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クリティカル・ビジネス・パラダイム 〜少数派による反抗が拓く未来〜

山口周さんの新刊が大きな話題になっています。かれこれ5年ほど前まで、私が熱心に学びに通っていたUXデザイン、デザイン思考界隈で山口周さんの著書はよく取り上げられており「世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?」や「武器になる哲学」「ニュータイプの時代」などに私も随分と示唆を受けてきました。
このnoteにも幾度となく山口周さんの言説を取り上げ、時代を読み解くヒントにさせてもらっています。また、今回の本は私達、経営実践研究会のメンバーが取り組んでいるプロジェクトの応援歌かよ、と思える程、親近感を持ちました、勝手に感謝申し上げます。ありがとうございました。

時代に適応するビジネスモデルを読み解く指南書

今回、新たに上梓された「クリティカル・ビジネス・パラダイム」は昨年、大阪で開催した経営実践研究会のソーシャル・シンポジュウムで登壇頂いた際の山口周さんの基調講演の内容が詳しく書籍化されており、昨年、山口さんに投げかけられた問いの回収ができるなんとも贅沢で素晴らしい内容になっています。
大きな時代の転換期に入った今、これまでのビジネスモデルではもはや通用しないと感じられている方は多くおられると思います。この先、何を指針にして、どのように事業を組み立てていけば良いのか?とお悩みの貴兄に、是非とも手に取ってもらいたい一冊です。時代の変遷と共に変容するマーケット、それに対応したビジネスモデルのトレンドというより、本質が掴めると思います。あまりネタバレすぎるのも書籍を購入するテンションを下げてしまうと思いますので、以下に私にヒットしたコンセプトをいくつかご紹介します。ご興味を持ってもらえたら幸いです。以下は、社内でマネージメント層に配本した山口さんの書籍の紹介、かなり傾倒しています。(笑)

クリティカル・ビジネス・パラダイムの意味と意義

まず、冒頭にクリティカル・ビジネス・パラダイムの定義が整理されています。一言にまとめると、社会運動、社会批評としての側面を強く持つビジネスだと書かれており、その必要性について、既存のモデル(アファーマティブ・ビジネス)では競争優位も持続可能性も担保できないと一刀両断で、時代の要請だと定義付けされています。現状、社会に受け入れられている不条理や不合理、不適切を改めて見直し、おかしなことは修正すべきと批判する少数派のアジェンダをアクティビスト(活動家)がビジネスの文脈で解決することで、新しい経済を生み出すことが可能であり、このパラダイム転換が世界中で巻き起こっているとの分析が様々な事例を通して行われています。そのエビデンスの積み重ねはいつもながらの切れ味で、時代の流れに敏感に気づかれている方は、誰もが首を縦に振るのは間違いないと思います。

反抗とは社会資源

クリティカルであること(=少数派で体制に対して反抗的)は一見すると大きな需要を作り出せず、ビジネスとしては筋が悪そうに感じる方も多いかもしれません。しかし、山口さんはそれこそが事業を発展させるリソースであり、同時に社会の持続可能性を高め、経済合理曲線の外にあった社会課題の解決に寄与する社会資源だと位置付けられています。
人類の歴史を紐解いてみると、大きな社会変革を起こして世の中を変えたのは、常に元は少数派で反抗的な人たちだったことから、クリティカルな姿勢が、現在のモノが溢れかえり、多くの人が物質的には幸せになったはずなのに、それを感じられない社会の齟齬を解消する可能性を示されています。
本文の中にカミュの「反抗的人間」の一節を引用されており、「反抗は、すべての人間の上に、最初の価値をきずきささげる共通の場である。われ反抗す、故にわれらあり。」との言葉には痺れました。中卒の私が、「誰もがIKIGAIを持てる社会の実現」を志を掲げ、同志が集まって新しいキャリア教育の学校を全国に立ち上げている真っ最中の私たちへのエールにしか思えません。

不条理と、世界の明らかな不毛性とが最初から染み込んでいる考察に、反抗的精神がもたらす最初の進歩を認めよう。不条理の体験では、苦悩は個人的なものである。反抗的行動がはじまると、それは集団的であるという意識を持ち、万人の冒険となる。だから、自分が異邦人であるという意識に捉えられた精神の最初の進歩は、この意識は万人とわけ合っているものだということ、人間的現実は、その全体性において、自己からも世界からも引き離されている距離に悩むものだということを認める点にある。一個人を苦しめていた病気が、集団的ペストとなる。われわれのものである日々の苦難のなかにあって、反抗は思考の領域における「Cogito=我思う」と同一の役割を果たす。反抗が第一の明証となるのだ。しかし、この明証は個人を孤独から引き出す。反抗は、すべての人間の上に、最初の価値をきずきささげる共通の場である。われ反抗す、故にわれらあり。

アルベール・カミュ「反抗的人間」:山口周さんのnoteより拝借

開放と禁欲の二項対立の超越

なぜ時代の要請がクリティカルな社会運動的なビジネスなのか?との難しい問いの分析を「倫理」や「道徳」や「義務」ではなく、論理的な整合性であるとのロジックは、私が2020年に脱建築請負業を掲げ、20年間使って地域に認知されていた社名を捨ててまで、地域課題解決型の事業モデルにドメイン転換した時に私が繰り返し言い続けてきたことと意を同じくします。もちろん、その大きな転換は私の独断で行った訳ではなく、スタッフにどんな働き方をしたいか?との問いを繰り返し投げかけて全員の意見に耳を傾けました。その集約したインサイトが「信頼関係に結ばれた人と仕事がしたい」であったため、建築を離れて地域との関係を深める事業に取り組むことにしました。
そんな、マネタイズが難しそうな地域コミュニティー事業を立ち上げる際に「何も慈善家のえー人になりたいって言っている訳じゃない、地域社会に生かされるなら、当然、地域に貢献し、課題解決を行うべきやし、その存在意義を認められた企業だけが生き残るのはモノの道理や。」と言い切って、大きな決断を下しました。
本書の中ではイヴァン・イリイチの言葉を引用し「自立共生的な生き方」を「喜びに満ちた節制と解放する禁欲」との言葉で表しています。要するに、環境や社会に対して積極的に関わることで人は幸せを感じるとの大きな流れを示唆しており、人類の希望である成熟した社会への胎動が世界的に起こっていると指摘しています。

社会を変革するクリティカルビジネス

この本を読んで、納得感が大きかったのは、実際にクリティカル・ビジネスに取り組んで、既存のアファーマティブ・ビジネスにアンチテーゼを突きつけた企業が、大きく社会に認められ、課題解決的なアジェンダを社会実装した事例が多く取り上げているからだと思います。patagonia、ザ・ボディーショップ・フェアフォン、モンドラゴン協同組合、ect・・・高い志を掲げ、その実現をビジネスの文脈で行い、持続可能性を担保したスター企業の数々の事例には大きな勇気をもらえます。
特に職人の技術を伝承し、職人の地位を向上させる事と、朽ち果てそうな田舎の城を本拠に構え、美しい村を守るとの目的を掲げて世界的なブランドに成長を遂げた大好きなブルネロ・クチネリには学べるところが数多くあると感じました。日本でも絶滅危惧種とまで言われている職人を守る事業はクリティカル・ビジネスの代表になると思いますし、国交相が15年以上も取り組んで全く解決できなかった課題の根本解決を示している私たちマイスター育成協会のアジェンダは完全にパターンにハマっているとしか思えません。

少しだけクリティカル書評

ここまで私が強く共感するとともに、自分たちの活動を後押ししてもらっていると、勝手に解釈して感謝の思いを込めつつ、山口さんの新刊をご紹介しましたが、1つだけ少し違和感があるというか、補足が必要ではないかなと感じた部分がありました。それは、あれだけ世間を席巻したデザイン思考が全く社会にインパクトを与える事はなかったと言う件です。本質的に人の幸せを突き詰めていくと、社会課題解決に結びつき、CSV経営や、山口さんの言うところのクリティカル・ビジネスになるのには全く異存はありません。しかし、私自身がUXデザイン、デザイン思考を熱心に学んだ結果、アウトプットとしてCSV型に舵を切った経緯があり、デザイン思考とクリティカルビジネスは確実につながっていたと思うのです。ただ、コロナ禍が起こり、世界では戦争が勃発し、世の中の変化が急激に加速していることを考えると、もっとクリティカルな思考で事業に向き合うことこそが、今の我々に求められているのは間違っないと思います。世のすべての経営者にご一読を強くお勧めします。

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山口周さんに今年も大阪で開催するソーシャルシンポジウムに基調講演として登壇いただきます。残席少なくなっておりますが、まだギリギリ申し込み可能です。お急ぎ下さい。





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