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社会人学生(修士)の激動な1年間と運命が変化した2年目

社会人学生をやっているとよく聞かれるのは「どうやって研究や勉強時間を作っているの?」です。私の場合はたまたま会社の理解もあり少しだけ勤務時間を減らしていただいているという立場ではありますが、会社なので利益を出さなければなりません。現在は新しく設立されたDX部門にいることもあり「新しいことをする・提案する」ことを求められる業務内容はは自分には向いており楽しく過ごさせて頂いておりますが、それでも大学院の研究と勉強を両立するのは至難の技です。もし、学会で勤務地を離れることがあれば有給を取得するなど工夫しなければなりません。それでも何故社会人でも大学院で研究・学び続けるのかを書き残したいと思います。
私の在籍させて頂いている北陸先端科学技術大学院大学 東京サテライト校は品川駅から徒歩2分にある東京インターンシティの中にあり、とても立地条件は良いです。
社会人大学院生ということもあり、事務の方々や先生方が社会人の忙しさを理解し対応してくださるのも、とてもありがたい。恵まれた環境と人の中でも自分や周囲への気配りは大切です。
今回は社会人大学院生のスケジュールや心意気、そして日本社会において社会人大学院生はどうあるべきかをまとめさせていただきました。

1, 社会人学生の1日のスケジュール

1日は24時間しかない。その中でできることは限られてくる。私の場合は勉強や研究をするスケジュールが3パターンあり、それぞれにおいて工夫してスケジューリングをしなければならない。
東京で一人暮らしの女性30代である私の例をこちらに書きます。

(1) 夕方から講義があるパターン
社会人学生に向けた講義があるのはJAISTの場合18:30-22:00である。私の所属する知識科学系は特に出席を重視するので出席はほぼ必須である。

5:00-7:00 起床・ストレッチ・家事・軽く朝食・時間があればトレーニング
7:00-8:00 メールチェック・研究や勉学の予習復習チェック 計画確認
8:45-17:45  会社 
18:30-22:00 大学院で講義
22:00-22:30 移動・帰宅・スーパー立ち寄り
22:30-23:00 軽い晩ご飯とお風呂
23:00-翌日1:00 研究と勉強・予習復習

JAISTの場合は集中講義という形式で一週間みっちり講義を受けることで単位取得に繋がる。

(2)土日に講義があるパターン

土日に講義があるパターンは前日金曜から予習復習をする。大概の土日の集中講義は朝から晩までに1日がかりの講義や半日の講義もある。
先生方の講義を有意義に聞くためにも事前準備や課題を行うことは大切だ。

(3)研究する日のスケジュール

平日夜間と土日に主に研究をするのが社会人学生の宿命だ。平日の日中は仕事をし、空いた時間で研究をする。
大切なのは仕事と研究が繋がっていない場合は、研究と仕事の時間で考えを切り替えてそれぞれに集中することだ。
研究したことを論文にまとめ口頭発表する場合は、更に執筆や発表準備の時間が必要である。そして、指導教員からのチェックを経てやっと発表が可能となる。
ここでは普段私がどの様に研究をしているかを記載する。

●自宅や最寄りの図書館で行う場合

自宅 18:00-22:00
図書館やカフェ 18:00-23:00

JAIST東京サテライトは講義がメインの場所なので、実験や研究は基本自宅や他の施設で行わなければならない。
自宅の場合は私生活と研究の境目をどこにするかが焦点となる。場所と時間を切り替えるために最寄りの図書館やカフェを使用していたが、コロナ禍の影響で図書館が使えなくなってしまった。
自宅でも図書館・カフェでも大切なことは締切前以外は無理せず切り上げることだ。
私生活としてご飯やお風呂・睡眠時間を削っては良い研究はできない。

●本郷LabCafeにて行う場合

東京で実験を行う場合、幸なことに本郷LabCafeに場所をお借りすることができた。
研究仲間も近くに居るのでよくLabCafeに集まって論文執筆や研究をしている。
LabCafeに居る時のスケジュールは下記の通りだ。

19:00-23:30
LabCafeへ行く時は終電ギリギリの時間まで過ごす。成果を上げるためにLabCafeに居る時間をとても大切にしている。仲間と一緒に直接議論ができたり共同制作ができる環境はとてもありがたい。

●石川へ行く場合(会社の有給や休みを調整することが多い)

実験機材としては石川JAIST本校舎の方が格段に良いです。特に、JAIST Fabという3Dプリンタやレーザーカッター、その他工作機械が充実した工房が24時間365日使用可能なのはとても利便性が良い。JAIST Fabのために石川へ移住したいと思うくらい素晴らしい環境だ。JAIST本校舎で過ごす時間は以下の通りである。
*会社を休んだり時間を上手く調整して石川本校舎へ訪問しております。

飛行機移動 羽田7:30-小松8:30
小松から能美のJAISTまで移動 8:30-10:00
実験や打ち合わせ 10:00-12:00
お昼休憩   12:00-13:00
午後の実験  13:00-18:00
*時にゼミが入ることがある。ゼミは15:00-17:30
夕ご飯    18:00-19:00
夜間実験の場合 19:00-24:00
途中で宿に帰る場合 19:00-20:30
*宿泊場所は白山市鶴来の場合が多い。地元のスーパーが21:00で閉店するのでその前に宿に帰るようにしています。
宿でデータ整理 22:00-24:00
石川へ行ってもスケジュールは埋まり、効率良く進めなければならない。
時には機材の運用の兼ね合いで深夜帯に実験することもあり、その場合は大学で徹夜で作業し翌朝に宿に帰ります。

2,社会人学生の年間スケジュール

入学前
2019年
1月 現指導教員との面談・進学先を研究室を含め決める・学会誌へ論文投稿(査読 これは業務として認めて頂けた)
2月 受験準備・研究計画書
3月 受験日・CGVI(COMPUTER GRAPHICS AND VISUAL INFORMATICSc )参加 初めて先生にご挨拶

修士1年目
2019年
4月 国際学会デモ投稿・石川本校舎へ初訪問
5月 国際デモ採択・IVRC(Internatinal Virtual Reality Contest・VRの大きなコンテスト)チームビルディング・本校舎へ月一向かう・情報メディア研究会へ投稿
6月 人工知能学会・Robomech 聴講参加・IVRC予選通過・情報メディア研究会口頭発表
7月 国プロ2件応募
8月 IVRC制作終盤
9月 VR学会・IVRC
10月 財団応募・総務省異能vationノミネート受賞
11月 国内留学 名古屋工業大学・OIST(沖縄科学技術大学院大学)週末プロジェクト参加
12月 財団応募・EC研究会参加・国際学会論文投稿

2020年
1月 短期修了審査会・国際デモ投稿
2月 Laval Virtual採択・短期修了資格取得
3月 国際学会発表準備

修士2年目
4月 Laval Virtual デモ発表・VRICポスター発表 
5月 とある国の申請書を書き始める・次の進学先の面談・主テーマ決定
6月 とある国の申請書を書き終える(約280時間かかる)・国内留学成果物仕上げ・主テーマ実験開始,人工知能学会
7月 論文執筆
8月 論文投稿×2件,EC参加
(以下予定)
9月 VR学会口頭発表,日本感性工学会受賞発表,CGVI聴講,
10月 たぶん実験実験,ロボット学会
11月 国際学会
12月 国内研究会締切
2021年
1月 修士論文 締切
2月 修士論文口頭発表3月 国際投稿
3月 国際会議(予定)、国内学会、 修士終了予定

これらに加えて博士課程進学の受験が入る予定です。社会人学生として博士課程はチャンスを掴むためにも仕事と研究の両立を目指す。そして学位を取得できた際には更なる道を開拓したいと思う。

3.「忙しい」は言い訳。言い訳しない様に計画を立てる

JAIST東京サテライト校では講義を含め「年間スケジュール」を強く勧める。読者の中でJAIST東京サテライトへ進学する方がいたら先に伝えるが、年間スケジュールでなければ講義の時間が被ることで自分のスケジュールや時間が潰れてしまう。
また、仕事の都合でどうしても18:30の講義開始時刻に間に合わずに講義を遅刻することもある。そこは先生方も慣れているのか課題と最終発表をきちんとすれば時間の融通は効く。それでも、なるべく遅刻はしないほうが講義を最初から聞けるので自分の身になる。
東京サテライトの場合、講義を録画や録音して対応しているので社会人学生にとって非常にありがたい。

驚くべきことに、社会人学生として講義やゼミに参加すると「忙しい」と言い訳する人はほとんどいない。
皆さんほぼ時間はきっちり守る方が大半である。それはフルタイムの学生の時とは違う面白さだと感じた。
社会人学生の皆さんは大抵は学費を自分自身で支払っている。そして誰に強要された訳でもなく自らの意思で大学院へ来て学び研究しているのだ。「この研究がしたい」という思いで溢れている。
なるべく「忙しい」と言わないのではなく、「忙しい」と言うのが惜しいくらい社会人大学院生の時間はとても貴重で人生をより豊かにできる素晴らしい機会なのだ。その機会を有効に使うためにも年間スケジュールを立てることが大切になってくる。

社会人学生の皆さん本当に職場や家以外で自分を高めようという意欲が高く感じる。

4.同級生たちの努力 家庭・仕事・プライベート

2020年3月にとある講義が「非開講」になるという連絡がきた。コロナの影響での措置であった。社会人学生らにとって非開講は単位を習得する上で計画が狂ってしまう事態となった。

東京サテライトの講義は先生方が普段石川にいることもあり、各クオーター(前期・後期を更に半分に分けた2-3ヶ月を1クオーターという)事で単位が取れるわけではなく、クオーターを跨ぐことがある。大抵は一週間の集中講義か土日の集中を3−4週繰り返せば2単位分の取得が可能である。しかし中には、1・2クオーターで3−4講義が行われて、残り3クオーターで土日に集中講義を行い終了できる講義がある。
そのため、単位取得は一年計画を推奨される。

社会人学生は時間の制約がある人が多い。仕事の時間以外で勉学や研究を行うので時間の工面が必要である。
社会人学生の中には子育てや介護・ご家庭の事情で事前にヘルパーさんや託児所にお子さんを預けることを計画して講義に挑む人たちもいらっしゃった。仕事以外のプライベートな部分を工夫して挑んでいる学生たちにとっては、一年を見越した履修計画が崩れることは落単や留年の危機があるので死活問題であった。
中には長期履修制度を利用し、2年の学費で3年分受講や研究をしている人もいるが、それでも家庭と仕事を両立させながら隙間時間で勉強し研究をするのは、時間配分の工夫が必要である。

私は一人暮らしだが、それでも時間の使い方をとても工夫しなけば大学院の研究や勉強はできない。それに育児や介護、家の家事やご家族の都合がある方々の苦労は計り知れない。
このことはフルタイムの学生であると気づかないが、社会人学生となり同等な立場となったからこそとても広い意味で社会を見直せた瞬間であった。
大学を変えていくには「言葉」と「書類」の力が偉大だ。

同士で署名し大学に「提案書」を提出した。それも丁重な言葉と大学の苦労や配慮・感謝を綴りつつ仲間数人の名前を連ねて大学・先生方に丁重にお願いをしたのだ。

もし、自分だけであったら急な非開講に対して感情的になり怒り狂っていたかもしれない。


大学を動かしているのは人間だ。組織も大学も完璧ではない。
書類や言葉で大学を変えることができる。

結果、その講義はオンラインでの開講となり、東京サテライトの学生らは無事に履修通りに受講ができ、単位取得できた人も多かった様子であった。

この出来事から私はちょっとしたことでも大学に対して感謝や労いの言葉が増えた。素直に「対応頂きありがとうございます」と言えるようになったのだ。それは自分の中で凄い成長であった。
大学院で成長するのはもちろんゼミや講義、そして研究発表もあるだろう。それ以外の人間関係や組織への対応でもかなり成長できる。
お互いを理解し敬意を払い話し合いをすることで大抵のことは解決できる。

言葉でプラスの方向に変えていく力を身につけられる大学院は本当に素晴らしい場所である。

5, 社会人学生とも素晴らしい議論をしてくださる先生方に感謝


社会人学生をご指導してくださる先生方にも頭が下がる思いである。
JAISTの場合は石川本校舎で研究室を持っている先生方が週末に東京へ来て、講義やゼミ・研究指導すをする時間に当ててくださる。先生方の中には毎週石川と東京を往復する先生もいらっしゃる。
石川だけではなく、東京の社会人学生の指導にはモチベーションが大切である。
ある先生と議論していた時の言葉が印象的だった。
「MOT(Management of Technology)の領域では、会社務めをしながらの内側から会社を見ている人たちから素晴らしい研究や論文が生まれる。」
その言葉に私は感銘し、一気に社会人学生の見え方が変わったのだ。
企業にいるからこそ素晴らしい研究ができ論文が書ける。それは企業に勤めた者であれば理解できると思うが、学校とは違うビジネスでの人との繋がりや組織は多様性があり本当に面白いと思う。それらを言語化する作業は大変だが、大学と企業が論文で繋がる良いチャンスだと思う。
日本企業では論文の価値を少しづつではあるが、見出してくださるところが多くなってきた。
言葉で研究や出来事を残す論文は、次世代へ繋がる架け橋だと思う。
もちろん、ビジネス書もとても良い影響を与えると思うが、多くの専門家が引用する論文にも目を払うことで更に発展する可能性が広がってくる。

JAISTへ来るまではフルタイムの学生ではないことで先生や学生側からも色々と言われることがあった
特に一部の大学では「大学は若い人を育てる場所である。」と言われたこともあり、日本ではまだまた大学=若い人たちの場所・就職訓練の風潮が多いと思った。

私は工業高校出身であるが、高校からでも技能や難しい資格を習得すれば十分有名な大手企業への就職は可能であるし、給料もそこそこ頂くことができる。

日本では大学を出る意味として、大企業や公務員に就職し一生安泰に過ごしたいという意識がまだ根強いであろう。
しかし、現場に出る人たちは職人や技術者が多い。その人たちをまとめるのが”言葉の役割”であり書類だけでは通じない世界もある。
大学・大学院を出ることで身につく「丁寧に説明する言葉」こそが多くの人たちを動かし現場にまで伝わる。真の意味で言葉の重要性を身につけることができる。それは高校で身に着けるにはディベートや討論会などで日頃から練習していないと難しい面がある。なぜなら、高校は授業がメインであるからだ。

高校までの「生徒」と大学・大学院の「学生」は全くちがう。
高校までは生徒として与えられた課題をこなせば良い点数が頂ける。
大学・大学院も講義では与えられた課題をクリアすれば単位取得はできるが、高校と違うのは圧倒的に議論や自分の意見を求められることである。自分の意見を言うには基礎知識の他に多くの文献を読む・時代を読む必要がある。自分の意見を議論する時に整理整頓がつかないこともある。それをゼミや先生方との議論の場で練習し補うことができるのだ。先生方は学生らにとって羅針盤の様に方向性を見出してくださる。その先の道は自分で切り開かなければならない。

大学・大学院は議論を通じて言葉を磨き、自身を成長させる場所であると考えている。

JAISTの先生方はそう言った意味では社会人学生への理解はとてもニュートラルである。
社会人の可能性を先生方が心から信じてくれている。

JAIST東京サテライトキャンパスへ通学して、素晴らしい先生方に出会えたことは、人生にとって宝物に出会えたような素晴らしい経験である。

6. 社会人学生という言葉はあと20,30年後に無くなる・学ぶことや研究に年齢による遅いはない ・真の意味でのクロスオーバーが起こる化学反応こそ大学で起こる

真の意味のダイバーシティとは性別や国籍などを平等に見るだけではなく、どのような背景や年齢であってもその人たちを受け入れることである。
失敗しても前を向いていた方が人間の成長に繋がると強く思う。

日本ではどうしても社会人学生とフルタイムの学生を別にする傾向がある。
とある学会では社会人学生は一般料金と同じ参加料を求められたり、先生方でもフルタイム学生と社会人学生を区別する傾向があるのは確かだ。

しかし、フルタイムの学生と違い社会人学生は大抵は自分の稼ぎで学費を支払っているパターンが多い。JAISTの場合ですと国立大学なので入学金28万円、授業料は半期で26万円である。2年通うと132万円を自分の給料から支払うことになる。
その負担に加えて学会参加費や研究活動費も高額になると本人の負担となる。
学会参加費は研究室にもよるが、私の所属する研究室では年に1回は支給される。年に学会参加は4-5件あるので2回目以降は自己負担となる。だいたい10-20万円、自己負担になったこともあった。

諸外国では年老いても働きながらでも大学へ行く人たちが多いため、フルタイム・社会人学生という区別がない。
それは、大学はあらゆる年代の人たちがクロスオーバーし学び研究し合う場所であるからだ。
日本の様に新卒一括採用という制度も素晴らしいが、諸外国では大学は就職するためではなく”人生をより豊かにするため”の位置づけである。

日本から「社会人学生」という言葉がなくなるのに、あと20,30年は掛かるだろう。むしろ、社会人学生という言葉が無くなり、大学が真の意味で様々な人たちがクロスオーバーするとても面白い場所であって欲しいと心からねがう。

社会人をやりながらの学生は正直悩むことも多いが、悩んだ分の成長はとても大きい。
きちんと言語化し論文という創作活動に落とし込める大学院は本当に面白くて楽しい。

JAIST 東京サテライトは下は20代後半から上は70代前半の方々までいらっしゃる。
特に働き盛りの30,40代の学生が多いのが特徴的だ。
コロナの前は品川周辺で講義が終わった後にクラスメイトと一緒に呑みに行き、研究について議論し語り合うことが多かった。

特に私の勤務する会社が品川からとても近いこともあり、この2年で品川にある企業さんらとの交流が増えた。品川の魅力はビジネスにあるとより感じる機会であった。
皆と議論している時に、品川にある大企業の名前を出しながら「あの企業が大きくなったのは企業理念が素晴らしい」
「東海道に繋がる道中である品川に土地を購入した企業は先見の明がある。」「あのIT企業が世界的に巨大なのは創業者だけではなく優秀な技術者のリクルーティングが素晴らしいからだ。」などなど皆と話すと社会の見え方がどんどん磨かれていき楽しくなる。

品川全体がJAIST東京サテライトのメンバーにとっては大きなキャンパスだと感じる。

JAISTは日本で初めての大学院大学として誕生したが、その目的は真の意味で世代を超えた学びや研究をする場所になって欲しいということである。一回社会に出ても研究をやり直せる場所があったほうが人は豊かになる。
そんな役割を担うのがJAISTのなのだ。

7, 日本のイノベーションは社会人学生からはじまる

過去に3回東京大学を受験し2次面接まで行ったときには涙が出るくらい先生方からの否定の連続であった。
大学院に行くのを一瞬諦めかけたが、それらの挫折があったからこそ、チャンスを掴めたJAISTでは絶対に負けられないという意識が芽生えたのだ。

社会人でも学び続けるには相当な覚悟が必要だ。時間・お金、それ以外に周囲の理解も必要だろう。

例えば、私の場合は学費は全て自分で負担している。理由は一度目の大学院を中退しているからだ。
そこで両親に半期分の授業料を負担させてしまった。その時は20代だったので許されたところもあるが、社会人になってから大学院へ行くことを両親へ告げると「いつまで学生をやっているの?何が目的なの?」と残念ながら理解を得られなかった。

家に仕送りをしないことを条件に自分で学費を支払うことで進学には理解を得ることができた。
私の両親が大学院への進学を理解してくれなかったのは、大学は就職するためにあるという固定概念があるためだった。両親は現在60代で高卒である。大卒の人たちが出世するのを見て、子供たちにはせめて学歴を残したいと大学までは行かせてくれた。しかし、それ以上の”大学院”という研究機関がどのような役目があるのかを想像することができなかったのだ。
私は日本の地方出身だが、両親は未だにパソコンもインターネットも知らない世代である。いじりたくてもパソコンが怖くていじれないそうだ。その場合は本人たちがインターネットが便利なインフラであることに気づくまで待つしかない。

わからない人に対しては行動で示すしかない。社会人になった私は査読付き論文を通し、国際発表も経験したので、その原稿を両親へ送付した。私の両親はメールも使用できないので手紙でのやり取りとなる。
そしたら母が「あなたの論文や著書はどうやったら知ることができるの?」と言ってくれたのだ。そこから母はスマホを持ち、LINEを使えるようになり、まだメールはできないけれどインターネットで検索し情報を得るということを覚えてくれた。
私の情報のリンクをLINEで送信すると、そのリンクから飛んで見える娘の活躍が楽しみらしい。
私はたまたま家の近所に工業高校があり、そこに進学した。その学校は1994年にその地方でいち早くインターネットが使用できるようになった学校だった。当時はISDN でダイヤルアップで料金も高く回線も遅かったけれど、初めて見たインターネットの検索画面は今でも忘れられない。そのお陰で世界が広がりもっといろんな人たちと交流をしたいと思った。


大学院へ行き論文を書いたり、こうやってブログを執筆できる機会を得たことで少しづつ家族が良い方向に変わって行ったことはとても喜ばしいことである。

会社以外の人間関係や研究活動で、人は驚くくらい成長できる。
そこで開花できるチャンスだってある。
社会人学生こそ、社会と大学を結び付けてイノベーティブにし、新しい価値観を創造できる存在である。
なぜなら、社会人学生は組織と大学を結びつける架け橋であると確信している。

実際、JAISTの先生方は企業出身者が多く、とても広く社会を見れる力が他の大学よりも強いような気がする。JAISTでは日本国内で先駆けて大学のクロスオーバーを実践し、会社からの出戻りの人たちが博士号を取得して他大学の先生や企業の専務以上に就くことが非常に多い。

これはJAISTだけではないですが、こういった社会人でも活躍できる大学がもっと増え、日本がもっと国際的にも輝けるようになって欲しいと心から思います。

そのためには、人を動かす言葉の力が何よりも大切であると思います。言葉を磨き社会をイノベーティブに動かす力が大学にはあると思う。社会人を受け入れる大学がもっと増えて、学費を収めることができれば誰でも大学へ行ける時代がきて、日本全体でクロスオーバーが炸裂すればもっと社会全体にポジティブに変革が起こると考えている。

JAIST 北陸先端大へ心からの感謝と敬意を示しこの話を終わります。ここまで読んで頂きどうもありがとうございました。

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