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本能が選ぶのは闘争か逃走か。

令和3年3月26日 晴れ

不易流行

緊急事態宣言は全国的に解除されましたが、仙台をはじめとする地方都市で感染拡大が増加していたり、神戸では新型コロナの変異株による感染が増えていたりとまだまだ予断を許さない状況には変わりがない。とメディアでは連日報道されていて、どうやら春になって暖かくなっても以前の日常は戻る事は無いのだとはっきりと認識するようになりました。以前と違う生活にシフトして、順応しなければならないのはもちろんですが、だからと言ってすべてを変えれるわけでもなくて、変えるべきものと変えるべきではないものを整理して、切り分けて考えなければならないと思う今日この頃です。
私の中でこれはコロナ後の世界でも変えることができないと腹を括った事柄のひとつが、一般社団法人職人起業塾で行っている建築実務者向けの研修のあり方です。昨年行っていた講座では途中から緊急事態宣言を受けて、ズームを使ったオンラインに変更して講座を続けましたが、それは中盤まで対面でのコミニケーションを行ってきて、ある程度の人間関係が形成されたからできたのであって、若い職人や現場監督、施工管理などの研修を受けることに慣れておらず、コミュニケーションが苦手だと公言し、自認する若者たちを相手に、オンラインだけで研修の本来の目的や意図を伝えるのは至難の業で、やり方をいくら工夫したとしても、あり方を伝える事はできないと判断しました。松尾芭蕉の残した有名な言葉に「不易流行」との至言がありますが、新しいものへの対応と、変えるべきでは無い本質の両方を大事にしなけばならいないと思うのです。

本質的リスクリバーサル

そんな理由で、今年も(定員を大幅に減らして懇親会も控えていますが)ガッツリと対面形式の半年間に及ぶ研修講座を開催しており、現在では九州博多、5月からは関西でも講座を再開します。建築現場に携わる実務者が、主体性と強い目的意識を持って熱心に、そして真摯にものづくりに向き合うことで、信頼関係をベースにした自社独自の市場を作り上げ、地域に住まう人の最も身近な環境である住宅を作り、インフラを支える工務店や施工会社が持続可能なビジネスモデルを構築する一助となるという私のライフワークを推し進めています。
昨日、博多で行った講座でのテーマの1つに「リスクリバーサル」と言う概念がありました。マーケティングの世界では返金保証などをつけてユーザーの購買活動のハードルを取り除くことを指す言葉として広く知られているこの概念ですが、表面的な販売方法として、購入してもらいやすくしたからといって、それが顧客の満足につながるかと言うとそんなことはありません。顧客満足無くして持続的な事業が形成される訳が無いことを鑑みれば、上っ面の販売方法としてのリスクリバーサルは却って未来へのリスクを増大させることになりかねません。リスクとは「将来に起こりうる危機の可能性」を指すことを考えれば、本質的なリスクリバーサルとは顧客の抱える不安や不満を丁寧に拾い出し、解決することだと思います。そして、顧客が感じるリスクとは、自分が希望しているイメージの共有がなされているか、品質は担保されるか、保証はついているか、トラブルは起こらないか、適正な価格なのか、等々、決して感じている不安を全てを口に出すことはありませんが、ありとあらゆるタッチポイントについて確信を持てず存在していると思います。それでも消去法か他の検討対象との比較でよりリスクが低いかを判断して購入の意思を固めているのが現実で、このリスクに真摯に向き合い、リバース(逆転)させて信頼を勝ち取ることこそ、真のリスクリバーサルだと思います。

闘争か、逃走か。

私は、経営する株式会社四方継のスタッフメンバーにも、一般社団法人職人起業塾の研修事業でもまず始めに「やり方」ではなく「在り方」を伝えたいと思い対話や講座を重ねています。在り方とは存在意義であり、何の為に仕事をするのか?との根源的な問いへの答えと共に、何ができるのか?どんな貢献をすることができるのか?を深く考え、自分自身が積極的に引き受ける責任を全うできるように、その為に必要な力(技術や知識、コミュニケーション、情熱やモチベーション)を身に付ける自己研鑽とその力を持続させてブラッシュアップする状態管理に取り組むのを推奨しています。この自分自身への内省、自省こそが本当の意味での未来へのリスクを軽減し、あらゆる物事を良い方向に向かわせる原動力になると思っています。
この私の持論は、実は非常に簡単な理論ではあるのですが、誰でも理解できる割には、実践することは簡単ではありません。その理由は、人間の本能の部分、ホモ・サピエンスが地球を制覇するようになってからの1万年の長い歴史の間に刻み込まれた脳による行動の選択に逆らっているからだと最近になって気づくようになりました。そのきっかけは世界的なベストセラー「スマホ脳」と言う本を読んで、そこに書かれていた「元来人間は新しい敵や脅威、情報に対して逃走するか闘争するかの選択肢を迫られてきた」との説になる程と納得させられたからです。近代文明の発展はわずかこの三百年、農耕生活で定住し始めたのもたった三千年、それまでの長きに渡って狩猟生活を続けてきた人類が熊や狼、もしくは他部族の人間と新たに遭遇した際の選択は「闘争」か「逃走」の二者択一であり、闘った者よりも逃走した方が生存の確率が高かったのは想像に難くありません。要するに、生き残った者の優性遺伝が繰り返され、逃走は人間の本能による生存の選択であり、そこに理性や理論が入り込む余地はなかったと言うのです。

理性という第3の道

上述の闘争か逃走かの選択は危機に面した時に下される人間本能によるものです。21世紀になり、人間の文明社会もここに極まるといった程のテクノロジーの進化、情報革命が巻き起こっている現代でも、1万年の年月をかけて形成された人間の脳の構造はそんなに簡単に変わることはなく、だからこそ、近年劇的に普及したスマホから溢れ出す新たなそして圧倒的な情報の波に人々は飲み込まれ、無意識下で「逃走」を選択して鬱になっている、そしてスエーデンでは10人に一人が抗うつ剤を服用するようになったのだとスマホ脳の著者のアンデシュ・ハンセン氏は警告を鳴らします。同氏はデジタルデトックスを推奨してスマホを見る時間、その使用の制限を推奨されています。私は、人類がこれでも経験した事のない劇的な変化に直面している今こそ、その環境に順応し進化すべきだと考えます。人間は本能だけではなく、動物にはない理性を持っており、本能的な選択を押しとどめて、原理原則に代表される本質的な理論に向き合い、その実践を選択する力を持っていると思いますし、その力を信じたいと思うのです。
危機に瀕した時、闘争か逃走の二択で選択をするのではなく、同じ危機に見舞われることがないように自分自身の中に在る本当のリスクに向き合い、自己研鑽を積み重ねることでその根を断ち切ることができると思うのです。本能、直感も大切なのは承知の上で、逃走することなく、せっかく手に入れた理性や理論に向き合って自分自身を、周りの人を世の中を良くする選択をするべきだと思うし、そのようにありたいと思うのです。

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◆四方良しの世界を作る株式会社四方継のHP:
https://sihoutugi.com
◆一般社団法人職人起業塾のオフィシャルサイト:
https://www.shokunin-kigyoujyuku.com
職人育成、人事制度改革についての相談はこちら→
https://www.shokunin-kigyoujyuku.com/application/contact/

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