若者の衝動に巻き込まれてみた。
私は月に1度、「職人起業塾改め継塾」なる、ビジネスに原理原則論を落とし込むための勉強と実践を行う勉強会を開催しています。今月で第93回目を迎え、足掛け9年程にになるこの会は元々、自社の大工スタッフ向けの独立支援として始めた勉強会ですが、取引先や知り合いに口コミで広がって今では様々な業種の方や学生さんがオンラインを含め毎月20〜30人程度集われて熱心に学び、学んだ内容を実践される会になっています。
ひょんなきっかけで昨年から熱心に通われている1人の若者が、この勉強会に来ることになったの皮切りに、BNIや倫理法人会などに参加されるようになり、とうとう今年、大企業を退職して自分のやりたいことをやるのだと独立起業されました。その若者が、とある飲み会で沖縄の貧困問題を取り上げた書籍『沖縄から貧困がなくならない本当の理由 』を上梓された沖縄大学で教鞭をとられている樋口耕太郎氏に会って話を聞いてみたいと話しているのを一緒にいたBNIメンバーの香園さんが聞いて、知り合いなのでつなげてあげるから会いに行こうと言うことになり、同席していた私も(以前から興味を持っていたこともあり)巻き込まれる形で今回同行してきました。
人生は人との出会いで変わる
『人間は一生のうちに逢うべき人には必ず逢える。しかも、一瞬早すぎず、一瞬遅すぎない時に。』との森信三先生の言葉は非常に有名ですが、私自身、人生が大きく転換するのは人との出会いが起点になることが少なからずあり、出会いが出会いを呼び、行動が次なる行動を誘発することでそれまで想像していた未来が大きく変わることをこれまで繰り返し経験してきました。私が主宰する塾に参加して、今まで理想と現実のあまりにも大きな齟齬に悩んでいたと言う彼は、原理原則に則ってビジネスモデルを構築しようとしている私たちの姿を見て、理想を追い求めても良いのだということに気づき、圧倒的に安定した人生を投げ捨てて、自分がやりたいこと、人に喜ばれることを実行して、自分も生業を成り立たせたいと一歩を踏み出ました。
ただ、『道徳のない経済は罪であり、経済のない道徳は寝言である。』との二宮尊徳先生の言葉通り、理念と経営の両方を両立させるのは、そんなに簡単にできることではなく、圧倒的な付加価値を生み出すには、誰も行っていない問題解決を行う力が必要で、それなりに情報収集やアイデアを生み出さなければなりません。私は彼が起業することになった責任の一端が多少なりとも自分にもあることを自覚していたこともあり、彼の今回の衝動的な行動に巻き込まれてみました。今回の沖縄では、コロナ下ということもあり、あまり多くの人と接することはできませんでしたが、その分、その彼とじっくりと対話する時間も持つことができたし、また、人と人を繋げる圧倒的な力を持つ香園さんのウチナーンチュ、ないちゃーを取り混ぜたコアな人脈をご紹介いただき、沖縄ならではなのかは分かりませんが、熱く高いエネルギーを感じたりと非常に内容の濃い時間を過ごすことが出来ました。
興味本位とバケツ理論
今回、私が若者の衝撃的な行動に自ら巻き込まれた理由は、主に2つあります。1つは、自分の意思で人生を切り開いていこうと決心し、行動を起こした若者が、悩み考え、答えを探し出す過程で、貧困を解消するには健全な自己愛と他者を思いやる愛を理念の中心に据えるべきとの持論を展開された本の作者に実際に会って話したいと言葉に出して、それを実現する様を間近で見てみたいと言う、ある意味興味本意でもあり、同時に私が先輩経営者たちに散々してもらったように、起業して間もない若者をサポートしてあげたいと言う想いです。もう一つは、その若者を全く見返りを期待することなく全力でサポートする香園さんのコミニケーション力と言うか、応援力というか、他者への貢献に対するものすごいエネルギーの使い方を間近で見ていて、その原動力、思考と行動の根っこの部分を垣間見てみたいと思ったことです。
心理学の大家アドラー博士が「人間の抱える問題は全て人間関係に由来する」と断じられたのはつとに有名ですが、もしその理論が正しいならば、コミュニケーションこそがあらゆる問題を解決する鍵と言っても過言ではありません。そして、人間誰しもが持つと言われる返報性の法則(貢献されるとお返しをしたくなる心理)や二宮尊徳先生が提唱されたバケツの法則(相手に利を渡せば渡すほど回り回って自分のところに帰ってくる)を鑑みれば、自分の目先の利益を顧みず、人のために奔走する人間こそ、豊かな人生を送れるようになってしかるべきです。それを実践されているように見受けられる香園さんと同じ時間を過ごしてそのコミニケーションを間近で感じてみたいと思った次第です。
優しいさー、はパワー
今回の沖縄行で私が若い起業家の彼に何かしらの貢献ができたかどうかはよく解りません。ただ、今回一緒にゆっくりとした時間を過ごしたことで、今後の彼とのコミュニケーションの質は少し変わるような気がします。効率を追い求めても人は幸せになれないのは歴史が証明していると私は思っていて、一見、非効率で何の意味も無いような無用の用こそが、少し高い視点で人生を俯瞰したときに大きな効果を発揮すると思っています。その意味では決して悪くない時間を過ごせたのではないかと思うのです。一方、私のほうは非常に深い示唆と多くの気づきをいただくことができました。ぼんやりとしているけれども、明確な答えとして理解できていなかった先義後利のコミュニケーションの在り方について、今度こそ確信が持てたような気がします。それは、良い人の周りには良い人が集まり、熱い人の周りには熱い人が集まる。情熱はあらゆる問題を突破して、思考を現実化する力になる。そして、相手のことを優先して考える人の集まりは圧倒的なパワーと影響力を生み出すということです。沖縄の人は同調圧力に弱いとか、出る杭になりたがらないとか言われることもありますが、私は圧倒的に心根が優しい人が多いと言う印象を持っていて、今回も数日間過ごしているだけでも随所にそう感じるシーンがちりばめられていました。以前、沖縄で建築の仕事をしていた時は、だめなことをだめと言わない、無理なことを無理と言わない、「やってみましょうねー」という、優しいのか不誠実なのかわからない態度にずいぶん戸惑いましたが、結論としては、それらすべてひっくるめて優しいのだと思います。そして、最終的に常に相手の心を慮る優しさは圧倒的なコミニケーションの力になり、それが良い方向にベクトルが揃ったとき、相乗効果が発揮されるのだと思うのです。
人は鏡やで。
先に義を果たせば、自ずと利は後からついてくる。明治から昭和にかけての激動の時代に、(時代に後押しされた面もありますが、)渋沢栄一翁をはじめとした現在にも名を残す圧倒的な功績をあげた多くの経営者が大事にされた商売観は、テクノロジーとICTの圧倒的な進化を遂げた今も変わらぬ真理として世の中に根強く残っているのを今回、改めて感じさせられました。人は鏡、と言われますが、良いことをされたら良いことを返したくなる、複雑怪奇な今の世界を読み解く鍵はそんなシンプルな人の感情のふれあいや交流なのかも知れません。本質的な学びは書籍やインターネットの中にあるのではなく、やっぱり人とひとなのだと感じた非常に良い時間を過ごすことができました。きっかけを作ってくれた山中くん、そして香園さん、また沖縄で出会い、親切に懇意にして下さった皆様にこの場を借りて心からの感謝を述べたいと思います。本当にありがとうございました。感謝いたします。そして、このご縁をつむぎ、今後に生かして私も心根の優しいオヤジになりたいと心から思います。深謝。
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ちなみに、今月の継塾は5月19日(水)の開催です。無料の勉強会ですので、ご興味があればお気軽にご参加ください!