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レイヤー思考が未来を創る

現在、私は大阪で第19期職人起業塾の研修を行っています。職人や施工管理、設計士など現場実務に関わる若者を集め、現場での価値創造を通して事業所の自律循環型事業モデルへのシフトを促すこの6カ月間15回の長きにわたる研修も先週12回目を終え、いよいよ大詰めになってきました。

現場実務者向けの研修の目的

研修の目的は現場実務者達が自分たちが持っているまた活用できていない才能を開花させ、新たな価値創造を叶え、現場からのボトムアップで自社のビジネスモデルを持続可能な自立循環型へと変容させることにあります。もう少し具体的に言うと、顧客から最終的な評価を下される現場で実務者達が意識を変容させ圧倒的な信頼を得ることでライフタイムバリューと言われる顧客創造価値を引き受ける、また、同業他社が行えていない課題解決を行うことで新たな顧客を獲得する。この2つの価値創造を現場で行えるような状態を整えることだと伝えています。

タレンティズムが組織のパフォーマンスを変容させる

一見、非常にハードルが高い目標を設定しているように思われがちですが、顧客との濃密な接点を持つ現場実務者が少し意識を変え、態度を変え、行動を変えるだけで大きな成果(顧客からの信頼)をもたらすのは長年職人だけの事業所を運営してきた私にとっては繰り返し何度も実証を積み重ねており、理論や概念を知り、深く理解した上で実践を繰り返せば誰でも成果を手にすることを確信しています。その根底にあるのはタレンティズム(才能主義)と言われる、これまでのトップダウン式のヒエラルキー型社会からボトムアップ式の共感主義社会に変化するにあたって非常に重要視されている考え方で、誰もが持つ隠れた才能を開花させることで組織や事業、社会全体のパフォーマンスを上げていこうという考え方です。

新たな社会への適応

18世紀の産業革命以後のこれまでの資本主義社会における組織では、とにかく効率を重要視してきました。そのためには船頭や旗振り役は1人でよく、他の人間は指示されたことを的確にこなすのが是をされてきました。食べるものがないとか、住むところがないとか、ものが不足しているような単純な課題を抱えている社会ではトップダウン式は非常に効率が良く、スピード感を持って物事を進められます。しかし、情報革命が起こり世の中が成熟に向か卯と同時に課題が複雑化、人のニーズが多様化と細分化を極める中、1人のリーダーの知見や直感に頼って組織を運営するのは非常に危険で、大きなリスクを伴います。自律する複数のリーダーがそれぞれの役割と責任を全うしながら様々な意見を自由に言い合い、全体最適を叶える組織運営の方が持続性が高いのは明らかです。タレンティズム的な考え方は大きな変化の真っ只中にあるこれからの世界には必要不可欠だと思っています。

見えない資産の蓄積と活用

今までの世界と、これからの世界が全く違うものになると言うことには多くの人が共感され、同じ認識を持たれておられます。時代の変化に伴って組織も働き方も仕事のやり方も、考え方の根本から変わらなければ時代に取り残されるばかりでなく、存在価値を認められなくなり破綻してしまいます。その変化の入り口として必要なのが、これまでの経済、金銭偏重の資本主義社会でないがしろにされ、価値を認められていなかった見えない資産の活用です。見えない資本とはすぐに収益として現れない信頼や評判、関係や共感など、人と人とのつながりの絆を強めることで長期的に見て大きな経済価値を生み出す状態を指しており、そこで重要視されるべきは整える思考です。

基本的な思考の転換

複雑化した世界では単純な思考では通用しないのは誰しもが理解するところだと思います。多様性が求められる世界では多様な考え方が必要で、それを担保するのは様々な立場や役割を持った人たちからの幅広く自由闊達な意見の集約です。これが、これからの世の中にタレンティズム(才能主義)を組み込む必要性があると言われる所以です。そして、様々な人の意見を集めると同時に、一人ひとりの思考もこれまでの延長線上ではなく変化変容させる必要が生まれてきます。その一つがレイヤーを分けて物事を考え、同時に複数のレイヤーの行動を確実に推し進める思考だと考えています。いわば、OSをアップグレードさせるかのように、今まで一人に一つの役割だったのを複数同時にこなしていく思考であり、職人起業塾の塾生達にもそんな考え方を丁寧に説明するようにしています。

複雑な世の中に適応するレイヤー思考

タレントイズムの考え方の根本にあるのは、人は単一的な思考や性格の生き物ではなく、多面性や複合性を持った人格で成り立っていると言う考え方です。現在表出している性格や能力が全てはではなく、表面に出ていない潜在的な力を誰しも持っていて、それを解放させる、もしくは開花させることができたら多様な活躍ができるようになり、それが組織やチーム、事業所、社会全体のパフォーマンスを飛躍的に向上させる可能性があると言うことです。この可能性を見出すには、大量生産時代の決められたことをそのまま行う単純思考とは全く違う考え方に変容する必要があると私は思っており、その分かりやすい思考の構造としてレイヤー思考を推奨しています。

レイヤー思考とは

建築業界以外の方にはレイヤーと言う言葉に馴染みがなく、少しわかりにくいかも知れません。レイヤーとは設計やデザインの際に属性に合わせて描き出す線や図を分けておく考え方です。例えば、建物の図面を書く場合、構造と仕上げや家具等のレイヤーを分けておくと、変更があった際に全てを書き直すのではなく家具だけを消したり書き書いたりすることができます。一つの図面を書くのに、モジュール線、躯体線、仕上げ線、造作物線と複数の階層(レイヤー)に分けて描くことで、必要な時に必要な部分だけを簡単に取り出すことができる作画の際の考え方です。この考え方を建築の現場実務に置き換えると、現場作業の実務、顧客との信頼関係構築、作業品質の向上、現場の安全衛生、実務者の技能の向上、経験の蓄積、近隣営業と同じ現場で働くと言っても数多くの留意すべき面があり、それらを同時に進めていく必要があります。そして、それぞれのレイヤーは優先順位と時間軸に違いがあり、全体を俯瞰しながらそれぞれを確実に進めて行かなければなりません。その思考の整理にレイヤー思考を用いるべきだと提唱しています。

整える習慣はレイヤー分けと個別のスケジューリングから

同時に複数のタスクを進める、こなすのは頭が混乱しがちですし、現場で作業に没頭すると他のことが目に見えなくなってしまいます。しかし、良いモノづくりをするに当たって、何のためにそれを行うのか?との問いを見失うと本末転倒になってしまいます。目的を明確に見据えると、現場作業と同時に安全にも配慮が必要ですし、顧客の立場に立って物事を考える、美しく、早く作業を進めるために次工程の段取りや材料の確認も同時進行で行う必要があります。図面で指示されていることが最善かのチェックも行うのも目的を達するためには必要です。そもそも、人の働き方というのは複数のレイヤーが存在しているものであり、それを明確に切り分け、整理してそれぞれに時間軸を割り振ってスケジュールするのがレイヤー思考であり、これが定着すると緊急性と重要性の軸で自身のタスクを振り分けることができるようになります。状態を整える習慣が身につくようになるのです。

誰もが持つ可能性を開花させ未来を創る

レイヤー思考というのは別段、珍しいものでも新しいものでもなく、元々存在していた、もしくは新たに見出したタスクや役割を再認識して、それぞれに対して責任を持って向き合うことに他なりません。緊急性が高いものについて急いで取り組むのは当然ですが、緊急性の低いタスクをすっかり忘れてしまっては、常に自転車を漕ぐかのように忙しいタスクに追い回されることになります。目の前のことを進めながらも緊急性の低い、しかし重要度が高いタスクについても忘れてしまう、完全に棚上げしてしまうのではなくしっかりとスケジュールを組み立てて進めていく、要するに整えながら走る思考です。複雑怪奇な今の世の中、すぐに解決できない難しい課題が数多くありますが、レイヤー思考によってそれらを整理して未来に向かって着実に状態を整えることしか、本質的な成果を手にすることはできないと思うのです。そして、誰しもがまだ顕在化していない才能を持っている以上、新たなレイヤーを設定し、課題解決や価値創造を担えると思っているし、信じています。それが開花したとき、組織や事業所、社会がより良い状態になると思うのです。

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まだ自分で気づいていない才能を見出し、開花させる研修を行っています。

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