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職人を社員として雇おうと思うのですが、給与はどう設定したらいいですか?にお答えします。

SNS上に工務店経営者ばかりが集まって情報共有をしている場があります。そこでは実業を営んでいる経営者が実際の事業で培った知見を共有し、タイムラインに相談を投げたら、業界のメディアで常連になっているトップリーダーの方々が気さくに様々な角度からアドバイスを返してくれる非常にありがたいコミュニティーが形成されています。技術的な投稿が多いのですが、中には組織作りやDX化、ごくまれに職人の採用育成等の相談も挙げられることがあり、職人育成と実循環型ビジネスモデルの構築をワンセットにして研修やワークショップを行っている私もそんな時は張り切ってお答えするようにしています。

大工社員化の難しさ

そのサイトに先日このような投稿がありました。「これまで大工は外注扱いの職人に工事を依頼してましたが、縁あって社員になりたいと言う大工が現れました。中途採用で給与の設定をするのに社会保険や厚生年金、その他経費を会社で持つことになり、日当からそれを差し引いて月給にすると非常に少なく感じられます。どのように給与設定するのが良いのでしょうか?」
大工の内製化を行い、社員大工を育成して事業を行っている経営者たちは社員になる事によって事業所が負担する経費と、それまで自分自身で負担していた国民保険、国民年金とは全く違う補償の分厚さをしっかりと説明して納得してもらうことが肝要だと皆さん書き込みをされておられました。私も全く同意見で、職人を月給制で雇用する場合、まず初めに目先の手取りの金額だけに惑わされないように社会保障の違いを含めた丁寧な説明が必要だと思っています。

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業界の標準単価の壁

ちなみに、日当20,000円の大工が月に25日働いて稼ぐのは500,000円、年間ずっとその調子で現場に出続けたとしても6,000,000円が年収です。そこから保険や年金、ガソリン代、駐車場代、車両費や道具代等のかかる経費を差し引くと年間1,500,000円ではすみません。実質の手取りは個人事業主の大工の実質の年収は3,500,000円から4,000,000円位なのが現実です。しかも、50歳をピークに体力の衰えとともに稼ぎは減少していくのが、下請け、手前請けで仕事をする個人事業主の職人の世界の習わしです。その現実に正面から向き合った上で、社員の第9としてどのような働き方をするのかを一緒に考えることが大切で、今までの外注大工だった時と同じように決められたことをただこなすだけの作業員に毛が生えた程度の大工では社員になったところでそれ以上稼ぐことは出来ません。

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コストを負担する顧客の目線

給与設定をいくらにしたら良いでしょうか?との質問に私が答えたのは、大工にも役割と責任の定義を明確にしたキャリアプランをまず作ることだと言うことです。社員大工だからといって特別高い単価をお客さんからもらうわけにはいきません。お客さんからしてみれば丁寧で確実な仕事してくれたら職人が社員であろうとなかろうとそんなことはどっちでもいいからです。日本全国どこに行っても(1部の関東圏では単価が高騰しておりますが、)職人の日当はそんなに大きな違いはありません。現場作業をするだけの大工では上述したようにせいぜい年収4,000,000円程度しか稼げないのが今の建築業界の現実です。コストを負担する顧客の目線に立てば了解の標準単価以上の費用を請求する上以上に難しいのが実際のところです。

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職人は道具でなくタレントだ

ただ、私は職人をやっている人はそもそもすごい才能を持っていると思っていて、現場作業以外にも様々な役割を引き受けて付加価値を生み出すことができると信じています。例えば建築士の資格を取って施工管理を行いながら現場作業をするとか、現場でお客様や近隣住民とのコミニケーションをとって次の仕事を受注できるように信頼関係を築くとか、若者を預かって後進の育成をするとか、現場でしかわからない知見をもとにして設計のディティールを考えるとか、工事にかかる工数をリアルにイメージして詳細な見積もりを作るとか、綿密な工事スケジュールを立てるとか、現場作業ができる人材には実は大きな可能性が秘められています。少し意識を変えて役割を広げるべく一歩を踏み出せばそこで生み出される家ちわ会社の利益となり当然本人にも還元されるべきです。そんな道があることを指し示すことが何より重要だと思うのです。

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棟梁の役割と責任

私が代表務める株式会社四方継で運用しているキャリアプランをざっくりとご紹介すると、新卒で入社した大工見習いは最低賃金からスタートします。年収3,000,000円そこそこですが、2年目から職人のランクにアップして技術と知識の習得によって毎年給料が上がってきます。職人としての年収のアッパーは上述したように4,500,000円位までで、その先にリーダー層のランクに進んでもらうようにしています。そこでは建築士もしくは施工管理技師の資格を取得して作業とともに施工管理とお客様対応の窓口、いわば営業職も兼ねてもらいます。昔で言うところの棟梁の仕事だと説明すればわかりやすいかもしれません。そこで年収は600万円まで望めて、歳をとって体力が落ちて現場の効率が下がってたとしても違う役割でしっかりと稼げるようになっています。

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運用が全て。

リーダー層の上はマネジメント層で年収の上限は会社の利益によって左右しますが上限を10,000,000円に設定しています。ここに来ると、従業員ではなく会社を運営する側の立場に立って事業に向き合ってもらいます。現在私が行っている5年後を見越しての事業承継はこのマネジメント層のスタッフ5名に対して行っており、私が引退した後はマネージャーたちの5人で会社を運営してもらうことを計画しています。大工になりたいと若者が新入社員で入ってくる時点でそこまでのキャリアパスを提示して、毎年数回やる面談の際にその進捗を確認しながら役割と給与のバランスをとりながら運用しています。もちろん、職業選択の自由は人間の権利ですから、人の上に立ってリーダーとして働きたくないと申し出れば単に職人として働いてもらうことも可能です。しかし、現場でものづくりができる人は組織の構造化もできると私は信じています。

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役割と責任と給与の不整合を防ぐ

経営陣に入るところまでのキャリアプランを設定する必要があるかはさておき、役割と責任と給与の関係を明確に定義して表示して見える化することで、中途採用で入社した人の給料がちぐはぐになる事は避けられます。大体、中途で採用する際に面接で今までの稼ぎを聞いてついそれに合わせてしまおうとしてしまいます。明確な基準がないまま前職の所得を忖度すると、仕事の能力と給与が整合しなくなり、結局社内から不満が噴出すようになってしまいます。入社してもらうことが目的ではなく、一緒に働いて成果に結びつけお互いに気持ちよく幸せになってもらう事が採用の目的であるならば、職人の採用に限らずキャリアプランや等級制度の整備を行っておくべきだと思うのです。

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無料で帳票配布してます。

実際、やってみればそんなに難しい事はありませんし、私どもで運用しているExcelシートでよかったら参考までに差し上げます。職人を採用したい、時代を担う職人を育成したいとお考えの方はお気軽にご連絡をいただければと思います。ちなみに、今回SNSに質問を投げかけられた経営者にもお送りしてオンラインで簡単な運用の説明をして差し上げました。また、一般社団法人職人起業塾では、人事制度改革やキャリアプランの構築のワークショップを不定期ながら全国で開催しております。コロナが落ち着けばまた再開しますので、タイミングが合えばぜひそちらに参加してみてください、1日で即運用できる等級制度、キャリアプランを作れるようにサポートします。

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職人育成と人事制度改革のサポートしています。


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