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伝統技術を学べ、オリジナルを作れ。 @左官を考える会

観測史上最も早い梅雨入り宣言は果たして正しかったのか?と訝ってしまうくらい、好天に恵まれた週末、久しぶりにリアル型のイベントに参加してきました。日本の左官業界を牽引するカリスマ左官の植田親方が主催される「左官を考える会」の技術研修会で、私の地元からほんの30分ほどに位置する淡路島の東側、総合建築植田社の倉庫での開催と言うこともあり参加させていただきました。日本の伝統工法を後進に伝える左官職人の頂点に立つ親方の教えは非常に深く重たい示唆がとても多くあり、その気づきを書き留めておきたいと思います。

ほんまもんの仕事の提案

私は元大工で、左官仕事は素人に毛が生えた程度です。左官鏝などの道具もろくに持っておらず、技術研修会に参加するなんておこがましい限りで、半分見学のつもりで参加表明をしましたが、今回は土壁や漆喰、モールテックスなどの様々な左官仕上げの小さなサンプルを作る研修会と言うこともあり、「高橋さんでもできるやろ」との言葉に背中を押されて1尺角のサンプルを数枚自作してきました。また、植田親方がこれまで長年、設計事務所等との打ち合わせの際に携行していたサンプル板を収納、持ち運ぶ箱も購入させてもらい、淡路の土を使った土壁や、漆喰の様々なパターン仕上げ、また最近店舗工事などで人気を博しているモールテックスなど、最新の左官仕上げまでサンプルを持ち帰ることができました。「受け継がれる価値のある丁寧なものづくり」をスローガンに掲げて、既製品や新建材を使わない建築を推し進めている、つむぎ建築舎のメンバーとシェアして、今後の外壁や内装、カウンター仕上げなどに伝統的な左官の技を生かした仕上げの提案を増やし、お客様にホンマもんを知ってもらう機会を増やせるように活用してもらいたいと思います。

職人という生き方

日本の左官業界の頂点と言われている植田親方とは、ひょんなきっかけ(紹介ですが)で私が主催する私塾に親方が参加されて知り合いになりました。初めて出会った時は、「歳食っても意識が高い勉強熱心な左官のベテラン職人のおっさんがいるもんや、」と驚きましたが、後で紹介された方に「日本の左官のトップに失礼なこと言わないでください」と叱られ、ただの職人ではなかったのだと理解して、頂点に立つ人ほど謙虚に学ぶ姿勢を持ち続けるものだと大いに感心させられました。植田親方の凄いところは、全国の職人から教えを請われる圧倒的な技術と経験、そして知識を身に付けておられる名実ともに大御所であるにもかかわらず、少しも偉そうなところがなく、私みたいな若輩者に対してもしっかりと耳を傾けて、認めるところは認める、違うと思うところは違うとフランクに指摘してくれるところです。職人の道を極めた人だけが持つ飄々としたオーラをいつも身にまとい、職人という生き方を選び、突き抜けたかっこよさを強く感じさせられます。私から、いつも無理なお願いばかりを聞いてもらってばかりで恐縮しておりますが、相談すれば絶対に答えをもらえるというのは、現場で叩き上げてきた第一人者が持つ特徴なのかも知れません、とにかく、尊敬するだけではなく何かと絡ませてもらいたいと思ってしまう凄い方です。

稼げる職人になれ!

この度の淡路での技術研修会は、コロナ感染拡大防止に留意して20人程度の少人数で行う様に変更されたとのことでしたが、イベントのリリースから1日もしないうちに定員を大幅にオーバーする人気ぶりで、今回も全国から左官職人たちが集まっておられました。塗壁がまるで鏡のようにピカピカになる大津磨や京都の重要文化財などで見られる京磨き、版築などの伝統工法、そして近頃人気のモールテックスや植田親方自らが材料を開発したオリジナルの樹脂モルタルの仕上げ、海藻を煮詰めて糊を作って土を塗る土壁の施工など、吸収しきれない程の圧倒的な情報量を提示され、その一つひとつについて、質問すれば疑問に全て答えてもらえる親切な研修会で、理解が薄い人は個別でいくらでも教えてあげるとの姿勢は全国の左官職人から慕われるのも当たり前、毎回、全国から何十人もの職人が集まるのも無理はないというか、当然なのが良く理解できました。
また、単に技術面のみの講習会ではなく、せっかく伝統技術を学んでも提案する力が無ければ使い道がない、付加価値提案を出来る職人になれと、営業面でのレクチャーを行ったり、桐で作ったサンプルケースまで作って販売し、実際の提案営業のロールプレイングに近い詳細な説明をされているのには本当に驚かされました。左官を伝統技術の継承と共に稼げる職人にするその姿勢は実際に現場で叩き上げてきた人の卓越した経験則から生み出されているように感じた次第です。

オリジナルを作れ!

植田親方が何度も繰り返し口にされたのは、材料を自分で配合してオリジナルを作れ、という既製品からの脱却の提言です。左官の材料は非常に奥が深く、土やセメント、石灰、石、すさや藁など、さまざまな材の組み合わせで自由自在に作れます。しかし、近年は化学製品メーカーが樹脂や糊の研究開発を繰り返し、袋を開けて水と混ぜるだけ、一発塗りで誰でも同じ仕上がりになるような商品を作ってきました。植田親方に言わせると、そんなものを使うから、値段勝負になり面白くもない、しかも価値のない仕事になってしまうのであって、材の性質を知り、研究と試行錯誤を繰り返して自分独自の材料の調合方法を見つけることで、オリジナルの商品を誰にでも作れるはずだ、オリジナルを作って提案する左官になれ!と檄を飛ばされていました。もちろん、これは左官に限らず、私たち大工にも同じことが言えるわけで、私たちが既製品の建材を排して全て木作りから行おうとしているのと考え方は完全に一致します。植田親方の言葉や考えだけではない、それを実際の仕事に実装して全国からオファーが集まるのを間近に見ている私は、突き抜けた現場力こそがやっぱり、モノづくりの世界では最大の武器になるのだとまざまざと見せつけられた気がします。左官の研修会に大工が一人紛れ込んでいる感じは否めませんでしたが、様々な意味で本当に勉強になりましたし、次回も是非参加したいと強く思いました。快く受け入れて下さった植田親方には心から感謝いたします。深謝。

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技術と同時にマインドを鍛える研修やってます。

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