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大丈夫です!の怖さとリスク

私が大工見習いとして建築業界に飛び込んだ30年ほど前から、木造住宅の業界では効率化と省力化、工期短縮を目指す流れが一気に加速して、プレカットと呼ばれる大型機械による柱や梁などの構造物の加工が一気に普及しました。それまで大工が墨付けをして鋸や鑿を使って手刻みをしていたのがほとんど行われることがなくなり、工事期間の短縮と引き換えに大工の技術は随分wr失われました。現在では新築の木造住宅の97%はプレカットによる加工だと言われています。

手刻み技術を身に付けたい若者たち

それでも小規模な増築工事などでは弊社でも今でも手刻みをすることもあり、一人前の大工と呼ばれるには墨付けや手刻みの技術を一通りは習得しておくべきだと私は考えています。それは、大工になりたいとこの業界に飛び込んできた若者たちも同じように思っているようで、私が昨年から2ヵ年計画で講師を務めている若手大工育成塾に参加している若者たちに前期の終了時に来年度の研修内容の希望を聞いたところ、昨年実習研修で建てた小さな小屋を手刻みでリメイクをして作り直してみたいとの要望が出ました。せっかくの機会なのでやりたいことをやらしてあげて、足りない技術を習得させるべく、今年は構造を組み変える設計から墨付けと手刻みの実習研修を行っています。

高いモチベーション

自分たちでやりたいと言った研修だけに、彼らにはやる気も見られ事前に平面図、立面図や床組の伏図を描いてくるなど、事前準備をしっかりとしているように見受けられました。新卒1年生が多かった昨年とは少し違うな、と思いながら、墨付け加工に入る前に注意点等を少しレクチャーして、作業内容を詳細にイメージできたとの確認を取り「大丈夫です。」との声を聞いてから現場実習に入りました。昨年の実習研修で建てた小屋は建坪6坪ほどの2階建ての小さな建物で、それを平屋にして屋根形状を変えて低いフォルムのかっこいい小屋に作り変える計画はそのまま使える材もあり棟上げまで三日間の工程でできると彼らも自信をのぞかせていました。中には作業の前日に図面を頭に叩き込むために夜中の2時まで図面とにらめっこしていたと言うものもいました。

大丈夫か?

しかし、自分たちで考えた建墨付けし、刻むはじめての体験はもちろん思う通りに行くはずもなく、特に、新しい材料を刻むのではなく、古い建物の材料を活かしながら新しい建物にコンバージョン、加工し直すと言うのは小さな建物とはいえ、かなりハードルが高い作業でもあり、いざ現場実習が始まるとうまくいかないことだらけ。特に、墨付けを担当する者がすぐに手を止めて図面とにらめっこしながら考え込んでしまいます。私が行う実習研修のスタイルは事前に座学で理論や小割にした作業工程の内容を解説し、現場では自分たちで考えて作業が出来るように頭の中でイメージを作らせてから取り掛かってもらいます。もちろん、現場で質問があれば答えますし、間違った作業をしていると指摘もしますが、基本的には現場に入ったら自分たちで考えて作業を進めるようにしてもらっています。しかし今回は「大丈夫か?」と珍しく何度も繰り返し訊くことになりました。

簡単なのに難しい

木造の建物の構造は実はそんなに複雑ではありません。土台の上に柱が立ち、その上に梁がかかり、束を立てて屋根を支える母屋を乗せる。二間(3640mm)四方の小さな建物は図面上で整理をすると非常に単純で簡単な構造です。しかし、現場でいざ加工作業を行おうとすると、混乱し迷走し、迷い手を止めてしまいます。私が「一番初めに材を仕分けして整理してから作業に掛かる様に」とアドバイスしたのもすっかり忘れて、あれもこれもと手をかけて、結局訳が分からなくなってしまいました。何度も「大丈夫か?」と声をかけて問題を聞く度にそもそもそんなに難しい構造では無いので、整理して説明すると「もう大丈夫です。」と自立心を出して作業を再開するもまた直ぐに手が止まってしまうのを延々と繰り返しました。現場で現物を見て作業するのはやっぱり難しいのです。

若手の職人が学ぶべきこと

今回、彼らが経験している事は大工をやっていると必ず通る道として、誰もがやってしまう失敗のオンパレードです。研修ではいくら失敗しても構いませんが、実業での現場となるとそうはいきません、施主の夢をかなえる高額な建物を作ると言うのは、非常にやりがいのある仕事ではありますが、大きなリスクも背負っており一切のミスが許されません。それでも、初めて現場を任される日が若者たちも必ずやってきて、その度に先輩や上司からきっと大丈夫か?と聞かれます。私が実習研修で彼らに最も学んでもらいたいのは、大丈夫でもないのに大丈夫と言ってしまう事の怖さと自分たちの技術の低さのレベルを認知してもらうことであり、失敗を繰り返すことに悔しさを覚え、それをバネにして技術や知識の習得に励んでもらいたいと考えています。その意味では今回の研修は非常に有意義なものになったと確信を持てました。まだまだ失敗のオンパレードは続くと思われますが、小さなかっこいい小屋が組み上がるのが今から本当に楽しみです。

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未来を担う若手職人にの育成を心と技術と在り方の学びを通して行っています。

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