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聴き手と紡ぎ手 〜設計士と大工の役割について〜

今日は朝から滋賀県大津市での地鎮祭に参列。神戸から少し離れた滋賀での地鎮祭の設営は紡ぎ手(社員大工兼現場担当)のよーへーが草刈りからテントや紅白幕の設まで事前に取り仕切ってくれていました。
クライアントが一目惚れしたと言われるパワーを感じられる明るい土地でのお祭はとても気持ちよく、清々しい気分になりながらこれからの工事の安全とクライアントご一統様の益々のご健勝、ご多幸を祈りました。地鎮祭を終えた後は、聴き手(設計担当)のみまを中心にこれから始まる建築工事の内容確認の打ち合わせ。私たちの提案に耳を傾け、事業の方向に理解を示して全てお任せ頂くクライアントとの時間は本当にありがたく、打ち合わせ後に昼食をご馳走になる等、至福の時間を過ごすことが出来ました。いつもながらのご厚意とお心遣いに心から感謝すると共に建築の実業でキッチリとお返ししなければと胸に刻みました。

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聴き手と紡ぎ手

上述したように、私たち株式会社四方継の建築事業部、つむぎ建築舎では設計士を「聴き手」、大工を「紡ぎ手」と呼んで、案件に対して2人の担当がセットで設計と施工を進めています。名刺にもその肩書きが書いており、随分変わった呼称ですね。と言われることも少なくありませんが、事業の目的に沿った本質的な業務を担ってもらいたいとの想いを込めて、全員で話し合ってその様に決めました。
今回、オフィスの新築工事をお任せ頂くクライアントは元々、私が台湾に事業展開して頻繁に台北に渡っていた時にひょんなご縁を頂きました。台中で数多くの飲食店、日本国内では人材派遣などの幅広い事業を展開されている事業所の経営者さんで、当初はfacebook上で紹介頂いた程度の薄い関係から始まりましたが、その後、徐々にお付き合いが深くなり台湾、日本を問わず、いろんな物件のご相談を頂く様になりました。今では店舗やご自宅、オフィスの新築工事を繰り返しご注文頂く様になっており本当にご縁に感謝するばかりです。本日、スタッフたちと一緒に地鎮祭や打ち合わせ、昼食をクライアントとご一緒させてもらう中で、こうしてひょんなご縁が繋がって、圧倒的な信頼関係を結んでワクワクするような面白い仕事をご一緒させて頂けるのは、私の力ではなく聴き手、紡ぎ手が誠実に、真摯に役割を全うしてくれているからだと改めて感じさせられました。その呼び名に恥じない仕事をしてくれたからだと思ったのです。そんな私たちの事業を支えてくれているスタッフの呼称について以下に書いてみたいと思います。

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提案の為に聴く

「聴き手」とはその名の通り、クライアントの声に真摯に耳をから向ける、傾聴するのが仕事の中心であるとの意味です。ただ、建築設計の世界では聴くのは要望だけでは無く、その奥にある本質的な願望でなければなりません。クライアントに言われたままにプランや見積もりをするだけでは決して良い建物は出来上がりません。クライアントが求めるモノやコトを不覚理解した上で、建築のプロフェッショナルとして最適な提案を行う必要と責任があります。設計、プランニングのスキルはもちろんですが、幅広く素材や工法、法律等も把握している必要があります。実はここ10数年で建築業界は大きな変化を迎えており、建築基準法施工令も性能基準義務化の法改正が決まりました。10年後に価値を認められる建物を建てるには常に最先端の情報を入手し続け、将来を見越した提案が出来なければなりません。非常に難しく、完璧に役割をこなすにはとてもハードルが高い仕事であり、ただ聴いたことを図面にまとめれば良いという単純な職業ではありません。聴き手という呼称は、クライアントの表面に出てきていない願望を汲み取り、最適な提案ができる様に「聴く」仕事であるとの意味が込められています。

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建築は目的にはなり得ない

「紡ぎ手」は大工兼施工管理のスタッフを指すのですが実はそれだけではなく現場が着手した後は聴き手から引き継いでクライアントの窓口を努めます。大工はモノづくりの中心的な役割を担う職であり一般的には「作り手」と呼ばれますし、その方がしっくりくるかもですが、そうではなくあえて紡ぎ手と呼ぶ様にしたのは、一般的な大工とは目的が違うからです。紡ぎ手は設計図書に示された建物を忠実に作ることはもちろんですが、その先にあるクライアントの暮らしに焦点を当て、工事を終えて完成引き渡し後も顧客満足を維持し続けて信頼関係を継続することこそが目的であり、そのためには現場でクライアントの立場に立ったコミニケーションを行ったり、現場ならではの提案をする必要があります。図面通り、決まった事を決まった通りに工事を行うのとは根本的に目的が違います。現場でリアルに信頼を勝ち取り、ご縁を紡ぎ関係を強固にする事こそが紡ぎ手の仕事です。

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結局、現場が全て

私たちは建築の仕事を通じてクライアントの夢を叶えたり、課題を解決したりを積み重ねて信頼の輪を少しずつ広げ、四方良しの世界を実現することが事業の目的と定めています。しかし、そんな概念を声高にいくら叫んだところで全く意味はありません。重要なのはその理念を日々の業務に落とし込んで実践できているかどうかであり、毎日の仕事は全て手段であり、目的はあくまでもクライアントも自分たちも、関係するステークホルダーもそして地域経済や環境も良くするためです。その目的意識を強烈に持ってこそ初めて建築の仕事に意味と意義が生まれ、私たちの存在意義が見出されると思っています。初めは細く薄いご縁をお付き合いを重ね、信頼を得るにはとにかく現場で結果を出さなければなりません。その部分に関しては経営者の私ではなく、完全に実務者の意識と行動に委ねるしかなく、それを愚直に積み重ね、クライアントの期待に見事答えてくれるスタッフの存在が今の私たちの経営環境を形作っていると言っても過言ではありません。今日の滋賀での地鎮の儀で宮司さんが読み上げる祝詞を聴きながら、改めてそんなことを感じ、有難いことだと感謝した次第です。これからも一つずつ、聴き手と紡ぎ手が力を合わせてクライアントの期待に応え、信頼を積み重ねてくれれば持続可能な事業形態に確実に近づいていくと思うし、そんなスタッフに事業を委ねることでクライアントとの約束を守れる様になると思うのです。

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目的を明確に持った建築実務者を育てる研修を行っています。


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