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本当は何が欲しい? 〜セカンド・ルネサンスへの問い〜

私が10年前から主宰している私塾「職人起業塾」では一貫して、現場主義で付加価値を生み出し、存在意義を認められる在り方と方法論を共に学び、実践する取り組みを続けています。また、5年前に一般社団法人を設立し、北は仙台から南は鹿児島まで全国で半年間15回の研修として事業化しました。現在大阪で第21期の研修を行っており、来年には東京で第22期の研修を開講する予定です。
これまで300名を超える塾生を輩出してきた私が、塾長として最も関心を寄せるのは、同じ理論を学び、同じ様に実践をコミットメントした卒塾生等がその学びを実務に生かしてIkigaiを持って仕事に向き合っていてくれているかどうかです。その確認の機会として、毎年、神戸でフォローアップの研修を行っています。

Ikigaiの説明

フォローアップとアップデート

今年のフォローアップ研修は残念ながら今までにない少人数での開催となりましたが、その分、参加者一人ひとりに丁寧に向き合って、しっかりと伝えるべきことを渡せたように感じました。毎年行うフォローアップは以前に学びを得てからの実務への実装の検証、もしくはその進化や発展について確認させてもらうのが主たる目的として始めました。あとは建設業の実務者には機会の少ない、実務以外の考え方や概念、業界の動向や環境の変化について学び続ける姿勢、習慣を持続してもらうこと。
それが近年、その趣旨が少しずつ変わって来ています。それは、研修の中で常に言い続けてきた時代の大きな変化がいよいよ表面化してきて、建設業にも大きな影響を及ぼしていることに由来します。今までの延長線上に、これからの事業の継続は見いだせない時代に突入したからです。新しい時代に向き合う思考や在り方をアップデートしてもらうのを目的にテーマを持って話すようになりました。

第3部はコーチング基礎セミナー

実務者向け研修を行う理由

時代の大転換期を迎え、経営の在り方もやり方もこれまで通りでは通用しなくなったからといって、経営者ではなく、職人や施工管理士のような現場実務者に伝えたところで何が変わるのか?と思われる方もおられると思います。しかし、現場主義の観点からすれば、経営者にいくら概念を伝えたところでそれが方法論となって現場に落ちなければ全くなにも変わりません。UXデザインの視点から、モノづくりの本質を現場で生み出す「体験」だと定義すれば、経営者が学び、理解し、変わることはもちろん大切ですが、それよりももっと現場が変わる方が重要です。私の創業時の志は職人が未来を見据えて安心してやりがいを持って働ける環境を作ることであり、事業所はその環境そのものです。その観点から観れば、経営者を通して現場を変えて環境を整えるよりも、現場から変容を始め、ボトムアップで経営者が変わる方がよっぽど効果性が高いと思うのです。なので、出来るだけ平易な言葉で現場実務者に直接、時代の変化を象徴的に捉えて伝えるようにしています。経営者は実務者に刺激されて学べばいいと思っています。

問いを持つことを問う

本当は何がほしい?

今回のフォローアップ研修で私が投げかけた問いは「本当は何がほしい?」との根源的な質問でした。そして、問いに対して反射的に返す答えはおおよそ表面的で「本当」ではないのをセットにして、本当に?との問いを繰り返してみるように勧めました。これは自分自身に投げかけられた問いであるとともに、自分が周りの人、顧客、同僚、取引先等のあらゆるステークホルダーに対して問いかけてみる、もしくは直接訊いてみるのではなく、目の前の人が本当は一体何を欲しているのか?を想像することの推奨です。
人は本当のことはなかなか口にしないもの。しかもそれは、意識して嘘をついている訳でも誤魔化している訳でもなく、気づいていないことが非常に多く見受けられます。また、表面的な反応が一般的になり過ぎており、質問に対して返ってくる言葉が真意では無いことを薄々感じながらもいちいち突っ込んで質したりしません。人は大まか虚構の中で生きているのです。

コミュニケーション理論に基づいたフィードバック

人の心はどこにあるのか?

本当のことに目を向けない、表面的に上滑りする世界での人間関係は希薄です。ありがとう、と感謝されても二度と注文が繰り返されることはないし、別に問題はありません。と合格点をもらっても、裏で愚痴をこぼされて悪評を撒かれます。分かりました。と返事をもらい理解されたと思いきや、全く納得しておらずに無視されたり、がんばります!とコミットした人は全く何の変化も起こしません。この世の中、大体そんなもんです。
しかし、こんな薄っぺらい関係性、虚構で塗りつぶされた世界で人は幸せに生きることができるのか?と思いを巡らせるとそんな世界は誰もが望んでいないように思います。社会と言われる人の営みの集合体が人の幸せを目指すものであるべきならば、本当のことに想いを馳せて、本当に感謝される、本当に喜んでもらう、本当に納得してもらう、本当に約束してもらえるようになるべきだと思うのです。非常に深く険しい道のりではありますが、人の心はどこにあるのか?との問いをずっと持ち続け、慎重に人に向き合うべきだと思うのです。そして、それが出来れば、先行き不透明で不安定、複雑曖昧なVUCAの時代にも一筋の光を見出せると思うのです。

セカンド・ルネッサンス

人を人として観る。人はモノでもなければ金でもない、ましてや道具でも家畜でもない。
天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず。と福澤諭吉先生が言われた通り、人は一人残らずかけがえのない唯一無二の命の宿った人であり、誰もが何人たりとも尊厳を犯される事ない存在である。
そんな原理原則=本当のことにしっかり目を向けて、真摯に誠実に人に向き合うことこそが、これから今までに人類が経験したことのない人口減少局面にぶつかって、労働力の圧倒的不足と市場収縮が同時に押し寄せる時代を生き抜く鍵になると思うのです。その昔、ヨーロッパで起こったルネサンスは古典への原点回帰と言われますが人文主義(ヒューマニズム)への進化であり人への賛歌です。建築の分野ではブルネレスキがルネサンスの建築家の始めとされ、フィレンツェ大聖堂に大ドームをかけるという課題に合理的な解決をもたらして、中世の職人とは異なる、高い教養と科学的知識を持つ建築家として賞賛を浴びました。
「人間はあらゆるものになる可能性を持っている」と説いた人文主義者アルベルティが建築論と実作、絵画論など多くの分野で業績を挙げたその時代は確かに人を人として観る機運が高まったムーブメントが巻き起こって暗黒時代と言われる世界を変えました。私たちは今、二回目のルネサンスを起こす入り口に差し掛かっていると感じます。それを広く実務者に伝え、ムーブメントを巻き起こす活動を続ける所存です。待ち侘びた本物の時代の到来です。

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ボトムアップから組織を変える研修、教育、学校事業を行っています。


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