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土地購入で留意すべき4つの課題① 〜目的地無きエスカレーター〜

建築専門家の不動産アドバイス

私は神戸の西の端っこで「つむぎ建築舎」と言う屋号で建築会社を営んでいます。元大工であり、建築士でもあるのでいわゆる工務店としてものづくりを行う会社なのですが、同時に設計事務所としても登録して設計から施工、アフターフォローまでの住宅に関するワンストップ事業を行っています。また、スタッフの中には数名、不動産取引ができる宅建主任者の免許を取得しているものがおりまして、「建築と不動産は切っても切れない密接な間柄」と言うこともあり、これまで不動産事業を立ち上げようかと何度か考えたこともありますが、餅は餅屋と言いますし、専門性の高い建築のプロフェッショナルの立場を守りたいと思い不動産事業の立ち上げは見送ってきました。なので、不動産の専門家では無いのですが、だからこそ土地選びの際にアドバイス出来ることも多くあります。今回はそのあたりを記しておきたいと思います。

土地を見て土地は買わない。

新型コロナの影響による巣ごもり需要の余波なのでしょうか、昨年の秋口ぐらいから非常に多くの新築の問い合わせをいただいており、その半数以上が土地の購入から家を建てたいと言うご相談です。当たり前ですが、家を建てるにはまず土地の選定をしなければなりません。そして、ご相談に来られる方は土地は家を建てるために購入するわけで、土地の購入を決定する際にはその土地にどのような住宅を作り、どんな暮らしを実現できるか、理想のライフスタイルを手に入れられる暮らしのベースになるか否かを見極める必要があります。土地を決めるのは土地を見て決めるのでは無いはずなのです。そんな理由から私たちは不動産事業としては行ってはおりませんが、設計事務所、つくり手の目線で土地探しや土地選びのサポートを積極的に行っています。

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土地購入で留意すべき4つの課題

土地の購入、土地選びは非常に難しく、それは私が建築の専門で不動産業を行なっていないからと言うわけではなく、客観的な事実を積み重ねて考えてみてそう思います。不動産会社が事業用として土地を購入、転売して収益を上げるといった単純な損得勘定だけではなく、長年そこに暮らし続け、生活のベースとして取得する個人住宅を建てるための土地購入は一度失敗したからすぐに後戻りしてやり直す訳にも行きません。土地の市場価値だけで測れない要素も多々あり本当に難しいと思っています。その理由は大きく4つありますが、その難しさがあまり一般的に認知されていないように感じており、これから土地購入を考えておられる方のために少しでもお役に立てればと思い、本来専門では無いのですがその理由と注意点を書いてみたいと思います。(長くなるので2回に分けて書き進めます。)
不動産購入時に留意すべき4つの課題とは、以下の通りで、それぞれ一つずつ解説を書いていきたいと思います。

土地購入で留意すべき4つの課題
1.その土地は世界で唯一無二でであること。
2.不動産仲介業者等の専門家と目的の共有がなされないこと。
3.未来のリスクが分かりにくくしかも不確定要素が払拭できないこと。
4.販売(購入)価格が本当の土地の値段とならないこと。

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1.その土地は世界で唯一無二でであること。

まず初めに、理解しておくべき事は同じ土地は一度逃すと二度と手に入らないと言う「事実」です。同じ面積、同じ価格帯の土地はあるかもしれませんが、全く同じ土地はこの世に存在しません。そもそも不動産と言われる位ですから、土地や建物はそんなに簡単に動くものではなくて、売り出されている土地が一度誰かの手に渡ってしまうと数十年単位でその土地が売りに出される事はありません。また、現在はコロナによる巣ごもり需要の影響なのか非常に土地の需要が高まっており、神戸近郊では新しい物件が出ると1ヵ月もしない間に売れてしまっています。これがいつまで続くか分かりませんが、土地探しをしていて新たな物件が出てきた時にはすぐに買い付け証明を出さなければあっという間に売れてしまう状態になっています。たとえ、現在の土地の供給が需要に対して過小な状態が解消されたとしても、不動産業界の慣例として「気に入った土地はすぐに押さえないと違う人から声が掛かったらそちらで進めます。」というのは常套句になっていて、ひと月もふた月もじっくり考える時間は与えられないものです。とにかく、常に土地は一点物で、「土地を手に入れるのはご縁」とも言いますが、慎重に選択したいとても高額な買い物であるにも関わらず、即断、即決で決める覚悟を持って土地探しをしなければいつまでたっても購入することができません。

2.目的の共有がなされないこと。

理想のライフスタイルを実現したいと考えて始める家づくりの過程での土地探しはまず初めの第一歩です。その目的はそこでの楽しく快適な暮らしであるはずなので、あくまで「その後」どの様な建物が建って、そこでどんな体験が出来るかに焦点を合わさなければなりません。しかし、土地購入の際に関わる不動産会社、銀行などの金融機関、移転や保存の登記を行う司法書士などの専門家の人たちのほとんどは決済が終わると一生会うことはありません。良し悪しの問題ではなく、職業の構造的なもので土地を取得した人がその後どの様な暮らしをするかなどは業務範疇外のことで、基本的に関係がありません。もちろん、良心的な人もいるでしょうが、この土地を購入した後、その後の暮らしがどうなるかと相談したところで専門外ですし、知識も経験も薄く明確な答えを持っていませんし、適切なアドバイスをするスキルも持ち合わせていません。それはその人たちが専門外だからですが、そもそもの目的を共有する事が出来ない以上、自分自身で専門知識を身につけるか、もしくは、「その後の心地い暮らしの実現」という目的を共有できる専門家と相談して選択を行うべきです。土地探しを始める前に、家づくりのパートナーとなる建築会社を探したほうがいいと言われるのはこんな理由で、私たちが積極的に不動産取得のサポートをするのも目的から逆算した土地の選択を行うべきだと考えているからです。ちなみに、これは新築時の土地購入だけではなく、中古住宅を購入してのリノベーションや、テナントを借りてお店などのご商売をされる際も理屈は同じで、その後の目指す姿を明確にイメージできる物件を取得するには、土地ありき、場所ありきでは無いのをよく理解しておくべきだと思います。

目的地も決めないままエスカレーターに乗るのはヤバイ

あまり長くなってしまうので、今日のところはここまでにして、残りの 3.未来の不確定要素が払拭できないこと。4.販売(購入)価格が本当の土地の値段とならないこと。については次回(多分明日)に書き進めたいと思います。長年、土地購入のサポートをしてきた中で私が感じてきたのは、念入りに準備を整えてから明確な意図を持って土地探しを行えば、皆さん納得、満足できる結果を手に入れられているという事。逆に、土地を購入した後の建築、そしてその後の暮らしについて詳細なイメージを作りあげる事なく、「まずは土地が無いと始まらないと。」と、目的地とそこまでの道順を曖昧なまま見切り発車されると、予想していない様々な問題に悩まされることになってしまう傾向があると感じています。それは思わぬ費用が掛かったりする資金的な面や建築に関する法的な制限、はたまた近隣との関係等で生活しづらさを感じてしまうこともあります。上述した様に、不動産仲介の会社に「この土地が気に入りました」と伝えると、必ず、「とりあえず仮押さえしますか?」と訊かれます。そこで気軽に申し込んでしまうと、不動産仲介業者は他の人からの問い合わせを断ることになり、業界の常識として1週間程度で契約の日程を調整し、その時には土地価格の1割程度の手付金を支払うことになってしまいます。購入側としては「気に入った」の一言でエスカレーターに乗ってしまい、あれよあれよと言っている間に、じっくり冷静に考える時間も与えられないまま高額な買い物をすることになってしまいます。しかも、相談する(目的を理解して、共有してくれる)専門家もいないまま、「銀行からの融資はOKが出るので大丈夫ですよ、」と枝葉の情報だけで決断するのはリスクがありすぎると思うのです。「木を見て森を見ず」とならない様に全体を俯瞰して家づくりをして貰いたいと強く思います。参考までにその辺りの順序について書いた以前の記事と関連のマガジンを紹介しておきます。少しでもお役に立てれば幸いです。(^ ^)

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https://sihoutugi.com
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https://www.shokunin-kigyoujyuku.com
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