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若手大工経営者達からの質問に答えてみた。 @関西大工会

関西大工会なる団体があります。文字通り、大工と、大工経営者ばかりが集まる団体で、熱心に勉強会を開催されておられます。この度私が講師として招かれ、持続可能な工務店経営について話をするとともに、様々な質問にお答えしてきました。研修会が終わった後の懇親会では、すぐに実践に取り組める内容だったととても好評だったので、ここにもその要点を書き留めておきたいと思います。

関西大工会 理事長

若手大工達からの質問

今回、勉強会に登壇するにあたって、実のある内容にしたいと、理事長が事前にアンケートをとって下さり、私に質問事項が送られてきていました。それらは非常にシンプルな内容でしたが、大工工務店の経営者が悩み、なかなかその答えを見出せない、そしてその部分について学びたいと考えられているのはこのような事なのだと理解して、研修会の冒頭にまずその問いについての私の見解を申し上げました。もしかしたら多くの工務店経営者が同じ悩みを持っているかもしれないと考えたので以下にその内容を列記します。

①人生100年時代という言葉があるくらい、これからは働き方に変化があると聞いたことが有ります。『大工』として長く働ける為に、今すべきことがあるのでは?

私は今年で55歳になります。今でも極たまに現場に出て作業をすることがありますが、その度に加齢による劣化を感じてしまっています。体力、筋力についてはトレーニングを欠かさず行っていることもあり、そんなに自信が無い訳ではありませんが、1番の問題は視力です。50歳を過ぎた頃から徐々に老眼が進行し始めて、今では図面に書かれている細かな数字を読む際には眼鏡が必須の状態になってしまいました。眼鏡をかければ数字が見えるのならそんなに大きな問題ではないと思われがちですが、モノづくりの世界では細かな部分に常に神経を尖らせる必要があり、見えにくいとその集中力が続かずに凡ミスを繰り返してしまいます。以前、昔お世話になった大工の親方に手伝いに来てもらった時に、あんなに綺麗な仕事をされていた人がこんなにえー加減なことをするようになるのだと愕然となった経験があります。そのように考えれば、大工として現場で活躍するのはせいぜい60歳くらいまでにして、その後は大工として積み重ねた現場の知見を生かして他の役割(設計、施工管理、営業、教育等々、)で活躍してもらうべきだと思っています。そのためには、大工として働いている間に様々な役割を引き受けてセカンド・キャリアに備える働き方が必要です。

② 職人正規雇用でモチベーションを上げる方法

私はモチベーションとは志に連動していると考えています。なので、なんのために大工をしているのか?との問いへの答えを明確に持っておれば、モチベーションが下がったり上がったりすることなく、目的に向けて着実に歩みを進めることができると思っています。正規雇用の社員として大工を雇うと手間受けの様に出来高で給料がきますわけではないので一生懸命に働いてものんびりしていても稼ぎが変わらないと思ってしまうのではないかと、良く聞かれます。人はつい、自分に直接の損害がなければ怠けてしまうものですが、逆に、誰しもが良心を持っているし、善き心に従った判断、行動も行うものです。事業所全体でなんのために?との問いに向き合い、事業所の目的とそれを実現するための事業計画、そして計画に応じた従業員の役割と責任を明確にして、それが全うされているかの進捗確認、評価する仕組みを整えれる事と、個人的な志が同じ軸で通ればモチベーションは維持されるのではないかと思います。ちなみに、上がったり、下がったりするのはテンションですね。

③ 大工さんが現場で出来る、している営業内容、子方、職人の育て方、職人正規雇用の単価について

職人営業の方法論で良く耳にするのは近隣と良好な関係を結んで現場で受注を受けることです。現場の周囲にも気を配って、にこやかに対応するだけで近所の人から声を掛けられることは少なからずあります。ただ、私がいつも社内で言い続けているのは工事完成後のアンケートで必ず100点満点を頂けるように現場で緊密なコミュニケーションをとって、お客様のあらゆる不満や不安を全て消し去ってから現場を後にするようにということです。すぐに売上になったりはしませんが、100%の満足をお渡しできた顧客は必ずリピートとなって再注文してくれますし、新しいお客様を紹介もしてくれます。現場顧客満足こそ、最大の現場営業だと思っていますし、細かなことを指導するよりもそこに目標をおいて仕事をするように目的を揃えるのは職人育成で最も重要だと思っています。

職人正規雇用の単価は、大工の日当が世間一般で決まっている価格帯から大きく外れることが出来ないのが実情です。なので関西では2万円/日が基本になります。しかし、所得は役割と責任によって決まる原則を用いて、大工だけではなく、施工管理者や顧客窓口としての営業、設計や後進の育成などの役割を引き受けたらその分所得が増えるようにキャリアプランを構築しています。入社から10年〜15年で経営陣に入れるように組んでいるので、そこから先はやる気と根気で自分で自分の所得を決められるようにしています。

④ 新人の大工さんが現場で一人でお客様の紹介まで出来るようになる平均的な期間は?・教育していく時の注意点・中途採用の職人さんでも大丈夫かどうか

私が代表を務めているつむぎ建築舎での現在の実績でお答えすると、高校を卒業して入社した見習い大工に2年目前後で単独の業者さんで片付く程度の小さな現場を担当者として任せてみるようにしています。3年目で集中的に水回りのリフォームなど小規模な工事を経験させて主担当として任せるようにしていて、5年目で新築の棟梁としてデビューしてもらっています。もちろん、担当者として初めて現場を受け持つと、いつも棟梁に指示されて作業していたのとは大きく勝手が違い、戸惑う事も悩むことも多くあります。そこは先輩たちがフォローして大きな問題が起こらないように最新の注意を払いながら工事を進めてもらっています。若者の成長を促す上で重要なのは、目的の共有と役割、責任を明確に理解してもらっていることで、その上で主体性を発揮できるように任せてみる、チャレンジさせてみるのが大事だと思っています。

ちなみに、中途採用の大工が大丈夫かという質問は正規雇用にした場合、のんびりしてしまう、もしくは大工としての作業以外の役割を担うのを嫌がらないか、目的の共有や理念に従った働き方ができないのではないか?との心配でした。「私の答えは難しいでしょう、」とさっぱり答えておきましたが、とにかく、入社前、入社後もなんのために大工をやるのか?との質問をお繰り返し問い続けるべきで、その答えが「今、金、自分」を大事にするようでは一緒に働くことはできないと明確に言ったほうがいいよ、とアドバイスしておきました。

⑤ 大工の常用単価を上げる為に出来る事、すべき事が有るのかを聞きたいです。

上にも繰り返し書きましたが、単価を上げるには、役割と責任を増やし今よりも多くの価値を生み出してもらえるようにしなければなりません。単なる作業員では同一労働、同一賃金の法則が働き、正社員の大工だからと言って、高い請求をお客様にする訳にも行かないし、通り値以上の単価を払うことはできません。しかし、大工として一人前の経験と知識を持っていたら、施工管理だけではなく設計も営業も、もっというと構造化が得意なはずなので経営の才能も発揮できると私は思っています。まずはできるところから役割を増やす、責任を全うするところから積み上げていき、セカンドキャリアが明確に見えるところまで学び続けて貰いたいと申し上げました。
現状維持は緩やかな破滅への道、今の収入、今の仕事、今の関係性、今の社会に満足して学ぶ事も知ることも、チャレンジすることも無くなったら、そんなに遠くない未来に行き詰まりを見せてしまうと思うのです。
最後に学び、実践するしかないぜ!とエールを送っておきました。これからの若手大工工務店の皆さんの活躍に大いに期待しています。関西大工会の皆さん、頑張ってください!

大工だらけの懇親会は最高!

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