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ぶっちゃけ海外MBAってどーなん?にお答えします(1)

今回は以下のターゲット読者の方々向けに、シリーズに分けて標題の疑問にお答えしていきたいと思います。

ターゲット読者層
社会人1-10年目くらいまでの、キャリアアップに意欲的な若手~中堅社員(+将来を一歩先に考えたい大学生・大学院生)

狙い
「高いキャリア目標に向かって成長を加速したい」

「仕事は楽しいけどより大きなことにチャレンジしてみたい」

「今と違うキャリアを切り開きたい」

そんな思いから、MBA(Master of Business Administration)ってあり?なし?と思っている人たちは結構いると思います。ちょっと興味はある、でも正直よくわからない・・・カジュアルにこっそりどんな感じか聞いてみたい!という声をちらほら聞くようになったので、そんな方々の質問にざっくり答えてみたいと思います。

筆者プロフィール
2016年、齢30前後にして仕事にも人生にもモヤモヤを感じ始めたことをきっかけにMBA受験を決意。2018-20年に米国の某大学に留学。最終学期はコロナでリモートになったものの、コロナ前の留学生活を知る中では卒業したて世代。


なるべく一般的な記事にも目を通していますが、原則、今回シリーズの内容は筆者の個人的な経験と観察に基づくものです。留学した地域や年度、学校の難易度(今回は主要なMBAランキングでグローバルの上位30位以内程度に入る学校を想定しています。どんなランキングがあるかは後述します)、個々の学校の教育方針や学生層の違いにより見える景色は異なると思うので、あくまで一経験者の私見として参考にしていただければ幸いです。

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では、実際にいただいた質問ベースにお答えしていってみましょう~

Q0.・・・そもそもMBAって何ですか?海外エリートとか経営者とかがなんか持ってるって漠としたイメージなんですけど。

A0.日本語では「経営学修士」とか「経営管理修士」と訳されるようですが、大学院の修士課程を卒業することで得られる学位です。「公認会計士」みたいな資格とは異なります。

ただ正式な学位であるものの、他の学部で連想されるような研究中心の修士課程とはちょっと毛色が異なります。MBAは多くの場合、実務力を身につけることを主眼に置いているので、学問としては広く浅く学ぶイメージです。特定のテーマを持ってその分野を研究することは基本的に求められず、修士論文も書かないことが大半かと思います。紛らわしいですが「経営管理工学」とかとは全く違うと思ってください(その学問からのエッセンスを学ぶことはありますが、自分で研究したりはしないです)。

MBAを所管する学部はBusiness SchoolとかSchool of businessと言って、米国だと修士だけでなく学部からこのビジネスの学位があったりします。日本の大学では私の知る限り同じ性質の学部が見当たらないので、ちょっとイメージしづらいかもしれません。

Business Schoolを研究機関と区別するという意味では、キャリア養成校という表現が近い気もします。ただ「キャリア」と言っても近年はその種類も幅広く、企業の経営幹部だけでなく、Non-profitや起業家も含めた社会におけるリーダーを養成することを目指した機関ですね。


Q1.ふーん。で、海外でMBAを取ると何が手に入るんですか?

A1.卒業生によって意見は異なると思いますが、一経験者としての筆者の個人的な見解は以下です。

1-1.ビジネス全般の知識 

基本なので先に持って来ましたが、正直これだけではわざわざ海外に行く理由にはならないと思っています。詳細は以下。

a)ビジネス知識を体系立てて学べる

これはわかっていると思考の整理ができて便利です。ただ、欧米のビジネススクールで一般的に教えられている知識体系は最近どんどん書籍になって紹介されているので、苦労して英語で学ぶより日本語の本を読んだ方が早く理解できると思います。

b)新たなことを学ぶ機会・時間を強制的に確保できる

本を読めば良いとわかっていても筆者のようについついその時間を後回しにしがち・・・という人には結構意味があるはずです笑。ただ、これだけが目的なら、日本で働きながら通える国内MBAや通信制のスクールで良いと思います。

c)海外視点でビジネストピックを捉えられる

国内で日本語のニュースに触れていると、やはり入ってくる情報やその解釈は偏ります。海外でビジネスを学ぶことで、日本ではまだあまり話題になっていない最新トピックに触れたり、逆に日本のビジネスが海外でどのように評価されているかは理解できます(未だにトヨタ生産方式が尊敬を持って学ばれていることにちょっと感動する一方で、近年の事例では中国の事例は見るのに日本の事例は全く目にしない・・・という現実に気づく、とか)。これは結構重要ですが、一方で日本に戻って日本で働いているとそれもまた廃れていくというのが哀しいところ。留学してもしなくても、海外ニュースの配信記事を読んだり、調べ物の際に英語で検索をかけることなどを習慣化することで、情報への感度を維持する必要があります。

1-2.グローバルでのビジネススキル

もし海外で育った経験がなく、本気で現地法人のマネジメントを経験したり、海外企業との交渉を担いたいと思うのであれば、このために海外MBAを検討する価値があると思います。

a)相手を知る

ビジネスの文脈において、異なる国の価値観、社会構造、文化で何が日本と共通で何が異なるのか。それを肌感を持って知る上では、世界の学生と一緒に意見を戦わせたり、協力し合ったり、時に飲んだり旅行に行ったりするという経験が本当に貴重だなと思います。

ネガティブな例になってしまいますが、例えば”Black Lives Matter”等の人種差別に関わるトピックについて、事の重大さは日本にいた頃よりもずっと深く認識しています。2年間現地で同級生たちが一瞬言葉を選ぶ瞬間、交わされる噂話とそれへの反応、学生同士の関係性、コロナが発生した時のルームメイトたちの家庭事情の差など、小さな気づきを積み重ねて来たことで、自分の使うべき言葉の選び方や行動の指針を得られた面は大きいと思います。

同様に、東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会元会長の森元首相の失言に関しても、今の世界の先進諸国のスタンダードに照らせば完全にアウトなのは、近年欧米で数年を過ごしたことのある人には明確だったのではないでしょうか。あの時、国内ではまだ様々な意見がある中で、トヨタ自動車が黙って見過ごすのではなく明確な批判声明を出すという選択をしたのは、先進諸国のスタンダードを正しく理解していたからだと思います。そしてこれは、豊田章男社長が米国でMBAを取得し現地で勤務した経験と決して無関係ではないと思っています。

若干、ビジネスから話が逸れましたが、結局人間関係がものを言うビジネスの世界で、日本以外の国の「当たり前」を知ることは、多様性のあるチームを率いたり、他国の企業と交渉する上で非常に重要なスキルになると考えています。もちろん、米国か欧州かによっても違いはありますし、国外に出ただけで世界中の多様性が理解できる訳ではありません。が、少なくとも日本と異なる事例を一つ知ることで、他の事例に対しても、自分の見方にバイアスがかかっているかもしれない、見立てが甘いかもしれない、と客観的に考える視点は確実に養われると思っています。

b)自分を知る

ビジネススクールは、その受験の過程から、しつこいほどに「あなたはなにを目指しているのか。これまでどのような人生を過ごし、目指すものの達成に向けて何が必要なのか」「あなたはどんな価値観や個性を持っているのか。あなたの強み・弱みは何なのか」といった自分への質問を問われ続けます。そしてこれを文章化して伝え、また1対1の面接で説明することが受験プロセスの一部であるため、受験生は皆、プロのカウンセラーのアドバイスも受けながら必死でこれをやります。筆者は就活の時の自己分析を思い返すと、つくづく当時は甘かったなと思うのですが、要はあれに近いものを本気で徹底的にやりこむ感じでしょうか。

そんなこんなを経て、志望校への合格を勝ち取った喜びを胸にいざ入学すると、通常はこなしきれないような大量の課題と授業以外の様々な活動に揉まれ、各国のエリートの中でも際立って優秀な人(や、実は余裕があるように振る舞うのがうまい人)に嫉妬し、(帰国子女でない限りは)英語の授業でうまく発言できず、世界中の多様な同級生に囲まれ自分の価値観が揺らぎ、自分の小ささと無能さを思い知って涙目モードになりながら、それでも止まる暇もなく走り続けるという最初の半年間を過ごします笑(あくまで個人の経験ですが。)この環境をクラスメートと分かち合いながら「誰にでも得意不得意があることを知る」「自分一人では解決できないことを知る」ことで、自分がやりたいこととそうでもないこと、できることとできないことを意識するようになります。しかもこれを本当に多様な環境で行うので、日本では強みと思っていなかった点がグローバル社会では評価されるという不思議な経験も良くついてきます(例:Nativeのようなかっこいい英文は全く書けなくても、協調性を保ちながらチーム課題を最後まで責任を持ってやるだけでやたら感謝されたりする笑)。あえて余裕なく作られた環境の中で、本当にやりたいことに集中し、また素の自分の性格やソフトスキルを含めた能力が世界各国からのクラスメートの中で評価されることで、徐々に自分を理解し、以前よりも、将来のグローバル社会のリーダー候補としての自覚と自信を持つようになる、それがビジネススクールという場所だと思っています。この醍醐味は、恐らく他の経験では代替が難しいのではないでしょうか。

1-3.キャリアを得る機会

身も蓋もないですが、恐らくほとんどの学生(特に、米国で就職したいと思っている留学生)にとっては一番重要なのはここかと思います。

a)多くの学生にとって、現実的にはビジネススクールとは「次のキャリアに繋げるために行くところ」です。

大企業志望者が多い学校であれば、ピーク時には毎日のようにキャンパス内で企業が説明会やコーヒーチャットをし、企業によっては学校内で採用面接を行っています。学校にキャリア開発オフィスがあり、就活を終えた上級生の力も借りながら面接対策やワークショップなども積極的に開催されています。学生主体のクラブでも、各分野に就職したい学生が集まり、情報共有や就活対策を支援する仕組みが整っています。関心のある企業に行った同じ学校の卒業生を紹介してもらい、話を聞いたり推薦してもらったりといったコミュニケーションも頻繁に行われています。特に紹介や繋がりを重視する米国の就活においては、こうしたリソースが本当に役立つと聞きます。

また、起業やスタートアップでの就職を志す人は、近隣のスタートアップとネットワークを築いたり夏休みを利用してインターンをしたり、学内外のピッチコンテストに出場したりしてチャンスを広げているでしょう。

日本人の学生は日本に戻るケースが多いですが、その場合も、外資系企業(特に投資銀行やPEファンド、コンサルティング、ヘルスケア業界)であればMBA採用の枠組みで積極的に採用活動を行うため、MBAのプログラム中に面接を受け、インターンを経て、或いは直接転職するというのは非常に一般的です。特に、志望する業界の外資系企業に直接転職するのは難しい(転職元会社の知名度が低い、業界や職種を変更したい、英語での勤務経験がないなど)場合、MBAを経由するというのが近道になり得ます。

b)生涯世界で使える肩書とネットワーク

日本で所謂高学歴だったり、国内の有名企業に勤めていても、海外では全く通じないということは多いです(アメリカ人が知っている大学はせいぜい東大くらいなのでは)。そのため、外国のビジネスパーソンと渡り合おうとしても、「で、君はどういう人物なの」から入らざるを得なくなってしまいます。

少なくとも世界で上位クラスのビジネススクールを卒業することで、相手の信頼を得やすくなり、採用プロセスに呼んでもらえたり、現地でのマネジメントや国際交渉の場で話をスムーズに進められる可能性があります。

またネットワークという点では、同級生であった数百名はもちろん、他学年でも同じ学校の卒業生であれば繋いでもらえる、学校の管理する卒業生名簿へのアクセスがあるなど、同校の卒業生同士のネットワークを活用可能です。

(次回に続く)


【参考ウェブサイト】

グロービス経営大学院 「MBA(経営学修士)とは」https://mba.globis.ac.jp/about_mba/

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