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TEDxKobe 2022 “回遊”

コロナによるイベント規制、自粛がようやく終わりを告げはじめ、TEDx Kobeが2年半ぶりに神戸で開催されました。私としては、毎年欠かさず参加していた大好きなイベントで、そこで知り合った人たちとのご縁で建築業界中心のコミュニティーから外に出る一歩を踏み出し学びの幅を広げるきっかけを貰えた事もあり感慨もひとしおです。今回のテーマは「回遊」でボーダレスな世界を象徴するとてもパワフルで斬新なアイデアが盛りだくさんの非常に充実したイベントになっていました。

TEDxKobe オープニング

前提条件無し

今回のTedxKobeで私が感じたのは、いくつもの社会課題が絡み合い、複雑さを極める現代に対して、これまでの常識や、前提条件にとらわれることなく自由な発想で問題解決に向き合う若者のエネルギーです。廃屋ジャンキーの肩書を持つ西村さんは誰も使ってない家屋をDIYで単にかっこよく、住めるように直すだけではなく、近隣の空き家を次々に手がけ、それらをつなぎ合わせるビレッジ構想を実現されていました。敷地間のブロック塀を取り壊し、共有の農地やコミュニティースペースを作っていく斬新な発想で建築の専門家である私たちには法的な規制や安全性の観点からなかなか手をつけれない部分にアグレッシブに取り組まれているのには目から鱗が落ちました。良し悪しでは無く、本来のDIYとはこうあるべきかも知れないと思ったのです。

ブレイクタイム&アクティビティ

コミュニティとエンパシー

神戸の下町、長田で老人から子供、外国人までを1か所に集めてカオスな介護事業所を運営されている首藤さんは同じ場所に人の生と死を混在させることによって人が幸せに生きること、死んでいく事を問い直されているように感じました。幸せそうにあの世に旅立ったおじいさんの棺の周りで老若男女が集い、笑顔で酒を飲み、踊り、どんちゃん騒ぎをする人たちの姿は圧巻でした。踊る市役所職員の秋田さんが語った共感でつながるコミュニティーの力の話も共感をシンパシーではなくエンパシー(自分事)とすることで行動を妨げる垣根を乗り越えることができるとまさにボーダーの内と外を行ったり戻ったりする「回遊」のテーマを強く示唆する内容でした。

新しい世界示唆するパフォーマンス

その他、右脳と左脳の働きを解明、感性を直感、感覚、感情が組み合わせだと定義し直した金谷さんのトークや、ルール作りのプロセスを見える化して新しい民主主義を目指す小田さんの取り組み、醤油造りの伝統、楽しみ方を紹介することで需要を作り、醸造用の木樽の復活を通して林業にまで影響を与えた醤油ソムリエの黒島さん、ハンドパン演奏のShuさん、豊永さんのダンスも新しい世界を感じさせる素晴らしいものでした。中でも私が心を惹かれたのは、社会起業家との肩書きで登壇された、うら若い女性の久野華子さんが行われている外国語対応の人材派遣事業のスキームです。バックパッカーとして世界中を回った経験から、格差を無くす社会を目指して起業され、シンプルで当たり前の仮説をビジネスで実行し、大きな成果を手にされた話は世界の循環が変わる可能性を感じさせられるものでした。

アフターパーティーも大盛り上がり

善循環の社会は鶏を育てることから

久野さんの立てた仮説は非常にシンプルです。人は誰しも(無意識下で)つい自分の立場を利用して人に犠牲や献身を押し付けてしまいがち、それが格差や分断を生む根本的な原因で、その部分に常に注意を払い、人から奪うのではなく先に与える行動を選択することによって、与えられた側の人は仕事に対するテンションを高め、自分が持つパフォーマンスを最大化する。そしてそれが次のビジネスにつながって好循環が連鎖すると言うものです。久野さんは人材派遣業と言う搾取と格差を生み出す代表のような事業を立ち上げて、利益度外視で高い報酬を支払い、誰もが気持ちよく働ける環境づくりに取り組み続けた結果、働いている人は友達を次々呼んできて、クライアントからはリピート受注が相次ぎ、採用にも集客にも費用をかけずに高収益の事業を実現することができるようになったとのことでした。私たちが長年取り組み、提唱している職人の正規雇用と育成を起点にした独自のマーケット創造と通じるものがあり、若い女性がそれを実践をされて、成果を出されているいることに大きな希望を見いだすことができました。

神戸のWater front

回遊が示唆したもの

今回のTEDxKobe 2022のテーマ「回遊」はとても幅広く様々な意味を内包していると感じました。その1つは、鮭が大海に出て大きく成長した後に生まれた川の源流を遡上してまた次の命を産み落とす営みです。それは物質的、位置的な回遊だけでなく、思考や概念を原点に引き戻し新たに生み出す循環もあるのでは無いか、と次々と登壇されるスピーカーのトークやパフォーマーの演技を見ながらぼんやりと感じました。インターネットの普及やテクノロジーの進化が進み、ボーダレスでフラットな世界になると言われて久しいですが、私はこれまであまり世界が良くなっているとの実感を持てずにいました。しかし、変化は確実に進んでいるし、ブレイクポイントをソロソロ迎えるのかも、との期待を持てる良いイベントでした。私も今回受け取ったアイデアを実践に活かし、垣根と格差を取り払う世界への胎動に参加したいと思います。

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善循環を呼び起こす職人育成のサポートを行なっています。


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