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夢について5

夢には記憶が混じっている。
過去に夢の入口があったからだ。

雨の日、車が水をはねながら走る音が外から聞こえる。呼び覚まされる記憶の中に、夢の入口がある。夜の車で眠ってしまった僕を抱きかかえて階段をのぼる父。

夢は未来よりも、過去に通じている。

「大人は夢見ることを忘れてしまう。」それは、大人が未来を見ることを忘れてしまうからではない。むしろ、過去を見なくなってしまうからだ。

大人は、子どもの驚きを忘れてしまう。子どもの悲しみを忘れてしまう。それだけでなく、子どもの頃の、夢の入口を忘れてしまう。

記憶の中の夢の入口が失われると、夢を見ることは難しくなる。大人にとっての現在にも、夢の入口はあるが、その入口はあまりに淡い。その入口からかろうじて入り、記憶の中の夢の入口へとさらに入る。

すると、夢が降りてくる。


つづく

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