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建設職人甲子園は本当に必要なのか?

2023.9.3埼玉県大宮で開催された第6回建設職人甲子園に今年も参加してきました。
昨年はコロナ禍の影響でオンラインのライブ配信で行われたこともあり2年越しとなったリアル開催はやっぱりPCの画面越しとは圧倒的に違う熱量を感じさせられる素晴らしいイベントでした。予選大会を勝ち抜いた2社による決勝プレゼンテーションで今年度のチャンピオンを決める投票をメインコンテンツに、惜しくも予選で敗退した企業のエキシビジョンプレゼンテーションも2社披露され、職人たちの熱い想いをぶちまけるイベントを満喫させて貰いました。


プレゼンテーションが目的ではない

職人甲子園はドリプラに端を発したプレゼンテーションイベントではありますが、その本質的価値は壇上に上がるまでのプロセスにあり、ハレの舞台で多くのオーディエンスを前に自社の取り組みや目指す世界観に実現するための具体的な実践事例を発表するだけではなく、社員が団結してその内容を創り上げながら、単なる綺麗事をまとめるだけに終始するのではなく、本当に事業所の理念を全員が深く理解して実務に実装しているのか?を自問自答する絶好の機会でもあります。
そもそも、(私を含め)建設職人は得てして個人主義の自分が技術を身に付けて誰にも文句を言われる事なく自由気儘に生きていきたいと思っている者が大半を占めており、他人と仲良くしたくも無ければ、興味も無い。コミュニケーションなど取りたくもない人種です。そんな組織を毛嫌いする人間が、本当は群れたい訳ではないが、一人ではロクに仕事を取れない、未来が見れないから仕方なしに企業に留まっているのが建設業の現実です。チームビルディングに最も適していない人達が、やりたくもないチームを形成し苦手で面倒な人前でのアウトプットに事業所として取り組むのは並大抵では出来ません。そんな高いハードルを乗り越えた今までの職人の殻を破った職人達のチームプレゼンテーション、というよりも魂の叫びは心の奥まで震えさせられました。本当に素晴らしいイベントになったと思います。
詳しくは建設職人甲子園のオフィシャルブログをご覧ください。

第6回職人甲子園全国大会優勝はASHIBA株式会社

会場に集まったオーディエンスによる投票で見事優勝したのはASHIBA株式会社で社名通り足場架設を行う会社です。現在の建築現場での足場は楔形という非常にシンプルな施工の形式に変わっており、以前の単管を組み立てる足場に対して、職人として技術を習得するまでの期間が随分と短くなりました。その分、工事単価が抑えられるようになったりもしましたし、工期短縮で職人が稼げるようになったりしました。また、若くして独立する職人が増えたりもしており、建設業界の中でも珍しく若い職人が多い業態でもあります。しかし、その裏の側面では過酷な労働で若者の定着率が悪かったり、個人事業主として親方を張ったとしても不安定な働き方に不安を抱える職人は数多くいます。
ASHIBA株式会社は社会保険、厚生年金の加入はもちろんのこと、職人の終身雇用を高らかに宣言し、現場で足場を組むだけではなく、多角的に事業を拡大することで、職人の先のキャリアパス構築を目指しておられます。そこまで安心して働ける職場環境を整えられている足場の会社は全国を見渡しても殆ど存在しません。日本一の足場屋になる!との社をあげての目標は、規模や売り上げだけではなく、日本一足場職人が安心して働ける会社になるのだとの熱いコミットメントでした。「誰かのために生きる」を理念に掲げた職人達の会社、社長もメンバーもまだ若く、これからが本当に楽しみです。

メガステップの卓越性とその役割

準優勝に輝いたのはまだ建設職人甲子園が正式に発足する前、リフォーム職人甲子園とのタイトルで神戸で開催された第0回から連続出場を続けている株式会社メガステップでした。無冠の帝王と言われるくらい、毎年素晴らしい発表を続けて来られており、建設職人甲子園が毎年盛り上がり継続出来ているのもメガステップ社の活躍があってこそと言っても過言ではありません。今回はこれまで自社で職人を育てる左官職人の会社から広く全国の職人育成のサポートを行う職人道場への事業拡大、そしてコロナを乗り越え、職人道場で培った技術を遺憾無く発揮できる場として、新たに移動式のキャビンの製造販売事業を立ち上げ、苦難を乗り越え事業化に成功するまでの道のりを赤裸々に語られました。単なる想いをぶちまけて、夢を語るプレゼンテーションではなく、実績を伴い、職人育成の未来を切り開く素晴らしい内容で、優勝していても全くおかしくない内容でした。実際、イベント後の懇親会で運営メンバーに聞くと、本当に僅差で優勝を逃したとのことでした。
私としては、メガステップ社が参加しているからこそ、他の登壇社のクオリティーが保てると思っており、単に登壇して優勝を目指すのとは違う役割を担っていると思っています。これからも毎回、先進的な取り組みを発表し続け、建設業界に刺激を与え続けてもらいたいと思います。

啓蒙活動と本質価値のジレンマ

今回も素晴らしい一大イベントとなった建設職人甲子園でしたが、理事長をはじめとする運営メンバーは2年の任期で交代することが決まっています。昨年、コロナ禍の影響でそれが棚上げとなり、今回の全国大会を機に役員が交代することが正式に発表されました。
最後の挨拶で石井理事長はこれまでの苦悩に満ちた3年間を振り返り、建設業から日本を元気に、職人の地位向上を目指す活動を総括されました。
建設職人甲子園の本質は単なるプレゼンテーションイベントではなく、職人達が不慣れで不得意な登壇の機会を得て、それを行うまでのプロセスでいかにチームビルディングを行うか、そしてそこでの気づきや学びを糧に事業所内を変えることが出来るかが大きな目的になっています。石井理事長はその本質を守りたいとの想いでこれまでの活動を行い、エントリー企業に向きあってきたとの手応えを話されましたが、それは同時に限られたリソースを内向きに使い切る所業であり、業界全体もしくは業界の枠を飛び越して大きな影響力を持つのとは真逆の方向です。そのジレンマに悩まされていたのがよくわかりました。
職人の地位向上は職人不足が極まった今の日本の大きな社会問題です。その問題を解決するには、もっと事業をスケールするしかありませんが、それを行えば建設職人甲子園の本質から外れてしまう、非常に悩ましい、簡単には答えが見つからない問いに向き合った3年間だったのだと想像しました。

建設職人甲子園は社会に必要なのか?

昨年、コロナ禍の真っ只中でリアルイベントの開催ができない中、YouTubeのリアルタイム配信でのイベントを行う中、石井理事長は「建設職人甲子園はこの世の中に必要な存在なのか?」との問いを立てられました。その答えを明確に導き出されて今回のイベントに臨まれたかというと、決してそんなことはなく、未だに迷いを持ちながら進んでこられたのだと思います。
ただ、私を初め、運営の中心にいないが、ずっとこの活動を支援してきている会員企業の方々が口々に話されているのは、建設職人達が真剣に仕事に向き合う、仕事の目的に向き合う、仲間との関係に向き合う場としてのイベントの意味の大きさであり、次々に若い職人、職人会社が見出され、チャレンジする場として、ずっとあり続けてもらいたいとの強い想いでした。
石井理事長の存続を問い直す問いがあったからこそ、今一度、これまでの運営に関わって、離れていた多くの建設職人甲子園コミュニティーのメンバーが、自分ごととして関わり合いを持つことをコミットメントされていました。職人達が魂から声を絞り出す、そんな場はやっぱり必要だと私も思います。ただ、世界が大きく変わった今の時代、単独の団体としてのイベントを開催するのではなく、様々な職人コミュニティーと幅広く協業しながら、本当の意味の職人の地位向上を叶えることができる活動になるべきではないかとも感じました。
共に学び、共に実践、共に輝く理念の体現は多くの人を巻き込んで業界の枠をも飛び越えるムーブメントになるべきだと感じた次第です。
運営メンバーの皆様、ボランティアスタッフの皆様、お疲れ様でした&ありがとうございました。来年もまた、楽しみにしていますし、私も職人起業塾の塾長としてできる限りのお手伝いをいたします。職人の地位向上、諦めることなく絶対に実現しましょう。

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職人の地位向上のために職人の自助の精神の確立を高校とビジネススクールでサポートしています。




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