ハイボールで見直す、会話の仕方

「ねぇ、なんかこの人無理だな〜って思うの、どんな人?」
今日の里奈のトークテーマはこれだった。


「うーん、店員さんに態度悪い人とか?」
と目の前のスタバの店員さんを見ながら私は答える。

「あーそれもあるけど、なんかもっとこう、コアなやつ!うわ分かる分かる!になるやつない?」

「え〜例えば?最近なんかそんな感じの人でもいたの?」
里奈が私にこういう話をしてくる時はだいたいなんかあった時だ。

「ねぇするどすぎ。まぁそうなんだけどさ。
例えばこっちが仕事かなんかで上手くいかなくて落ち込んでて、ちょっと会えない?って聞いた時に、ごめん今日仕事で遅くなるって言って断ったくせに遊び行ってるストーリー載せてるやつとか。」

あぁ、昨日ストーリーで限定公開にしてたアレか。

「いや、もうそれまんまじゃん。しかもちょっと私が思ってたのと違ったわ。」
と私が返すとすかさず

「え、なになに聞かせてよ、どんな?」
と聞いてくる。

私は数日前の飲み会の事を思い返していた。

「うーーん、聞いてもないのに余計なウンチク?みたいの言ってくる人。」

「分かる分かるwしかもなんかみんな自慢げよね。最近なんかあったの?」
今度はコッチの番だと言わんばかりに里奈が近況を探ってくる。

「んー、まぁ里奈なら言ってもいいかぁ。
この前の飲み会で、二次会の時に初めて話した人がいたんだけどさぁ。
まぁなんか、最初は普通に色々話振ってくれてありがたいなーくらいに思ってたんだけど、普段家でも飲むの?って会話で私が、最近はハイボールばっかりですね〜みたいな話したら、
私が飲んでたハイボール指さして、
『知ってる?ハイボールって、ウィスキーだけじゃなくて、お酒のソーダ割り全部のこと指すんだよ〜。』って言ってきて。
その瞬間なんか無理になったんだよね笑」

私が言い終わるより早く、里奈がマスク越しに分かるレベルでニヤニヤしてるのが見てとれた。
「ねぇ待って、それ業務課の◯◯さんでしょ。」

里奈のその返答で私は察した。
「...もしかして同じ話された?」

「うんうん!
さては持ちネタ擦ってんなアイツw」

「まぁ持ちネタ擦るのは別にいいんだけどさぁ、別にハイボール飲んでる人に向かってわざわざ言うことでもなくない?
そんなん知ってるっつーの。てかあれ間違ってるからね。その定義で言うならソーダに限らず、リキュールに割り物入れてるやつ全部ハイボールだから。カシオレもジントニックもハイボールだわ。」

「待って、なんでそんな詳しいの?私知らなかったから、その話の時普通に感心しちゃったんだけど。てかそっか、それで調子づいたんだろうなあの人。」

だめだ、里奈はもう早速論点が◯◯さんの方に向いてる。

「あー、私昔バーで働いてたから。
てか違う、そこじゃない、そこじゃないのよ。」
私は慌てて論点を戻す。
そう、今日のトークテーマは、
[なんか無理だなって思う人。]だった。

「え?どういうこと?◯◯さんが無理って話じゃなくて?」

「いや、別に◯◯さんに限った事じゃなくてさ。
さっきのハイボールの定義の話って、それこそ酒が並んでてカウンターがあってマスターがいるようなお店で聞くならまぁ分かるのよ。
でも、今回みたいな職場の飲み会とかで行くような大きめの居酒屋みたいなとこでハイボールって言ったら、てか普通にハイボールって言ったら、角とか、ヒゲのおじさんとかみたいな、いわゆるウィスキーのソーダ割りじゃん?」

「うん、私の知ってるハイボールはそれ。」

まだ多分論点が戻ってきてない顔で里奈が頷く。

「でしょ?それをさぁ、さも知ったような顔で、知ってる?ハイボールってね〜ってウンチク垂れてくんの、なーんか野暮というか、センス無いなぁって思ったって話。」

「あーわかるわかる、しかもそういう人ってたいてい最後まで言い終わるまで話すのやめないんだよね。こっちはもうオチまで見えてるのに。」

この『分かる分かる』は多分そこまで分かってなさそうだけど、後の言ってることは合ってるし、いっか。
と私は口に出す代わりにフラペチーノをかき混ぜて吸った。
生クリームがすっかり溶けてる。

「ねぇ、じゃあその話の時にさ、なんて言われてたらセーフだったの?」
私が飲んでる間に議題が次に進んだ。

「うーんそうね、もし私なら、ちょうど家でハイボール飲むって話してたんだし、美味しいハイボールの入れ方を教えてくれるとか、おすすめのウィスキー聞いてくるとかだったら、あーこの人はちゃんと会話をしてくれるなって思うかも。まぁそれも知ってるけどね。」

「会話にならない人って結構いるよね〜分かる。ねぇ話聞いてた??って言っちゃうわ私。てか美味しいハイボールってどうやってつくるの?」

今度の『分かる』は本当に分かる方のやつだ。

「美味しく作るっていうか、丁寧に作るって感じかな。
氷いっぱいにして、ウィスキーはちゃんと計って。炭酸は氷に沿わせてそーっと入れるの。で、混ぜるのはガシャガシャしちゃダメ。炭酸が抜けるから。マドラーとかスプーンで氷を下からすくって浮かせて、で、そのままそっと戻すだけ。ウィスキーは比較的馴染みやすいからこれだけでよく混ざるよ。できたらレモンも用意した方が良いかな。」

「へぇ〜、さすがバーで働いてただけあるね。
私、今の話聞いてたら、今後ハイボールをガシャガシャ混ぜて作る人の事は好きになれなそう。」

「あはは、そうそれ。なんか無理な人って、そういうのでしょ?」



あとがき

今回は「ハイボール」というお題をいただきました。
まず思い浮かんだのが、ハイボールの定義。ハイボールってのはウィスキーに限らず、リキュールを割もので割ったやつだよってやつです。
で、普通の居酒屋でハイボール飲んでる時にそれをわざわざ言ってくるやつって野暮だよな。
って話を書くことにしました。

最初は居酒屋バイトを始めた大学生の女の子と、そこでバイトしてた2個上の先輩のやり取りとして書き始めたんですけど、先輩のムーブが余りにもキモかったのでやめました。
結果、独身男性が妄想で書いたガールズトークになってしまいこれはこれでキモいんですが、まぁ多目に見てもらえると助かります。

ちなみに作中の里奈さんは友人の名前から適当に取っただけで特に深い意味はないです。
「業務課の◯◯さん」は弊社にいる人物を2人ほどイメージして複合させたモンスターです。

よかったら読んでくれた方も、なんか無理な人を教えてください。僕が参考にさせていただきます。よろしくお願いします。

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