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誰もがスルーしてきた職人不足問題の根本解決の提言

先日、JBN(全国工務店協会)の代議員総会が2年ぶりに東京で開催され代議員として参加してきました。基調講演としてお決まりの国土交通省住宅局の課長から今期の住宅政策の紹介と最新のデータ分析からの今後の業界動向についての説明があり、少子化、人口減少による住宅需要減、空き家の増加と、従前からの流れではありますが、建築事業者には今後、非常に厳しい状況が進行するとの見方を示されました。そして、更に圧倒的な危機感と危惧、状況が切羽詰まってきていると口にされたのは職人不足問題です。
その裏付けのデーターとして国土交通省発表の資料も以下にアップします。まずは国土交通省で2020年に「建設業の一人親方問題に関する検討会」を設置して偽装請負 としての一人親方化の進行が、技能労働者の処遇低下に加え、法定福利費等を適切に支払っていない企業ほど競争上優位となるという問題のグラフから。

出典:建設経済レポート No.73©RICE

誰もが見て見ぬふりを決める建築業界壊滅の危機

これまでの30年間、建築職人は減少を続けると共に圧倒的に若者から忌み嫌われてしまいました。職人は離職者が後を絶たずに高齢化が加速して、しかも若者は全く業界に入職してこない。このままでは500兆円市場と言われる日本の基幹産業とも言われる建設業界は立ちいかなくなるどころか壊滅してしまいます。現場従事者の人口推移を見ていると後10年も経たないうちに全体の32%と言われる50歳後半以上の職人は引退し、いくら受注を積み重ねていたとしても予定通りに工事が出来なくなり、売り上げが激減してしまうのは自明。当然、事業の継承など出来なくなり廃業に追い込まれる事業所が続出します。これらは建築業界にいれば誰もが常識の様に分かっている事ですが、根本的な解決に誰も取り組まなかったし、問題に正面から向き合うことさえやめてしまいました。業界全体として今だけ、金だけ、自分だけ思考に陥ってしまったと言っても過言ではありません。

建設就業者の現状

職人不足解消は職人の地位向上から

元大工で職人の地位向上を志に掲げて起業した私は、職人不足の解決は職人自身が自助の精神を持ち、自ら守られるべき人材になる様に付加価値を生み出せる様になるべきだし、それしか解決の方法は無いと考え20年間職人育成に取り組んできました。見習いの若い職人を採用し、職人として活躍出来る様に育てるのはもちろんですが、その先には現場のリーダーとなり、事業所のマネジメント層に成長してもらう事で職人は作業人ではなく、付加価値を生み出す知的労働者に成長します。その結果、現在、私が代表を務めている株式会社四方継では社歴15年くらいの大工と設計のメンバー5名に対して事業承継を行っています。これからは全員が経営者になり、誰に指示命令をされるわけではなく、自分たちで主体的に働き方を決め、それぞれの特性を生かして持続可能な事業となるプロジェクトを進めています。しっかりと環境を整え、教育と実践の運用ができれば、職人は単なる肉体労働者ではなくなります。決して職人は地位が低い職業ではないのです。これが、職人不足の根本解決、職人の地位向上への唯一のアプローチだと考えています。その様な視点から現在、私達は職人不足問題の根本的解決の為にWスクール制度を活用した職人育成の高校を作る構想を進めています。

建設業の大量離職の見通し

ガバナンスの見える化

職人の地位向上には教育と未来を描けるキャリアシステムが必要です。そしてそれを叶えるのは事業所であり、他業種と比しても遜色の無い人事制度をはじめとするガバナンスを整える必要があります。しかし、企業の内部統制は外部から非常に見えにくく、規則や制度が整っていたとしても適正に運用されているかは別ものです。職人不足問題解決にはその部分の見える化が不可欠で有り、第三者による認証を受けるべきだと考えました。良い会社の認証を行う機関や団体は数多くあります。様々な認定基準や認証制度を調べて見た結果、その中でも最も明確にエビデンスとして示せる基準が未来創造企業の認定だと確信を持ちました。これから立ち上げる高校、その卒業生を受け入れる事業所には未来創造企業の認定取得を必須項目の条件として付加する予定にしています。建築事業所の多くが85項目にも上るチェック項目をクリアして自社と顧客だけでは無く環境や社会、地域にも配慮した持続可能性の高い会社だと認証される様になる事で建築業界のイメージが刷新される事を目指したいと思います。

若手技術者が離職する原因

情報の共有とリテラシーの向上

日本最大級のシンクタンクである日本総合研究所の監修で作られた未来創造企業の認証は現在、未来企業研究所の活動母体である一般社団法人経営実践研究会で基礎的な学びと情報取得をされた事業所しかエントリー出来ない規定になっています。未来創造企業の認定を受ける為には経営実践研究会で持続可能な社会の実現に向けての学びと実践を行う事が要件になるのですが、これが実に意味のある事だと思っています。閉鎖された業界の代表と揶揄される建築業界では近年、如何に利益を上げるか、どの様にして集客するかなどのやり方の情報を取得する事ばかりが注目され、地域あっての事業所との地域と共に共生して存在意義を高める在り方についての学びの場が殆ど皆無と言っても過言で無い状況です。世の中がソーシャルシフト言われる社会課題解決型のビジネスモデルへの変革進む中、建築業界もビジネスモデルの刷新を行うべきで、その観点から見ると経営実践研究会での活動は大きな気付きを与えてくれるのは間違いありませんし、全国に広がるヒューマンインフラを活用出来れば私達の取り組みは早期にスケールする可能性があります。

根本解決の糸口

これまでの30年間、全く解決の糸口を見出せなかった職人不足問題ですが、本質に立ち返り、教育と育成、事業所のガバナンス整備を進めることで職人が安心してやり甲斐を持って活躍出来る環境が整い、職人の地位向上が進みます。若者から忌み嫌われる業界から抜け出せる可能性があります。そして職人を育成する建築事業所が目先の利益に振り回されるのでは無い、持続可能性を追求するビジネスモデルへの変革を進めることで業界全体が誰から見ても文句ないくらいの「良い会社」へと変容したら、根本的な問題解決に繋がる可能性があると考えています。未来を見据えて未来を創造したいと志す方々と共に建築業界最大の課題である職人不足問題の解決に歩みを進めて行きたいと思っています。

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職人の地位向上と建築業界から派生する社会課題の解決に取り組んでいます。

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