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よみがえる限界集落

少し前に、私たちが実証実験を行っている地域通貨をデジタルで全国に展開、お金の定義を見直す活動をされているeumoの新井社長がFacebook上でオンラインイベントを行うとの告知をされているのを見かけました。日本のESG投資会社の草分けとして有名な鎌倉投信の代表取締役だった新井社長は私が世話人として参画している経営実践研究会のアドバイザーでもあり、受刑者の再犯防止、社会復帰にも積極的に関わられていることもあり、様々な場でお会いする機会があります。
私とは非常に価値観が近いと感じており、主催されるイベントに興味を持ちました。そこで告知されていたのは「よみがえる限界集落」という本を上梓された細羽雅之さんとの対談企画で、私自身も過疎地での古民家再生などにも携わっていることもありましたが、何より細羽さんは10年以上昔に経営者セミナーでご一緒してから、注目していた経営者で、是非とも話を聴きたいと即、参加を申し込みました。

プロローグ 2020年4月7日―生き方を見つめなおす転機となったコロナ禍
第1章 時間と数字に追われ続けたホテル経営時代 都会で働くこと、生きることに疑問を覚える(自由な環境で生まれ育つ
バブルの熱に浮かされて ほか)
第2章 限界集落のホテル再生プロジェクトで人口270人の町に移り住む 大自然と暮らすことで教わった人間が生きる意味(限界集落は“恵まれている"
ここにしかない歴史がある場所 ほか)
第3章 大自然でクリエイティブな生き方を見つける 限界集落だからこそできる「自分らしい生き方」とは(金太郎飴から脱却せよ
By nameで生きろ! ほか)
第4章 資本主義から「森の人間主義」へ―「森の国リパブリック構想」で地方創生を目指す(Society5.0のモデル集落に
伝統と革新を両立させる ほか)

https://shop.ruralnet.or.jp/b_no=05_34494183/

オンラインでの再会

オンラインイベントに参加して久しぶりに元気そうなお顔を会見して、少し話も出来たのはとても嬉しい体験でした。何より、広島でホテル経営をしておられた細羽社長が世界中のホテルにエスノグラフィー的な宿泊体験を繰り返しておられたのをFacebookで拝見しながら、ホテル業界が壊滅的な打撃を受けたコロナ禍を乗り越えて限界集落で暮らし、その再生と宿泊事業を融合されているとの近況を聴けた、そしてeumoに加盟して地域通貨の流通に取り組み、行き過ぎた資本主義社会に対するアンチテーゼを突きつけているのを聴いて、私達が近年取り組んできた事業ドメインの転換、生業を変えるレベルの業種としての意味のイノベーションと符牒が同じなのを感じて、納得と共に大きな共感を抱きました。同じタイミングで同じ学びをした仲間が、結局、同じような方向性に進み、それぞれ全く違う業界ではありますが、非常に近い価値観を持って新たな業態を生み出そうとしているのに深い感銘を受けました。同時に、自分たちが歩んできた、歩んでいる方向性が間違いではないのだとの自信も深めることになりました。

経営者として在り方を問う書

そのオンラインイベントに参加した後、すぐに「よみがえる限界集落」を購入しました。書籍の帯に「コロナ禍で全館休業したホテル経営者が四国の山奥、限界集落で見つけた新しい生き方」とありましたが、読んでみると破綻の危機に際した経営者の事業再生までの顛末を書き綴った本というよりは、新しい時代に向き合う経営者としての姿勢や価値観について深く考察を重ねた書だと感じました。
細羽社長と同じ研修に参加していた時、私の課題は社内メンバーのモチベーションの設定や関係性の構築、要するに組織づくりでした。同じ研修を受けているということは同じ課題を持っている訳で、そこに集まった経営者は皆が組織のパフォーマンスをどのように高めるか、CS(顧客満足)とES(社員満足)とPL(損益計算書)のバランスをどのように取るかについて悩み、迷いを持っていたのだと思います。私達ももちろん例に漏れず、経営者としてそれらを整合させるには人材育成が欠かせないことはわかっている。しかし、どのようにすればその理想が実現するかの答えを見出せずにいた時期だったと思います。

KPIからタレンティズムへ

「よみがえる限界集落」の本には細羽社長の生い立ちから、その当時の経営者の苦悩までが赤裸々に綴られており、学び、試行錯誤を繰り返しながら、成長していった過程が思考や思想の転換と共に詳細に書かれています。
明確な目標を設定して詳細なKPIを設ける管理型の組織に本質的な社員の成長はなく、主体性に任せ、自らの良心に従ってやりたい仕事をできる、裁量を渡し、自立した人材育成に進んでいった過程も私たちが取り組んでいるタレンティズム(才能主義)にとても近い方向でした。
また、際限ない成長拡大に背を向けて規模の拡大に蓋をして、そこで働く人の生きがいと自分たちの事業が生み出す存在価値を中心に据える経営方針も非常に近い考え方で、その結果、日本中で大きな社会課題となっている限界集落の再生というホテル経営とは全く毛色の違う事業がドメインに変わったのは、私たちが脱建築請負業を掲げて、地域の活性化や課題解決、教育事業へとドメインを移してきたのとも業界は違えども同じ方向に進まれているのを感じました。

マーケティングからUXに

細羽社長はコロナ前に福山の駅前でビジネスホテルを営業されていた際に顧客の口コミにあった一言が大きな気づきをもたらしたと書かれていました。それは「このホテルに愛が感じられなかった」との苦言やクレームとは別の残念な宿泊客の言葉です。15年ほど前からモノからコトへ、がマーケティングの世界では合言葉になり、顧客の体験をどのようにデザインするかが実は経営の最も重要な課題であると言われてきました。細羽社長はそのリアルな顧客の言葉によって、顧客体験(UX)をデザインすることに目覚められ、新しい価値を生み出すホテルへのチャレンジを進められたとのことでした。これも、私が熱心にUXデザインを学びにビジネススクールに通っていた時期と重なり、当時、細羽社長の広島での新しいホテルのオープンのFacebook投稿を遠目に見ながら、時代のうねりを感じていました。

未来に繋がる場所

コロナ禍を経て、四国の山奥の目黒集落で水際のロッジの経営とその限界集落での暮らしにシフトされ、人の営みや幸せの本質を見出し、際限ない成長を追い求める強欲資本主義から抜け出して、持続可能性、包括性、回復性といったグレートリセットで提唱された新しい社会システムの価値基準を暮らしとビジネスの両方で体現されている細羽社長の姿は本当に素晴らしく、本を読んでいて眩しささえ感じました。そして、「水際のロッジ」や「森とパン」単に、景色が綺麗な山奥のホテルに宿泊やアクティビティーに行くのではなく、VUCAと言われる混迷を深める今の世界から、今後私たちがどの方向に進めばいいのか?どこに価値を置けば人の幸せは実現するのか?との根源的な問いに向き合う、そんな場になっているのではないか、未来へのヒントを感じられる体験がそこにあるのではないかと感じさせられました。
実は以前からチェックしておりましたが、これを機会に近いうちに目黒集落の森の国に絶対に訪れたいと思いました。
とにかく、まずはこの「よみがえる限界集落」の一読を強くお勧めします。

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学歴偏重の社会から若者に生きがいを持てる社会に。職人育成の高等学校の事業を通じて本物のキャリア教育のネットワークを全国に構築しています。

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