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たった3ヶ月の不器用すぎた恋物語

2007年9月、1人の高校2年生の少女の恋があっけなく終わった。

彼女にとってはいわゆる"初彼"との短すぎる夏の恋だった。


2007年6月、彼女は修学旅行でロンドンに向かう飛行機を待っていた。(どこかの中継地点の空港だった気がするが、あまり覚えていない)

彼女には最近少し仲良くしている彼がいた。
彼は生徒会の書記をしていた。彼女が所属している放送部の部室は生徒会室の隣にあり、その頃は部活の合間に時たま話す程度だった。

空港に制服を着た学生が200人近くいる光景は、修学旅行だと想像はつきつつも異様だっただろう。

彼女の元にふと彼がやってきた。彼は徐に関西空港からこの空港までのチケットの半券を取り出し彼女に渡した。

そこには掠れたペンで書かれた彼のメールアドレスが書いてあった。

彼女はこれまでの人生にない経験に胸が躍った。「これがいわゆる青春ってやつ?!」なんて思いながらさぞかしニヤニヤしていやことだろう。

実際校則が厳しかった彼女たちの学校では修学旅行に携帯電話を持ってくることは禁止されていたので、彼女が彼にメールを送るのはこの少し後のことだったのだが。


修学旅行という一大イベントは彼らの関係性を進めるのにもってこいだった。ケンブリッジを一緒に散策したり、夜はホテルのロビーで待ち合わせて限られた時間をめいいっぱい使って喋ったりした。

今思えば「なんでそんなこと」なのだが、ロンドンの公園で一緒にリスを追いかけたのがとても楽しかったように記憶している。本当になんでだろう。

帰り道ではもう周りも察するレベルになっており、彼らが実際彼氏彼女になるのにそう時間はかからなかった。


彼女は浮かれていた。

彼女にとっては厳密に言うと2人目の彼氏だったが、中学1年生の頃の「付き合おー」「うんいいよー」で一週間で自然消滅した件はノーカウントとして、初めてのちゃんとした"お付き合い"だったと思う。

毎日たくさんのメールをした。
休み時間のたびに彼の教室へ行った。

小さなショッピングモールへ映画を見に行った時は一張羅の花柄のワンピースと慣れないヒールに身を包んだ。
自宅へ招いてみたりもした。

それまで不真面目な印象だった彼女も生徒会の彼と一緒にいることで心なしか教師から好印象に見られるようになった。

その頃にはもう暑すぎた夏は彼女の感覚を麻痺させたのだろうか。
彼女は彼の気持ちの変化に気づかなかった。たくさんのメールや休み時間の教室への訪問が「重い」こと、彼への負担になっていたことに全くと言っていいほど気づいていなかった。

9月の半ばごろ。「別れよう。友達の方がいいと思う。」1通のメールであっけなく振られた。本当にひと夏の恋だった。

重かった彼女は何度か縋り付くようなメールを送った気がするが、正直彼女にとって都合の悪い部分はほとんど記憶に残っていない。

17歳の女子にとって恋愛は人生の全てのように思えただろう。学校を休んで丸一日泣いた。しばらくノートからは色が消えた。

それでも一週間経つ頃には普通に部活に行き普通に彼とも話し、1ヶ月経つ頃には友達と気になる先輩の話に花を咲かせていたのだから高校生の恋愛なんてそんなものなのだ。


17歳の夏に学んだはずの恋のしかたは結局その後の彼女の恋愛に活かされたかはわからない。ただ彼女が覚えているのは彼の言葉や表情ではなく彼と過ごした情景や事実だった。

「重かった」ことが不器用だったのではない。彼女はきっと彼を"恋人"という人生の登場人物として見ていた。好きな人に対しての思いやりを持った行動や接し方を知らなかったことが不器用だった。

こうやって書いてみると本当にあれは"恋"だったのか?と疑問だが、今でも人と接することが得意ではない彼女の一生懸命だけは嘘ではなかったはず。

「ひと夏の思い出」として航空券の半券と一緒に缶にしまうくらいがちょうどいい。いつかまた缶を開けて思い出に浸るその日まで。


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