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「アートマネージャー・ラボ」のこと。

最近、知人とともに、「アートマネージャー・ラボ」というものを立ち上げた。

最初のきっかけは、コロナ禍に際して文化庁が始めた継続支援事業である。
今年の6月に可決された第二次補正予算案で、文化芸術分野のフリーランスの人々への緊急支援案が盛り込まれた。しかし、その内容を受けて、私が主なフィールドにしている美術分野の人々は大いに慌てた。そこに書いてある内容が全体的に舞台芸術寄りで、「美術」という分野が、対象から外れているように見えたからだ。

【参考】文化庁:文化芸術関係者への支援
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/sonota_oshirase/pdf/202005291800_01.pdf

これを受けて立ち上がったアーティストの方々が主催するオンライン会議にも参加させていただいた。アート業界の人々が「実際問題、どのように生計を立てているのか」を赤裸々に共有しあう機会は、実はこれまであまり経験したことがなかった。新たに知ったことが多くて色々考えてしまい、会議後、思わず4000字くらいある長い感想メールを書いて主催者の方に送りつけたりした。

しかし、この件について、私が具体的に動くきっかけとなったのは、昨年から少しお仕事もご一緒させていただいているアートマネージャーの熊谷薫さんからのお声がけだった。

コロナ禍に入ってから、熊谷さんとは、『Art in the Making』という英語のアート本を読む読書会をしていた。直島時代の後輩で、現在は広島でギャラリーのようなことをしている山本功くんも交え、3人でわいわいやっていたのだが、この本の内容以上に、昨今のアートをめぐる情勢やら「アート業界あるある」やらの話に花が咲いた。結局、本の内容ではないことを話している時間の方が長かったのではないかという気さえする。

緊急事態宣言のさなかなので、当然、文化庁の支援の話題になる。
そうしたときに、熊谷さんが、この件に関して文化庁に意見書を出そうとしていると話され、私も意見書の作成の一部をお手伝いすることになったのだった。

意見書のトピックは、美術分野の人々をはじめとして、継続支援の対象から漏れてしまっている文化芸術領域の担い手が沢山いるのではないかということ。そして、「美術」の領域でも、実制作者であるアーティスト以上に、中間領域で働くアートマネージャーの存在が顧みられていないのではないか、ということ。(私は、この2~30年で「アートの仕事」がいかに多様化してきていることを伝える資料を作成した。)

意見書が提出された後、文化庁から継続支援事業の概要が発表された。結局、支援対象に偏りがある印象が否めない内容だったこともあり、意見書を出したメンバーで、まずは「意見書」について説明する報告会をしようということになった。そこで、意見書作成に当初から動かれていた皆様——熊谷さんと共にアートプロジェクトの事業評価のお仕事などで活動されているアートマネージャーの石幡愛さん、Arts and Lawファウンダーの作田知樹さん——とも、お話する機会に恵まれた。ここに、山本くんと私が混ざった格好だ。

そんなメンバーで、7月24日に行った報告会は以下のようなもの。

【参考】アートマネージャー・ラボ(仮)~エビデンスを武器に現場と政策の板挟みを突破する~【♯1:文化庁の継続支援をケーススタディに】
https://www.youtube.com/watch?v=B6Clc2-D1z0

このタイトルは、メンバーで行ったディスカッションの中で決まったもの。
アートの現場のガバナンスの弱さ。コロナ禍以前から様々な調査が行われているのに、実際の政策に生かされていないこと。そして、「アートマネージャー」という人々(自称他称含む)が、どこで仕事をしてきたかによって、実は職能が様々で、ひとくくりにできないこと。それゆえに、何かと仕事が属人的になりがちであること。

アートの現場にあって常々感じてきた、アートの世界のさまざまな構造的な課題について、現場感覚を共有でき、かつガバナンスや実務処理に強い方々と議論ができる機会はとても刺激的だった。

コロナ禍に際して、私たち美術分野の人間、特に「現代アート」の世界に生きる人々は、自分たちがどのような状況にあるのかという声を、取りまとめて代弁してくれる組織を持たなかった。それは何故かを考え出すと長くなるので、ここでは立ち入らないが、このメンバーの中で話したのは、さすがにそろそろ、美術の世界で働く人々の同業者組合のようなものが必要なのではないかということだった。「同業者組合」などというと妙に古臭いが、要は、困ったときに助け合ったり、コロナ禍のような危機に際して代表して声をあげられるようなネットワークが必要ではないかということだ。

そうした議論を経て、いずれはそうしたネットワークを作っていきたい、という志を持ちながら、「アートマネージャー・ラボ」は始まった。

「アートマネージャー」という言葉を冠しているのは、この集まりの中に、現状実制作者がいないというのもあるが、「アートマネージャー」は、社会とアートの「つなぎ手」であり、アートに関わる様々な属性の人たちの利益のために動ける存在なのではないか、という思いに基づく。

なので、どういうネットワークを作っていきたいのか、イメージはまだ定かではないものの、アーティストも、アートマネージャーも、それ以外のアート関係の仕事の方も、アートに関心がある方々も、良い感じに関わり合うことができ、業界全体の底上げにつながるようなものであればと思う。そして、業界全体が底上げされることで、アートは、きっともっと私たちが生きる社会を「豊か」にしていくことができるはずだ。

大言が過ぎるだろうか。そんな気もする。

でも、現状でも何かしらの形で社会を豊かにしているはずのアートの世界に生きる人々の生活が「豊か」でないとしたら。それは、なんというか、あまりにも切ない。少なくとも私は、そういう思いでこの活動に混ざっている。

社会をより豊かにするために、私たち自身もまた豊かでありたいのだ。

とても残念なことに、アートの世界の内部でのハラスメントの問題が次々と明らかになっている今だからこそ、より強くそう思う。

その後、アートマネージャー・ラボでは、文化庁の継続支援事業についてのガイダンスを(勝手に)してみたりしていて、ありがたいことに、結構インパクトを持って受け止められているようだ。やっぱりニーズがあるのだろうと、ひしひし感じている。

【参考】アートマネージャー・ラボ ♯2【文化庁・継続支援事業ガイダンス~申請をあきらめかけている人へ~】
https://www.youtube.com/watch?v=Tda-xClw7sY

そして、私含むアートマネージャー・ラボのメンバーも、自ら企画をひねって、継続支援事業に申請している。

少しずつでも活動を形にしていきたいと思っているので、関心を持っていただけたら幸いです。

アートマネージャー・ラボ Facebookページ
※現状、活動の告知はFacebookメインで行っています。
https://www.facebook.com/artmanegerslab/?ref=bookmarks


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