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第八話 こんなはずじゃなかった大学時代

10月の復帰戦以来、僕はその後のリーグ戦とインカレにスタメンで出続けた。

ただ、これは実力で勝ち取ったものではなく、戦線離脱を余儀なくされた先輩の代理に過ぎない。そうは言っても1年以上ぶりにサッカーをしている自分にとって公式戦で闘えることはとても楽しかった。

なかなか怪我前の感覚を取り戻すのに苦労はしたが、長いリハビリ生活を思えばそんな状況さえも僕にとっては幸せだった。

大学1年目のシーズンはサッカーを楽しむという観点では100点満点だったが、サッカーのプレー自体は到底満足のいく内容ではなかった。



そんなリハビリと復帰の1年を経て迎えた大学2年生。

自分にとって勝負の1年がスタートした。
入学前のリハビリ期間に自分で立てた目標のひとつにこんな目標を掲げていた。

・大学2年時に夏の総理大臣杯と冬のインカレで活躍をする

・そしてチームを上位に導き全国に自分の名を轟かせる

・そしてプロチームの内定



当時岡庭愁人、横山塁、長谷川光基、篠原新汰をはじめとしたユース時代の同期が関東リーグで活躍をしていたり、鹿屋体育大学で同期の根本凌がデンソーカップの九州選抜に選ばれるなど、大学サッカー界で同学年が着実にステップアップしていた。
それが何よりの刺激であり、自分の負けず嫌いさに火をつけた。

そんな覚悟のもとで迎えたシーズンであったが、春の招待大会で関東の大学を相手に自分は何もすることができなかった。
まだ復帰して感覚が戻っていないだけだと思いたかったが、そんな言い訳は他の選手には関係ないし、目標から逆算した時に僕には時間がなかった。

当時のサッカーノートを振り返ると…

「九州と関東のリーグでは差がありすぎると思った。毎週あんなに熱い試合をしていると思うと、今の頑張りだけでは全く歯が立たない。自分が今までしてたのはプロになりたい人の取り組みとは思えないと感じた。それを少しでも埋めて、追い越すために必要なのは練習の時にどれだけ死ぬ気でやれるか、一つ一つのプレー、球際に魂を込めて試合さながらにできるかどうかだと強く感じた。練習以外でも改善点はあるが、まずは練習時間内のプレーにこだわる」

と記してあった。


そして迎えた九州大学リーグ開幕戦。

僕はベンチスタートだった。この状況に納得をしている自分に何よりも腹が立ったが、この状況をなんとか打破しようとその後の練習に取り組んだ。
それからはスタメンで出た試合もあったが、天皇杯予選や大臣杯決定戦と言ったここ1番の試合で僕がスタメンに名を連ねることはなかった。

この年の鹿屋体育大学は天皇杯で名古屋グランパスを倒すジャイアントキリングを起こしたが、その試合で僕がピッチに足を踏み入れることはなかった。

家族が名古屋まで観戦しに来てくれていたが、自分のプレーを見せることができずとても悔しかった。

試合後チームが喜び、写真撮影をしている合間、僕は1人でロッカーに戻り当時ベンチ入りすることもできなかった同期の木橋朋輝と熱い決意を交わした。
その後はアップ場に行き、思いのままに走った。途中からGKコーチが付き添ってくれて自分を鼓舞してくれた。

「必ず俺が活躍する」

という想いを胸に走り続けた。



そして迎えた天皇杯大分トリニータ戦。

この日も僕はベンチスタートだったが、0-0で拮抗した試合展開の中で僕の名前が呼ばれた。ついに天皇杯に出場できる機会が訪れたのだ。

後半37分 坂口祥尉天皇杯デビュー

が、僕の天皇杯デビュー戦は苦い思い出となった。残り時間わすがなところでサイドでの1対1からクロスを許すと失点、チームはなんとか同点に追いついたものの延長戦、相手のパスをクリアしたボールが相手のところに転がり、ミドルシュートで失点。2失点に絡み、1-2で負けた。

チャンスをものにすることができなかった。

正直ひどく落ち込み、自分の無力さに死ぬほど腹が立った。試合後ホテルに戻ると雨の中、夜の街へ走りに出た。息が苦しくなる中で自分のプレー、これまでの取り組みを反省した。

そしてまた目標に向けた志を再構築した上で迎えたのが最初で最後の総理大臣杯。

この頃、未だ自分の立ち位置は変わらずベンチスタート。1回戦は出場することなく試合が終了し、チャンスが訪れたのは2回戦での出来事だった。0-0の試合展開の中での交代。脳裏には大分トリニータ戦での敗戦が浮かぶ中で、今度こそはチームを勝たせるという強い決意を持って試合に出場した。
しかし、チームは失点を許し0-1でまたしても負けた。大事な局面で自分を使ってくれた監督の期待に応えられなかった。結局その大会は自分たちが負けたチームが準決勝で関東の大学に大敗していた。
関東のチームとの差が開いていることを認めざるを得なかった。

それからのリーグ戦も不動のレギュラーを取ることはできず、冬のインカレではベンチからチームの敗戦をただただ見ていた。

そして僕は悟った。

「このままではまずい」

と…

そして、僕は人生を賭けた決断をするのであった。

※今回の記事で出てきた鹿屋体育大学の木橋朋輝選手は今シーズンの注目選手の1人です!

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