見を募る場として設定しています。昨日の記事はこちら、
志を立てる教育の必要性
昨日は新しい職人高等教育学校を立ち上げようと考えるに至った経緯と理由を書きました。その中で私がこれからの教育に最も重要だと思っているのは、学生に対して志を立てさせることです。これまでも職人見習いとして働きながら通信教育の高等学校に通学する学生はいましたし、現在もそんな形で働きながら高校卒業を目指す若者はいると思います。私が代表を務める株式会社四方継でも数年前にその様な若者を受け入れていました。その彼は結局、全日制の高校に転籍して学業に専念する事になり職人と違う道を模索する事になりました。人生の選択を見直し、リセットすべく職人見習いを辞めたその彼を見ていて私が感じたのは、一人前の大工になりたいと言って入社して来た彼は、心底そう思って進路を決めたのでは無く、消去法で大工を選び、私をはじめ周りの大人に高校くらいは出ておけと勧められて通信高校に入学したのだという事です。何がしたいのか、どんな人生を歩みたいのかとの目的や目標を固めないまま社会に出ても結局、遠回りをしたり、思うような幸せで生き甲斐のある人生にならないと思うのです。学生の時に志を立てる機会を与えることで、目的や目標を見定めることが出来れば、彼らの人生は大きく変わると思うのです。
Wスクールの問題点
彼が利用したのはいわゆるWスクールという制度で、週に一度、学校に通いながら、その他の日は現場で見習いとして働きながら技術を身につけて高校を卒業する頃にはそれなりに戦力として活躍出来る様になると言うものです。私が感じた問題は学生の身分でありながら、殆ど毎日、大工見習いとして働いているので学業は最低限の単位が取得出来る程度しか行わず、現場で働くのも一日だけですが毎週平日に学校に通うので、職業人としての自覚を持ち切らず、職人の修行をしているとの感覚にならないまま、腰掛的な働き方になってしまいがちだと言う事です。また、同級生は皆学生なので遊びたい盛りでもあり、仕事に打ち込みにくい環境でもあります。もちろん、指導する立場にある私達事業所がしっかりと導けていないのも原因のひとつではありますが、教育係の先輩大工も扱いに戸惑いがあると言うか、学生だと思って遠慮してしまったり、学生アルバイト気分の若者に対して一般の見習い職人と同じ様に接せずに一線を引いてしまっているように見受けられました。通信教育を受けながら働く若者のこの中途半端な立場、立ち位置が大きな問題だと思うのです。
志×技能×高等教育の新しい学校
Wスクールは学生でもない、職人見習いでもない、どっちつかずの両方腰掛けの中途半端な立ち位置になりがちです。しかもそれを選択する若者は能動的にその様な働き方、学び方を選択していない事が大半で、目的も目標も持たないまま無為に3年という大切な時間を過ごしてしまいます。これでは二兎を追う者は一兎をも得ず的な結果を招き、折角の働きながら高卒資格を取得出来る制度も良い方ではなく、どっちつかずの悪い面が表面に現れてしまいます。私は自分自身が中卒であることで随分と人生の選択肢が限定される経験をこれまで積み重ねて来ました。大人になってから専門的分野で学び直したいと思ってもまず大検なる高校卒資格の検定を受けなければならず、諦めた経験も少なからずあります。高校進学率が約99%になっている現代、社会に出てくる若者には高卒の資格くらいは最低限持っていて貰いたいと思うのです。そんな想いから、Wスクールの制度をもっと本質的な学びの場にするスキームが組めないかと考えを巡らせました。その結果、辿り着いた答えは、私が職人起業塾で教えている、社会人として最も重要な志を立てること、信頼を得られる人になるために在り方を見直すことなど、ビジネススクール的なカリキュラムと技能実習、そして高校卒業資格を得られる通信教育を全て包括した新しいキャリア学校として創設する構想です。
人生の選択肢を広げ、夢を持てる学校教育
入学時に、学生に対しても受け入れ先の企業に対しても3年間分のカリキュラムを提示して、ビジネススクールの座学も現場での技能自習も通信教育の単位取得も計画的に行うようにすれば、上述した中途半端な立ち位置ではなく、明確に3年間で即戦力に準じた人材に育てることができます。また、受け入れ企業側の人事制度を整備して卒業後のキャリアプランを当初から明確に示すことで、学生も未来が見えるようになり、明るい未来を標榜しながら、熱心に学べる環境が整うと考えています。そもそも、建築業界の現場実務者、職人になる若者が皆無になっている今、職人として働いたところで、行先は高が知れているとの諦めや先行きの不安感を払拭することが必要です。3年間の学生生活を終えた後、職人として五年程度働けば、それなりに豊富な現場での経験も身につけることができます。現場で得た知見はこの業界では非常に貴重で重宝されます。その先には、建築士の資格を取得して設計士や施工管理技士、また住宅営業マンとしても大いに活躍することができますし、事業所内での役割を広げ、マネジメント層に入って事業の運営を担うことも可能です。一つの道を極めれば多くの選択肢が手に入ることを入学時から示し、カリキュラムの進捗に合わせて成長の度合いを確認すれば、迷いも少なくなると思うのです。
受け入れ企業側の課題解決
ここで問題になるのは、建築業界の事業所が就業規則、キャリアプラン等の人事制度の整備があまりなされていないことです。また、現状では職人を正規雇用して育成している事業所自体も非常に稀な存在であり、それらの部分の課題をまず学生を受け入れる企業側で解決して、学生が安心して入学、そして就職できる体制を整える必要があります。そこで私が考えたのは、本業を通して社会課題を解決することにコミットした事業者ばかりが集まり、実践を通して社会から「良い会社」だと認められるように熱心に学び、活動している経営実践研究会のスキームを活用して、単に収益をあげるだけではなく、ガバナンス、地域、社会、環境、ステークホルダーに対して配慮した社会課題解決型ビジネスモデルの指標を示し、一般社団法人日本未来企業研究所が認定を行っている未来創造企業の認定取得を推奨することです。その上で、私たちが長年運用してきたキャリアデザインの仕組みなどを提供して人事制度の刷新を図ってもらい、職人がやり甲斐を持って働ける環境づくりをサポートします。
今、金、自分が良ければ良いとの行き過ぎた資本主義から脱却して、地域や社会から共感を集めることを資本にする三方よしのビジネスモデルを目指す企業こそが若者を大事に育てると思います。職人を道具のように扱うのではなく、誰しもが持っている人としての才能とそれを生かすことの効果性を見出すことで、人材育成を含めた持続可能性の高い循環型のビジネスモデルへとシフトできると思っています。若者に志を持ってもらう前に、まず、経営者に高い志を掲げてもらうことが必要だと思うのです。
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新しいキャリア学校の構想を経営実践研究会兵庫定例会で発表します。ゲスト参加大歓迎なのでご興味がある方は是非ご参加ください。
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