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知ってることとできることの圧倒的な壁 @若手大工育成P

私が理事を務めている工務店の全国組織であるJBN(全国工務店協会)の地方組織である京阪神木造住宅協議会では圧倒的な職人不足の解消への足掛かりとして、国交省の支援を受けて入職3年未満の若手大工向けの研修事業を行っています。大工としての技能の向上も大きな目的ですが、社会人としての心得や大工職としての責任の大きさを認識してもらえる様に座学と実習を繰り返しています。

全てのものは二度作られる

昨日は第二回目の講座で、大工としてのスキルを大きく左右する道具の使い方や普段からの手入れの重要さについての座学を行い、それを体感してもらうべく、実際に木材を刻んで継ぎ手の刻みを行って貰いました。
私自身の出自が大工ということもあり、若者達が技能、スキルを身に付けるにはこれが絶対に必要だと言う確固たる持論があります。それは、まず何でもやってみるのではなく、初めに理論や概念を学び、それを使って実際のモノづくりをするイメージを詳細に頭の中で作り上げる事で、現場に出て作業する前に自分自身で詳細に執拗に細部までシミュレーションすることによって、現場で悩んだり、手を止めたりすること無く、想定通りの時間内に、必要な品質を担保したモノづくりが出来る様になるとの、自分自身の経験則で何度も体感してきた原則です。「全てのものは二度作られる」とはコヴィー博士の有名過ぎる言葉ですが、大工の仕事はリアルにその原理原則が業務に映し出されます。

自分自身で考える、決める力

今回の実習研修では普段、住宅事業ではあまり使われる事が無い、四方継という伝統工法の複雑な仕口を手刻みする課題を与えました。そして、若手大工育成Pの大きなテーマとして、言われたままの作業をするだけの作業員ではなく、自分で考え、主体的により良い仕事に取り組む人材に育って貰いたいとの意図があります。なので、事前に課題の完成図をスケッチアップしたパースで共有し、刻む寸法については自分で調べ、考えて寸法図を用意する様に伝えました。自分自身で詳細図面を描く事によって詳細なイメージを作って貰いたいとの考えで、詳細については各々に任せました。

情け無い厳しい結果

実技研修午後からで、午前中の座学の際に、用意してきた図面できっちりと課題を完成させる事が出来るのかを質したり、寸法の記入がおかしいとか、縮尺を合わせていない、そもそも詳細寸法が書き込まれていない等の指摘を行い、合間の休憩に周りのメンバーの図面を見せて貰ったり、曖昧な部分については確認する様にとのアドバイスを行いました。塾生達は全員、大工見習いになって初めて自分で仕口の寸法を決めて墨付けを行い、刻む作業が出来るのを楽しみにしていたようで、私からのアドバイスも彼らなりに受け止めて準備をしておりましたが、蓋を開けてみると全然で、時間を少しオーバーして完成させたのがたった一名のみの厳しい結果になりました。

悔しさこそ成長のバネ

完成まで辿りつけなかった塾生達は全員、不真面目でやる気が無かった訳では無いし、私の伝えた「事前準備が大切で、実際に刻むイメージを詳細に描け」との言葉が理解出来なかった訳でもありません。それなりに前向きに取り組んでいた様に見受けられました。そこにあからさまになったのは、知識として知っている事と実際に出来る事の圧倒的な隔りであり、ぼんやりしたイメージは何の役にも立たない事を知るには実際に失敗をしなければ気付かない、残念で厳しい現実です。
1週間以上前に課題を与えられたたった一つの仕口を90分もの時間を時間をかけて全く形に出来なかった塾生は今回の研修で晒した自分の不甲斐なさを真摯に受け止め、その悔しさをバネに今後の課題に対して、事前の準備、イメージ作りと詳細なシミュレーションの重要さを胸に刻み込み、悔しく恥ずかしい想いは二度としないと誓いを立てて貰いたいと思います。そんな気持ちこそ、一人前の職人になるには不可欠だと思いますし、半年間の研修を終える頃には彼らならきっと、一皮剥けてくれていると思っています。頑張れ!金の卵達!


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言われた事をやるだけの道具の様な職人ではなく、主体性を持って良心に従って現場価値を創造する職人を育てています。

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