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最適化されちゃうよ。〜SINIC理論研究会#4〜

私が世話人として参画している経営実践研究会ではいくつかの専門的な分科会を立ち上げています。その一つがオムロンの創業者、立石一真氏が50年前に未来学会で発表し、その精度の高さが単なる予想や預言の域を超えていると近年大きく注目されている、SINIC理論の研究会です。
その未来予想に示された、実際に現在起こっている時代の大転換が生み出す最適化社会から自律社会へのシフト、これから起ろうとしている社会の変容を民間の実業を行っている経営者が集まって、シンクタンクとなり社会実装のための思考や概念、そして行動への指針を探る取り組みです。
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最適化社会の行方と自律社会を生きる人

現在、この研究会では2023年に上梓されたSINIC理論の書籍を章ごとにまとめ、メタファーを抽出するとともに、実際の事業に実装する研究を進めています。オムロンのシンクタンクであるヒューマンルネッサンスの中間氏がオープンソース化を標榜して上梓され、昨年出版及び公開されたSINIC理論の書籍の第4章、第5章が今回のテーマでした。
第4章では「現在進行形の最適化社会のゆくえ」、第5章では「自律社会を生きる人、自律社会を支えるテクノロジー」と題された章を読み解く作業は、現代の社会を読み解き、未来に向けてのアプローチを考える上で非常に参考になる示唆に富んでいると感じられました。
平成から昭和にかけて起こった産業革命よりも大きな変化だと言われた情報革命。その情報化時代から、現在の最適化自体を経て、2025年から自律社会へと移行するにあたり、さらに大きな変化を迎える大転換の時代だと言われています。現在、最適化社会が極まる時期をも変えているといっても過言ではありません。

エコシステム視点での最適化

今回の研究会で話し合われた中で最も印象的だったのは、最適化とは誰にとっての最適化なのか?との視点です。ともすれば、自分にとって世の中が最適になってくれるのではないか?との楽観的かつ希望的な見方になってしまいそうな「最適化」との言葉は、実はそんなに甘いものではなく、地球全体や社会全体、エコシステムと呼ばれる生態系にとっての最適化に他なりません。これまでの価値観がひっくり返って逆転のパラダイムの中で生きている私たちは、「最適な状態」の定義について、もっと広い視野で客観的に見る必要があります。
具体的な事例として、建設業界で沸き起こってる問題に焦点を当てるとわかりやすいかもしれません。今年成人を迎えた若者は1,000,000人強、史上最低を更新しました。人口推移の統計を見れば、これから新たに住宅を建てる必要は無いことは火をみるよりも明らかですし、そもそも2030年には現在の住宅の3分の1が空き家になるとの予測も出されています。新築着工棟数の予測では建設業者の半数は必要無くなると以前から言われていましたが、いよいよ現実味を帯びてきています。

建設業界の最適化の事例

最近打ち出された建築関連の法改正では、木造住宅の構造計算書の提出を免ずる4号特例の縮小で、新築だけではなくリフォーム工事にも構造計算が義務化されます。同時に省エネ性能の担保も必要になり、これまでの様に技術的なスキルを持っていない営業系のリフォーム会社や設計知識を持たない施工に特化した大工工務店などは下請け以外で仕事を請けられなくなります。
厳しい法改正について来れない事業所は無くなればいいし、耐震、断熱の改修が難しい建物は取り壊してしまうべき。というのが、厳しいですが政府の基本的な方針です。しかし、これも最適化への流れの一つだと解釈できます。
また、上記の条件をクリアできる事業所も職人を自社で育成している会社はほとんどありません。あと10年で現在、現場で活躍している50代、60代の職人達が引退すると、工事が出来なくなる事業所が続出します。モノづくりの企業にもかかわらず、収益を優先してものづくりの人材育成を行なって来なかった事業所も破綻を余儀なくされます。本質的な価値提供出来ない事業、目先の金に囚われる者は最適化されてしまうのです。

時代の変化を理解できない不良老人問題

民主主義を重んじる文脈で全体最適という言葉を私はよく使いますが、それは誰一人取り残さない世界の実現との意味を含んでいます。国連でSDGsが批准され、世界が目指した目標でもありますが、残念ですが現実は世界中で戦争が起こり、毎日、なんの罪も無い人が殺められ、取り残されています。このまま分断と対立、そして利権の奪い合いである戦争がエスカレートすればこの地球そのものに対して取り返しのつかない負荷をかけてしまう可能性があるのを世界中の人が知っているし、危惧しています。この圧倒的な不条理を解消するのは困難ですが、地球目線で見れば、進撃の巨人の結末で行使された地ならしを行われるのが最適化への近道のように感じてしまいます。もしかすると、第3次世界大戦で核弾頭の応酬が最適化の極みとなる可能性もあります。
マンガの世界と現実が同じにはならないと思いたいですが、各業界、各地域にて小規模な地ならしが起こり、エコシステム視点でみたバランスを崩している者が全て消し去られるのが最適化社会から自律社会への移行であると感じました。書籍にも時代の流れが理解できない不良老人を問題視する言及がありましたし、裏金を作る政治家、保険悪用の事業所、データ改竄する大手自動車メーカー等々、淘汰されつつあるのも最適化なのかも知れません。
自らを律し、コントロールされることのない自律社会とは理想的ではありますが、その分、厳しい面を垣間見せているのだと認識を改めました。

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6.15に開催されるソーシャルシンポジュウム2024でヒューマン・ルネッサンス社の立石郁雄氏の基調講演とSINIC理論研究委員会の発表もあります。未来を深く洞察する絶好の機会です。是非お越しください。

時代の変化に適応する人材育成のサポート、職人の採用の仕組み作りを行なっています。繋がってください。


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