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判断する力

先週末は梅雨らしくしとしとと雨が降ったりやんだりが続きました。金曜日はこれから着工する新築現場の地鎮祭を執り行い、土曜日は進行中の現場の建て方工事がありました。雨は禊の効果があり、すべてを洗い流し浄め給う、神事に雨は決して悪いものではなく、逆にありがたいものだと地鎮祭に来てくださった大宮八幡宮の宮司さんはおっしゃっておられましたが、足元が滑る状況での上棟工事はリスクが高く、決して喜ばしいものではありません。

大工の決断

雨が降ったりやんだりの、正直うっとうしい天候の中、建て方工事をを延期せずに敢行したのは現場を担当している大工スタッフの判断です。正直、私としては順延した方が良いのではないかと思いましたし、そのようにアドバイスもしましたが、担当大工の本人が建築吉日の日和や、お客様の都合、全体的な工程、その他諸々を鑑みてやると決めました。との事だったので、その判断を尊重して余計な口出しをせずに任せることにしました。

小雨が降りしきる中、現場を覗きに行ってみると、予定通り上棟を済ませて、明日、余裕を持って床や屋根を伏せますと、予定していたよりも雨量が多く、待機する時間が長かったにもかかわらず、これも想定内だと担当の大工の大ちゃんは胸を張っておりました。私としては、お客様に喜んでもらい、スタッフ達も納得する仕事ができて、予定通りの工期内で適正利益が確保できていれば何も言う事はなく、くれぐれも安全対策だけは怠らないように、「ご安全に」と声をかけて現場を後にしました。

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判断に必要な優先順位とバランス

建築の仕事を生業にしていると、天候によって作業の内容やスケジュールが左右されることが非常に多く、工事を進めていく上で多くの人が関わるだけにその判断は簡単ではありません。安全第一と言われるように、事故を起こすリスクを避けるのはもちろんのことですが、お客様の意向を無視するわけには絶対に行きませんし、合板などの水に濡らすとダメになる材料があったり、せっかく塗布した防蟻用のホウ酸が流れてしまい出戻りで施工をやり直したりと利益を圧迫する金銭的な影響も発生します。もちろん、工事を止めると工期は伸びてしまいますし、短期間で遅れを取り戻すために余計な人員が必要になったりもします。日常的に天候と言う我々人間にはコントロールできないモノが要因で判断を迫られるわけですが、すべての面を完全にカバーした判断は不可能と言っても過言ではなく、優先順位を明確に持ちながらバランスを考えて常に、今できる範囲で最善の判断が求められます。

正解がない問いに対する判断

私たち株式会社四方継では、現在5年半後の事業承継の準備を進めています。代表である私が職を辞して、リーダーによるグループで話し合い組織を運営する体制へと移行を目指しておりまして、建築の実務的な面で見ると、社内のメンバー構成はすでに在籍10年以上を超えるものが過半数を占めており、私がいなくなったところで大きな問題はさほどありません。しかし、何か大きな問題が起こったときや、正解が明確に存在しないことに対する判断を迫られた時に、明確なリーダーが不在の組織で、最善の選択ができるかが事業承継を行う中で最も重要な問題になると思っていて、その際の判断基準や優先順位を今の移行期間の間に共有したいと思い、毎月会議を重ねてています。

上述の雨の日に上棟工事を敢行するかどうかもそうですが、物事は深く考えれば考えるほど判断が難しくなります。そもそも、営利団体である事業所を運営するには、適正な利益が必要で、事業を長く存続するには1人ずつのお客様の満足と、固い信頼関係の構築が欠かせません。利益確保と顧客満足、また関連業者や職人さんにも納得してもらいながら、スタッフにも負荷を掛けすぎないようにするには、四方全ての人たちと圧倒的な信頼関係を構築する必要があります。毎日迫られる1つずつの判断が全て同じ目的、理念に向かわなければ、そのような状態は絶対に実現する事はないと思うのです。決して簡単に正解が導き出せる事は無い難しい問いに対して果敢に向き合う姿勢が何よりも重要だと思っています。

時間軸と問題解決の思考ルート

判断は常に時間軸とセットです。そして、判断を下すには問題を解決する能力が欠かせません。判断を下すことに躊躇しての問題の先送りは解決を容易にする事はほとんどなくて、より問題を複雑に、難しくしてしまうことがほとんどです。時間に追われながらあらゆる選択肢を並べて、結果を予測できるように条件を整え、情報を集めて判断を下すには責任を引き受ける覚悟と決意も必要ですが、問題を整理するための解決の思考ルートを持っている事が必要です。責任を引き受けると言うとずいぶんとハードルが高い様な印象を受けますが、法律に照らすと責任は薄まりますし、あらゆる選択肢をシミュレーションした後の正しい(と信じられる)選択は勇気を与えてくれます。また、問題解決のルートを平素から整理をしておく事(自分の影響の範囲で解決出来る問題か、取り組むべき自分自身の課題か、受け入れるべき問題か、受け入れざるを得ない問題か)で判断を遅滞なく迅速に行うようになれると思うのです。

問題解決に思考ルートがあると言うのは、多分誰しもうすうす感じていることだと思います。生きていると日々何らかの問題は必ず生じますし、それは、天気のように人間にはコントロールできないどうしようもないことも少なからずあります。また、過去と他人は変えられないとよく言われるように、熱心に取り組んでも何ら解決できないこともあり、前提条件として受け入れなければならないことに対してあれこれ悩んでもしょうがありません。自分が働きかけることができる範囲に意識を集中し、力を注ぐことしかできないわけで、この切り分けができているだけでずいぶんと思考をシンプルにすることができます。

判断力と問題解決力の深い関係

判断する力は問題解決力がバックボーンにあり、問題解決する力は自分の影響の輪の範囲を明確に認識するところから広げることができると私は思っていて、誰もがうっすらと曖昧に気づいているこの関係性を明らかにして伝えることで組織全体の問題解決能力を高めることができると考えています。

多くのメンバーが的確な判断ができるようになることで、ピラミッド型のトップダウン方式の組織から脱却することができて、フラットでそれぞれが持つ才能を遺憾なく発揮することで相乗効果を生み出すような組織作りができると考えています。ちなみに、この問題解決のルートを認識する概念はアクティブブレインセミナーの創始者である小田全宏先生に10年以上前にご教示頂き、ずいぶんと実務に役立たせて貰いました。現在では、複雑でややこしいことも分解すればシンプルで簡単になるとの考え方を体感するアクティブブレインセミナーと一緒に、一般社団法人職人起業塾の研修カリキュラムに組み込んで広く若手の建築実務者に伝え広げる活動をしています。判断力と問題解決力を身に付けた若者が増える事は業界全体の問題解決につながり、ひいては地域や社会がより良い状態になるのではないかと思っています。

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社会的基礎能力を高める研修やってます。



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