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難しそうで簡単、しかも圧倒的な成果を生む100点満点理論 #職人の働き方改革

令和3年3月31日 快晴 

令和2年度の年度末となる今日は天赦日と一粒万倍日が重なる最強の開運日とのこと。新しいことを始めるには最高の日和らしく、朝から氏神様にお参りに行って、今日からスタートを切れることは何かしら?とあれこれと思いを巡らせました。結果、以前からアイディアとして持っていた事業継承のための社内リーダーズ会議を立ち上げることにしました。一粒の種が一万倍になることを祈ります。(笑)

私は、神戸で株式会社四方継という地域コミュニティサービス×大工工務店の事業所を経営する傍ら、台湾で店舗専門の設計施工のデザイン事務所、また、全国で建築業界の実務者向け研修を行う一般社団法人職人起業塾の3つの法人の代表をしています。また、昨年からは職人育成に取り組む事業所3社の顧問に就任しています。顧問先で主に担当しているのは職人の意識改革と現場改革で、現場での価値創造から職人の地位を上げて、事業所の収益を最大化するお手伝いをしています。今日は、自社及び顧問先で職人達と取り組んでいる価値創造のスキームと実践例について記してみたいと思います。

すぐそこまで来ている圧倒的職人不足

現在、日本の建築業界は既に顕在化し始めている圧倒的な職人不足の到来に大きな危惧を抱えています。この20年、建築職人の単価は下がり続け、また職人を正規雇用する会社は減り続けました。大工に限って言うと30年前まで80万人いた大工は現在20万人を切ろうとしており、若年層の大工は全国に二千人もいないと言われています。現在、現場で中心的な役割で活躍している50代〜60代の職人が引退すると全国的に一気に職人がいなくなり、まるで震災後の神戸の様に職人の争奪戦が繰り広げられるのは火を見るよりも明らかな状態です。また、震災後の神戸と今の私たちの置かれている環境との大きな違いは情報革命とDXが進んだ事で、いくら職人不足とは言え手当たり次第に職人をかき集めて精度の悪い施工をするとその会社の悪評が広範囲に及ぶ危険性をはらんでいます。圧倒的に職人不足が進む上に、闇雲に職人を集めると大きなクレームを発生させて会社の信頼を落としてしまうリスクがあるのは非常に深刻な問題です。

3つの壁

そのような建築業界の現状を踏まえて、良い加減に職人育成をしなければならない、と言う機運が随分と高まってきています。とは言え、職人を正規雇用して見習いから育てあげる取り組みに着手される会社はまだまだ少なく、変わったのは職人を抱えている施工会社がせいぜい外国人労働者の実習生の受け入れを始めたくらいで、建築業界全体で見るとほとんど何も変わっていないのが実情です。職人不足問題が爆発する前に、導火線についている火を消さなければならないのですが、そこには3つの大きな壁がありその壁を突き崩さない限り、工事ができなければ売り上げも利益も作れない建築業界に未来はないと言っても過言ではありません。これまで20年以上にわたって固められた壁を突き崩すのは決して容易ではありませんが、これ以上問題を先送りすると取り返しがつかない事態に陥るのは火を見るより明らかで、表面的な対処ではなく、根源的なアプローチで一つ一つの問題を切り分けて丁寧に対処するしかないと思っています。

1.親に泣いて止められる職業

まず1つ目の壁はなんといっても建築職人が若者に就職先として圧倒的に人気がないと言う事実です。私が子供の頃はYouTuberなどといった職業はこの世に存在せず、子供たちのなりたい職業は野球選手か大工さんでした。時代の流れとともに新しい職業が生まれ、子供たちの憧れる仕事も変わっていくのは致し方ありませんが、それでも大工と言う仕事はDIYが流行っているのを見てもわかる通り、非常に面白くやりがいのある仕事であることに変わりはないと思っています。その本来のモノづくりに関わる事の楽しさや素晴らしさが若者達に伝われば入職したいと言う若者も増えるのではないかと思っています。しかし、問題はそんなに簡単ではありません。現在、一般的に非正規雇用の1人親方のような働き方をしている大工の日当は1日あたり20,000円が上限です。道具や車両費等の経費を支払った残りで計算すると実質年収で450万円に満たない位になります。長年修行を積んで技術を身に付けた挙句、自分の家も建てることさえ叶わないような稼ぎしか手にすることができないのが現状で、しかも怪我や病気をすると収入が途絶える上に、社会保険にも厚生年金にも加入できず、一般のサラリーマンが受けるような保証は何一つ受けられません。これでは職人になりたいと言う子供を親が泣いて止めるのも仕方がありません。まずこの壁を突き崩すには1人親方の職人ではなく、もう少し体力のある事業者が覚悟を決めて雇用形態を根本的に改めて、正規雇用、職人育成に舵を切るしかありません。

2.金の問題

一般的に非正規雇用で経費をかけずに職人を雇用している事業者にとっては、覚悟を決めて正規雇用に踏み切れと言われたところで大きな費用負担があるのも事実でおいそれと簡単にできるものではありません。建築業界には(どの業種でもか、)通り値と言うものがあり平均的な単価からかけ離れた金額を見積書に書き込むと一瞬にして競争力も信頼も失ってしまいます。職人の正規雇用、人材育成に踏み込んだところで、余分にかかるコストを簡単に売り上げに転嫁できない事情があり、雇用形態を変えることによるコストの増加は実質事業所の負担になります。これが2つ目の壁となっているわけですが、それを補うには、正規雇用された職人がそうではない職人に比べて付加価値を生み出すしかありません。この部分を私たち一般社団法人職人起業塾の研修で現場実務者に伝えトレーニングをしているところですが、正規雇用された職人がこれまでの職人とは一味違う意識を持って、現場作業以外の役割も担い、責任を応用になればコストの問題は解決されます。

3.職人の意識改革と自助の精神

3つ目の壁は職人自体が抱えている問題です。今まで通り、図面通り言われた通りの作業だけを行う働き方を変えることができなければ、今まで以上の付加価値を生み出すことができないのは当然です。逆に、現場作業以外の施工管理や顧客との窓口などのマネジメント系の業務をできるようになれば現場監督の仕事を兼任できたり、営業として活躍する事も可能となり、格段に社員の職人がいる事の効果性が高まります。私は現場実務者向けの研修で「経営者的な視点を持って、顧客から厚い信頼を勝ち取ることで未来に大きな売り上げがあげられるようになる。」とマーケティング理論の根本にあるライフタイムバリューの概念を伝え、コミニケーションスキルを高める実習研修を行っています。それに加えて毎日コツコツと地道な努力を積み重ねることによって技術だけではなく、知識、資格の習得を促しており、単なる職人ではなく、有資格者としての施工管理や現場の収まりを把握している設計者としての役割までも担うことを推奨しています。これらの役割を全うできるようになれば、当然所得も大きく伸ばすことができますし、事業所にも大きな貢献を果たせるようになります。しかし、人は誰しも慣れないことにチャレンジするのは大きな勇気と決断が必要で、今まで通り慣れ親しんだ環境に甘んじたいと思うものです。職人自体が意識を変えて、働き方を変えて、役割と責任を広げなければ職人の地位向上も、職人不足の解消も決して進む事は無いのです。

100点満点理論

そんな一筋縄では片付かない職人の意識改革を進めるために、私は「現場改革顧問」として数社の企業に顧問として入り込んで職人の働き方改革と人事制度の運用に取り組んでいます。顧問先のとある事業所で現在取り組んでいるのは「100点満点理論の実践」なる取り組みで、まず顧客に工事完了後の細かなアンケートを行うことから職人の意識を変えてもらう取り組みをスタートさせます。そして、これは同時に職人に現場での顧客の窓口としての役割を与え、顧客とのコミュニケーションをとってもらうことがセットになっています。ものづくりのプロセスで作り手と住まい手がしっかりと内容を確認しながら工事を進めると、完成したときの顧客の納得感と満足感は一気に高まります。その上でアンケートに答えてもらい、100点満点の評価をもらえた先には知り合い等で工事をする人を紹介してもらえるようにお願いすることをルールとして決めて仕組み化します。そして、100点満点の評価を下してくれた顧客は、紹介を頼まれると探しでも繋げようとしてくれます。これが職人が自分が生み出す付加価値の大きさと可能性に気づく瞬間となるのです。

職人の意識がブランド価値を生み出す

ただ、普通にアンケートを渡されても100点満点の評価をつけるの人はあまりいないように、それは決して簡単に手に入る成果ではありません。だからこそ大きな価値があるのですが、工事を行っている期間中、誠実にお客さんに向き合い、たとえ喜ばれる提案まではできなかったとしても、確認を怠る事なく一生懸命汗を流して作業に向き合えば、ほとんどのお客さんは迷うことなく100点満点の評価をつけてくれます。汗を書いて一生懸命に働く人を悪く言う人はいないし、むしろ好感を持つものです。それが現場の実務者ならではの最大の付加価値であり、未来の売り上げにつながる最も効果性の高い営業活動となるのです。つい先日の会議で顧問先でもこの取り組みをスタートさせましたし、自分が経営する工務店でも100点満点理論の実践を長年取り組んできています。工事をスタートさせる時点から担当する職人が100点満点をもらう事を前提として意識して作業に勤しみ、お客様とコミュニケーションを取り続ければほとんどのアンケートでは想定している通りの結果が出ます。実際に私が経営する株式会社四方継でもアンケートの結果は殆ど100点満点の評価を頂くようになって久しく、当然、ご満足頂いたお客様からの紹介やリピート、口コミで受注が循環するようになっています。
そんな職人による顧客接点の強化を行い、職人達も熱心に取り組んでくれたおかげでもう10年以上、私たちは宣伝広告を一切行っておらず、自然発生的な集客と受注で事業が成り立つようになっています。ブランドと言うと大げさですが、現場で職人が高い意識を持ってお客様に接してくれるおかげで安心と信頼の輪を少しずつですが広げ続けることが出来ているのです。この記事を読まれた建築関係の方には難しそうで簡単、しかも圧倒的な成果を生む100点満点理論の実践を強くお勧めします。

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◆四方良しの世界を作る株式会社四方継のHP:
https://sihoutugi.com

◆一般社団法人職人起業塾のオフィシャルサイト:
https://www.shokunin-kigyoujyuku.com

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https://www.shokunin-kigyoujyuku.com/application/contact/

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