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教えるとは希望を語ること。 学ぶとは誠実を胸に刻むこと

昨年に引き続き、今年度も私が副会長を務める京阪神木造住宅協議会主催の事業の一環で職人起業塾の受託事業として若手大工向けの育成研修を行っています。7月からスタートを切り、オリエンテーションや視察研修などを終えて、昨日からは実際に建物を作る実践研修に入っています。昨年からの継続事業ということで今年度のカリキュラムは大工見習い3年目までの若手にとっては少々難易度の高い内容にしましたが、悩み苦しみながらも必死で考える姿は実務では体験出来ない貴重な機会になっていると感じています。

教えるべきは上手いやり方ではなく在り方

昨年の実習研修ではプレカットした小さな2階建ての小屋を自分達で段取りを考えて役割分担やスケジュールを立てながら作業を行ってもらいました。とにかく、作業を細分化して詳細なイメージを頭の中で組み立てから作業に取り掛かる様に指導して、若手の見習い職人が陥りがちな事前に何の準備も用意もすることなく、ただ漠然と現場に足を運び、言われた通りの作業を行う受動的な働き方ではなく、毎日の作業の中で自分の役割と責任を把握して、事前にしっかりと準備を整えて目標意識を持って現場に向き合う在り方を実践研修を通して伝えました。もちろん、技術的な指導も行いますが、どちらかというと職人としての在り方、自ら価値創造へ取り組む姿勢を中心に伝えました。若者に伝えるべきはうまく出来るやり方ではなく、未来を創造する力だと思っています。

講師の清水先生

伝統や文化に対する憧れ

今年はそこから更に一歩進んで、昨年組み立てた後に解体した構造材を再度加工し直して自分達がカッコいい、又は価値があると思える建物に作り変えるフルリノベーションを設計段階から取り組ませています。実はこれは昨年の講座の最後に来年のカリキュラムを考案するにあたって彼等に要望を募った内容を反映しています。最近の木造建築はプレカットがスタンダードになり、大工が墨付、刻みを行う事が非常に少なくなりました。その比率は全体の97%にも上ります。現在の大工を目指す若者は加工された材を組み立てるばかりになっているのですが、大工を目指す以上、自分達で刻みをしてみたい、出来るようになりたいとの想いを持っており、イマドキの若者も伝統や文化に対する憧れを持っているのです。今回の研修はその意向に応えたかたちです。

手鋸での刻み練習

外部からの学びと半ば強制的な実践

そして、彼等からの要望を汲み取ると同時に私が提案したのは、どんな建物を作るのか、設計から自分達で考えてみてはどうか?という事です。難易度が一気に上がるし、彼らが苦労、もしくは苦悩するのを承知の上で既存の材料を加工して新しい建物を生み出すデザインから任せる事にしました。元大工の現場叩き上げの私の持論は、技術の習得は現場の数をこなせばそれなりに身につくが、在り方や考え方を変えて自分の枠を超えるには外部からの強い刺激やキッカケ、概念を学ぶ場が必要で、しかも半ば強制的にでもその学びを実践に落とし込む伴走する仕組みが必要であると思っています。概念を学ばずに闇雲に行動するのは行動バカ、概念を裏打ちしてこそ知恵や信念が生まれる。との出光佐三氏の言葉通りですが、自社内でも、私が主宰する私塾でも、一般社団法人職人起業塾での研修事業でもそこを一貫して行ってきました。

炎天下での刻み

適切な負荷と伴走が成長を促す

実践研修の1日目は案の定、完全な準備不足で刻み加工をする前の段階で必要な木取り、架構の仕口さえも把握出来ていない状態でした。それでも、宿題として渡していた図面を描いて提出もしてきていたし、中には前日の夜中2時まで図面を把握しようと手書きの伏せ図と睨めっこしていた者もいたようです。しかし、圧倒的な経験不足は分からないことが分からないもの、実際に現場でモノづくりに取り掛かるのに必要なイメージを作り込むことが出来なかったようでした。それでも昨年に比べると、随所に成長の跡が見られたのは私としてはとても嬉しく、意外と頼もしい一面を見れたりもしました。実践研修初日の最後に、次回の刻み加工の作業内容を全員が理解、把握出来るようにホワイトボード上に必要な材の配置と構造を書き出して、それぞれの材全てについてどのような加工を行うかを順番にアドバイスをしながら整理する考えさせる時間を取りました。頭の中でこんがらがってごちゃごちゃになっていた知恵の輪を解き明かす作業を行ったら、ほとんどのメンバーがスッキリと霧が晴れたような顔つきになっていたのを見て、次回への期待が膨らみました。大きな成長への一歩を踏み出してくれるかも知れません。

集中力こそ職人の資質

希望を語り、誠実を胸に刻む

表題のタイトル「教えるとは希望を語ること。 学ぶとは誠実を胸に刻むこと」とはフランスの詩人ルイ・アラゴン(1897-1952)の有名な言葉で「ストラスブール大学の歌」という詩の一節です。ナチスドイツに凌辱され虐殺されたフランスの大学の教授や学生の哀しみと怒り、そして復活を鼓舞するその詩には、教えること、学ぶことが持つ本質的な価値を鬼気迫る迫力で訴えてられています。希望を語るとは未来を切り開く方法論を共有し、その実践を支えることだと私は解釈しており、誠実を胸に刻むとは自分自身の実践で在り方や姿勢を見せること、伝えることだと思っています。命懸けで。
この国の未来は若者や子供達に託すしかない事実にしっかりと目を向け、未来に向けて自分に出来る、希望を語ること、誠実を胸に刻むことを言うだけではなく、やって見せたいと思うのです。この世界のあらゆる課題や問題の根本解決は教育にあり。大人の責任として教育に力を注ぎ続けたいと思うのです。

考え方を身につける

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ワンストップの職人教育の機関を目指しています。



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