森と生きる。循環・コミュニティ・環境一体論
毎年夏に屋久島に通い始めて4年目、足を運ぶ度に新たな気づきと発見をもらえるどころか、人と出会い、原始から続く森を歩くのを重ねることでその気付きがより深く理解出来るようになって来た気がします。今年は(少し大げさですが)生きていく上での基本的な価値観の変容を起こすきっかけを貰えました。
屋久島に足を運ぶ2つの目的
昨日のnoteにも書きましたが、私が毎年屋久島を訪れる理由は半分は仕事、半分は信仰の対象となっている山と森に入り大自然の躍動と大いなる力を感じる体験が目的です。仕事と言うのも2つに分かれていて、1つは建築会社としていい商品を提供したいとの想いから杉の繁殖地として日本での南限の屋久島の杉を使った商品開発、屋久杉のDNAを引き継いだ杉の特性を最大限生かせる様に生産地の方々との意見交換や情報共有を通じて様々なアイデアを持ち帰る為。もう一つは建築の枠を超えて森と生きる人達の哲学を学び、自分達の事業者としての在り方を見つめ直す機会を持つことです。そして、こちらの方が年々、比重が重くなっている気がしています。今回も大きな気付きを頂きました。
紡がれたご縁
同じ地域に繰り返し足を運び続けると、少しずつそこで人とのご縁が広がっていきます。私の座右の銘は「一期一会」としておりまして、いつ何時、些細なご縁をいただいても一生のお付き合いにつながるような十分なおもてなしができるように普段から身を修めておくべきとの茶の湯の先生からの教えです。しかし、人を知るにはそれ相応の時間と回数がかかるのも事実で、ご縁は手間暇をかけて紡いでいくものだとの感覚もあります。今回の屋久島行ではいつもよりも少し滞在時間を長く取れたおかげで、地元の方の話をじっくり聞く機会があり、また私が取り組んでいる職人の地位向上の取り組みに共感してくれそうな人物をご紹介いただいたりと非常に実りの多い時間を過ごすことができました。本当に有難いことです。
循環・コミュニティー・環境一体論
今回の屋久島での学びを一言で言い表すと、今世界中で求められているサスティナビリティとは「コミュニティーと環境を一体化させて循環させる」とのインサイトです。こんな風な表現をすると、最近よく耳にする手垢のついた単語の羅列であり、ごく当たり前の概念です。ただ、何ら目新しさのない考え方ではありますが、それを目で見て耳で聞き、体全体で体感したことで心の奥底に深く浸透し根本的な価値観がここにある。そんな確信を持てたし信念の周りを固められた気持ちになりました。「屋久島の森に生きる協議会」の運営をされている建築士の浦田さんの話と、彼にアテンドいただいた山や森で見聞きした事は島で生きている人の言葉と言うよりは、日本中どこにでもある森と生きる人々の営みのあり方を示されているようでした。
在り方から始まる、始める
建築士である浦田さんは生コン製造販売の会社を引き継がれ、港の整備が1段落した後の島内の需要の激減に対応して業界の再編を行われたと言われていました。元々、生まれも育ちも違う浦田さんは自社の利益を優先するのではなく、島の暮らし全体を俯瞰する目を持っていたことで地域に根を下ろしていかれたんだと思います。ある建築会社の社長を紹介されてその方が言っていたのは、「浦田さんは自分の事はほったらかして人のことばっかりやっている。彼のおかげで今がある」との感謝の言葉でした。その結果、多くの信頼と影響力が彼に集まり、それが屋久島の森や産業、暮らしを守り、循環する仕組みを次々と構築される原動力となっているのだと感じました。すべては在り方から始まっており、それは単なる経済性だけにとどまらず、地域社会をより良い方向に推し進める大きな力となっていました。
循環は意志が創る
私たちひょうご木づかい王国学校のメンバーの要望を汲んでいただき、見学に山に分け行った先では、皆伐後の山の下草の刈り取り作業をされている方に話を伺うことができました。屋久地杉の苗を植林している山で、炎天下の中、延々と続く植林地で草刈り機を回している社長は、「大変な思いをして大事に木を育ててもこの山は我々に一切儲けをもたらしてくれない、木がお金に変わるのは50年先であり、次の世代に受け継いでもらうためにやっている。木を伐って収益を得た者の責任として山を守っていかなければならない。」と額の汗を拭いながら語ってくれました。少し考えればわかる当たり前のことではありますが、これって確固たるコミュニティーと森と共に生きる強い意志があってこそできることであり、循環の根本にはご恩を送る価値観があるのだと改めて感じさせられました。
建築業の秘める可能性
元大工で30年間以上建築畑を歩んできた私は最近になって漸く私たちは建物を作るのが仕事では無いのだと心の底から思えるようになりました。暮らしを作る、暮らしを支える、そして地域に価値を生み出し循環と持続性を根付かせるのに私たち建築を生業とするものができる事は数多くある。その大きな可能性に気づきました。2年前に事業ドメインを工務店から地域コミュニティー企業に転換したのもその表れです。今回、屋久島内で浦田さんが手がけられている数多くの建築中の現場を見せていただき、私の近年の気づきを以前からそのまま体現されている姿を見て、驚きと大きな勇気を与えられたと共に、建築業界のビジネスモデルのレイヤーを建築請負業から地域・社会課題解決型モデルへと変える取り組みを進める啓蒙活動を続けていくことを固く胸に誓いました。自分の中で志が少し強く大きくなる、そんな屋久島での時間になりました。お世話になった屋久島森と生きる協議会の皆様はじめ、関係各位には心より感謝申し上げます。ありがとうございました。
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建築業界の自律循環型ビジネスモデルへのシフトのお手伝いをしています。
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