続「たいやき」〜大事なのは中身〜


こちらは昨日6/3に投稿したワンドロ参加ストーリー、「たいやき」のその後の話です。ぜひそちらを読んでから読んでもらえると嬉しいです。



鯛焼き、頭からいくか尻尾からいくか論争の翌日。

私はというと、例の尻尾から派の彼...ではなく、尻尾から派の親友と会っていた。

「あれから彼氏、連絡あったの?」
「ううん、何も。やっぱあれかな。頭から食べるようなひどい女とは仲良くできないって事なのかな...。」
「え私の前でそれ言う?じゃあ私が尻尾から食べてるからって嫌いになるの?」
「あ、そうかごめん。それは...そんなことない。」

「でしょ?じゃあ大丈夫だよ。発狂して帰ったのあんたなんだし、仲直りしたいなら意地張ってないで連絡してみたら?」
「うーん、言い過ぎたなとは思うけど...。でもなんか負けた気がするから...だって絶対頭から食べた方が美味しいよ??」

目の前で水を飲んだ親友がむせた。

「ねぇ、まだそこ粘ってんの??」
「えじゃあさ、尻尾から食べる派代表として、尻尾から食べる良さをちょっとPRしてよ。やっぱ可哀想だからなの??」

「はぁ〜〜〜。」
とでかいため息をついてから親友は続ける。

「別に私は可哀想とかは思ってないよ。鯛焼きは鯛焼きだし。ただ、あんたが中身いっぱいのひと口目が美味しいって言うのと同じように、最初にもちもちの生地を味わいたくて尻尾から食べる人もいるんじゃないの?
食べられないならまだしも、2人とも好きな食べ物なのに食べ方で喧嘩してんのは流石にアホすぎるから早く謝りなよ。
あと私、好きなものは最後にとっとく派なの。」

「好きなもの最後にとっとく気持ちは分かるけど...でも、だって尻尾から食べたら、最後頭のとこ食べる時あんこ溢れちゃわない?
...ねぇ待ってそっちの方が酷くない??」

「いや、あんたの美学は別にどうでもいいけど、もうこの際、お腹から半分に割って2人で分けたらいいんじゃない?
なんか話してたら鯛焼き食べたくなってきた。ねぇ今からその鯛焼き屋さんいこうよ。昨日は鯛焼き食べなかったんでしょ?ちょうどいいじゃん。」

彼女はいつもこんな感じ。良くも悪くもドライで気分屋。
でも結局この子についてって最終的につまんなかった事は無いのも事実。


しょうがない。今日は多分彼もお休みだろうし、鯛焼き持って後で謝りに行ってみようかな...。
そっか、半分こすればいいのか...。

そんなことを考えながら、彼女と一緒に鯛焼き屋さんに向かった。
昨日の事件が脳裏をよぎる。

にやっと笑った彼の顔も、鯛焼き相手に可哀想と嘆く顔も、なんならその前のランチの時にPayPayの残高足りなくなって焦ってたマヌケな顔まで浮かんでしまった。

すると横でメニューを見てた彼女が私を呼ぶ。

「ねぇ!!ねぇってば!!あれ!あそこに立ってんのあんたの彼氏じゃない??」
彼女が指差す方向には、たしかに今思い浮かんでた彼の姿があった。

昼前の鯛焼き屋さんの前で騒ぐ女2人なんて目立つに決まってる。
当然彼もすぐに気づいた。

突然の遭遇に身構える私をよそに、親友は良かったじゃん!と一言言い残してさっさと鯛焼きを買い始めてしまう。
すると、彼もその後ろに並んで鯛焼きを買い始める。

えっ、気づいてたよね?無視して鯛焼き買うの?やっぱ頭から食べる人はちょっと...って事?

狼狽える私の元に、鯛焼きの包みを持った親友が戻ってくる。
その後ろから紙袋を持った彼もやってきた。

なに、尻尾から食べる派同士で仲良くなったの?
そう口から出かけたところを
「ここの鯛焼き、生地薄めだから尻尾にも中身いっぱい入っててうまい。神。」
と親友。
おぉ、ほんとに尻尾から食べてるわ。知らなかった。

そんな親友にぺこっと頭を下げて彼は私の方を向いた。
「昨日はごめん、すぐ追いかけるべきだった。ちょっとびっくりしちゃって...。」

当たり前である。

「あ、いや、私こそ突然発狂してごめん...。」と答える私はただの変人だ。
すぐ横で、鯛のお腹のヒレをかじる親友がニヤニヤしだす。

「それで、どうしよっかなって考えてたんだ。あの勢いからして、君が尻尾から食べるとは思えないし、かといって俺が頭から食べるようにするのもなんか違うかと思って。」

あまりに神妙な顔で話すもんだから、さすがの私も若干シュールさを感じ始めた。

「だから、今からこの鯛焼き持って君のとこ行って、半分こして謝ろうと思ってたんだ。まさか店で会うと思わなかったけど。」

なんなんだよ。
一緒じゃん。

私も今から鯛焼き持って君のとこ行こうとしてた。
なんて友人の前では恥ずかしくて言えなくて、代わりに出た言葉は
「あ、ありがとう...じゃあ...尻尾の方もらってもいい?」

「素直じゃないね〜。どうせあんたも今から行こうとしてたんでしょ?」と横から茶化される。やっぱりバレてた。

彼はほっとしたような顔で半分にした鯛焼きを私に差し出した。


受け取ろうとした瞬間、私は再び手が止まった。

「ねぇ、なんでチョコなの?」


「チョコは邪道とか言うつもりじゃないけどさ!この場面でチョコはなんか違うじゃん!!」と叫ぶ私と、
「だってこしあん派かつぶあん派か分かんなかったんだもん!!じゃあもう頭から食べていいからもう一個買ってきてよ!」と叫び返す彼。

親友はと言うと、よっぽど面白かったのか、お腹を抱えてかがみ込んで引き笑いをしてる。
彼女の鯛焼きからはりんごカスタードがこぼれ落ちていた。

最終的にもう全部面白くなってしまって、3人でゲラゲラ笑った後、あんことカスタードも買ってきてみんなで食べた。
彼には大事な場面でチョコを選んできた罰として、わたしの鯛焼きを頭からかじらせてやった。

後から聞いたら親友は、「まさかあそこから第2ラウンドいくとは思わなかったよ。生まれて初めて、もうええわ!って言いそうになった。」と言っていた。


終わりです。
鯛焼きも人間も、大事なのは中身だよねっていう締めくくりにしたかったんです。

中身のチョイスでオチを作る事と、親友ちゃんをいいヤツにしたいって事だけ決めて書いたらこんなことになりました。
ちなみに、
主人公はカスタードも捨てがたいけど結局いつもつぶあんにする派。
彼氏くんはチョコかカスタード派。
親友ちゃんはその時の気分で決める派ですが、気づくとりんごカスタード率が高いタイプ
です。

話は全部フィクションですが、僕はというと、りんごカスタードを食べる親友ちゃんみたいなタイプの人が好きです。

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