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三角筋が働かないと肩は上がらないのか?


抄読論文

Hecker A, Aguirre J, et al.
Deltoid muscle contribution to shoulder flexion and abduction strength: an experimental approach.
J Shoulder Elbow Surg. 2021 Feb;30(2):e60-e68.
PMID: 32540315.  PubMed  DOI: 10.1016/j.jse.2020.05.023. Epub 2020 Jun 12.
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肩関節屈曲・外転筋力に対する三角筋の寄与:実験的アプローチ

要旨

【背景】

ローテーターカフ(RC)と三角筋は、肩の機能的に要求の高い動作を可能にする2つの相乗的なユニットである。多くのバイオメカニクス研究では、筋力カップル(RCと三角筋)が全可動域で同じような力の寄与をすると仮定しているが、一方で位置依存的な力の配分を提案する研究もある。三角筋の肩関節屈曲・外転筋力への寄与に関するin vivoデータは不足している。本研究では、三角筋の肩関節屈曲・外転筋力への寄与を可動域全体にわたって定量化する信頼性の高いin vivoデータを作成することを目的とした。

【方法】

健康なボランティア12名を対象に、超音波ガイド下分離腋窩神経ブロックの前後に、利き腕の0°、30°、60°、90°、120°の外転・屈曲、0°と90°の内旋・外旋の可動域と等尺性筋力を測定した。三角筋麻痺を確認するため、ブロック前後に針筋電図検査を行った。肩のX線写真と超音波検査は、関連する肩の病態を除外するために用いられた。

【結果】

可動域は、外転と屈曲で介入前の94%と88%と、最小から中等度の減少を示した。内旋と外旋の可動域は障害されなかった。外転筋力は、外転0°で76%(P=0.002)、外転120°で25%(P<0.001)と有意に低下した。屈曲筋力は、屈曲30°で64%(P < .001)、屈曲120°で30%(P < .001)と有意に低下した。筋力低下は屈曲/外転角度に依存して直線的であった。最大外旋筋力は外転90°で53%(P < 0.001)と有意な低下を示したが、外転0°では筋力低下は観察されなかった(P = 0.09)。内旋筋力は、外転0°と90°では影響を受けなかった(P = 0.28; P = 0.13)。

【結論】

三角筋は外転角度と屈曲角度に依存して、肩の最大筋力に対する直線的な寄与を示し、それぞれ外転0°では24%から屈曲120°では75%、屈曲0°では11%から屈曲120°では70%であった。外転筋力に対する全体的な寄与率は屈曲筋力よりも高い。三角筋と小円筋の組み合わせは、外転90°における外旋筋力に約50%寄与する。内旋筋力は三角筋麻痺の影響を受けない。本研究は、筋力発達における肩の筋肉の位置依存的な寄与を明らかにし、それによってヒトの肩の運動学をよりよく理解するための経験的アプローチを提供する。

要点

本研究は腋窩神経ブロックにより三角筋の活動を抑制し、その時の肩運動における自動可動域と筋力発揮を測定したものになる。
三角筋を単独で制限したいようだったが、技術的に難しく同じ腋窩神経支配である小円筋も抑制されている。
三角筋は外転及び屈曲において大きな要素を占めることは疑いようもない。
実際、本研究の先行研究においても腋窩神経遮断による外転強度の低下や、肩甲上神経の遮断による外転強度の低下が報告されている。
つまり肩外転においては三角筋の寄与と棘上筋、棘下筋の寄与、どちらも重要であることが示される。
しかし、これらの検証モデルは方法論的に古いものになっており、現状の方法で再度検証したことにおいて本研究の新規性がある。
また、さまざまな関節運動の検証、そして回旋要素も含めた検証を行っていることも新規性に値する。


三角筋を遮断した場合、自動運動での可動域に制限が生じるかを検討したものになる。
結果として、外転と屈曲においては、有意に自動運動に制限をきたした。
外転では94%、屈曲では88%と挙上最終域で制限をきたしている。
つまり、150°程度までは外転も屈曲もそれぞれ、代償の筋群の活動により可能であるが、最終域になると困難であるということを示す。
外転であれば、棘上筋などの作用による補助もあるだろうし、屈曲であれば大胸筋の補助が強く働くかもしれない。
しかし、これらは挙上角度が増大していくと、モーメントからも働きづらくなることは想像できる。
これから考えると、挙上最終域では三角筋の収縮は重要な要素であり、そこでの三角筋の不可動があると、関節への負荷が増大することも想像される。


こちらは筋活動の状況になる。
本研究では、外転および屈曲を0°、30°、60°、90°、120°の角度でアイソメトリックの収縮にて筋力を測定している。
また、内・外旋は外転0°、いわゆる1stポジションと外転90°、2ndポジションにて測定している。

この時に外転と屈曲は挙上角度が増大するとともに線形に筋力発揮の低下を示す。
特に外転は0°位からすでに有意に低下している。屈曲は0°の時には有意差は見られなかったが、30°以降は有意に低下している。
このことからも最終域に近づくに従って、三角筋の寄与は増大することが明確であり、筋収縮を促す場合、挙上角度が大きい位置での配慮をしていく必要性があることを示す。
本研究の考察では、屈曲は大胸筋のサポートが強く、挙上0°位では有意な低下を示していないと述べている。
確かに、屈曲に関してはボリュームの大きい大胸筋が補助的に働く一方、外転は棘上筋などダイナミックな筋の補助は少ないことが考えられる。
それらからも三角筋の活動は外転運動、前額面上での運動にとっては特に重要になることが確認される。

一方、内旋ではどのポジションでも有意な低下はみられなかった。
外旋では、90°位で顕著に低下がみられた。
これは、腋窩神経ブロックにより、小円筋の活動も遮断されており、その要素が大きく関与しているものと考察されている。
外旋は小円筋だけでなく棘下筋なども主動作筋として存在するため、大きな影響がないことも想定されたが、外転90°位では選択的に小円筋の活動が重要な要素を占めていることを表している。
確かに下垂位ではモーメントとして棘下筋の方が直角的な関与を示すが、外転90°ではその関係が小円筋と逆転する。
これらも考慮にいれ、トレーニング時のポジションを検討する必要があるだろう。

どのように活用するか

本研究は三角筋の肩関節運動への参加寄与に関して、証明するエビデンスとなる。
大きな活用として、

  • 挙上角度が大きいポジションで活動を行う場合、三角筋の活動を十分に高める必要がある

  • 外転運動に関しては三角筋の活動を主として考える必要がある

  • 外旋運動として肩のポジションによって、活動する筋を選択的に捉えて考えていく必要がある

といったところになる。
もちろん、本研究では三角筋の寄与率を単純に筋力評価の数値から導き出している。
in vivoにおいて、このような単純な計算にならないことは明白であるが、参考として思考過程の中に加えていくことは重要であろう。

肩の動きの評価、そして筋力発揮の状態を観察するにあたって、これらの視点をエッセンスととして取り入れていくことは、思考の引き出しを増やす重要な要素であることは間違いない。

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