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第8回 INSEADでの学び どのように戦略を教えているのか?(Part1)

どんなMBAプログラムにおいても戦略は必ず必須科目になります。これは未来永劫変わらないと思う。戦略はいつでもビジネスの中心である。それでは、INSEADのLead the Future Programにおいて、戦略はどのように教えられているのだろうか?とても興味深い。内容が多いので複数回での説明になります。

今回も結論から書いていきます。結論だけ読むと当たり前のことしか書いてありません。

・戦略には外部要因が大きな影響を与える(個別企業の戦略を考える前に業界全体の特徴を抑える)
・同じ業界においても、パフォーマンスには戦略によって大きな差が出る。
・そしてビジネスの目的が財務的目標だけでなく、社会、環境対する要求も重要度が上がってきている。
・SWOTよりもFIT Frameworkが優れる(SWOTはただの項目を挙げるだけのリストになりがちだから)


Peter Zemsky 教授

Zemsky教授は、INSEADの戦略とイノベーションの教授であり、2010年から2023年までリーダーシップチームに所属し、副学長およびイノベーション学長を務めました。デジタルおよびAI技術の進展からビジネス価値を引き出す戦略に情熱を注いでいます。彼はEdTechの革新を推進し、INSEADのサンフランシスコおよび中東キャンパスの設立を指導しました。Value-based approachに基づき戦略論を展開します。Value-based approachはとても面白かったので次回になりますが、しっかりと説明します。

戦略の定義

Strategy is fundamentally about FIT: How organizations adapt over time to their changing environment.
戦略とは、FIT(適合)であり、変わりゆく環境に対していかに組織を適合させていくかである、と定義します。

まずは業界を見る

2016年時点の3つの業界(自動車、製薬業界、IT)のトップ3社の売上、時価総額、純利益の合計を尋ねます。項目毎に3つの順序が大きく入れ替わります。

・売上高の順序:自動車→製薬業界→IT
・時価総額の順序:IT→製薬業界→自動車
・純利益の順序:自動車=製薬業界→IT

さらにこの数値が2016年から2021年でどのように変わったのかを示します。自動車業界は安定しています。製薬業界は堅調な成長を続けています。IT業界は、弾けるように圧倒的な成長を示しています。

個別企業の分析に入る前に、業界全体を比較します。どうして業界が変わるとこれほどまでに財務的パフォーマンスが変わるのでしょうか?自動車は徐々に差別化をする事が難しくなってきています。製薬業界はどうして自動車業界に比べて、財務的な成長を続けられるのかというと、特許によって守られる、ということを挙げています。それではなぜ、IT業界はここまで成長しているのでしょうか?facebookを例に説明します。他の業界にはない特徴を挙げます。ユーザーが増えるとコンテンツが増える、そうするとさらにユーザーが増える、さらにコンテンツが増える、そうするとコンテンツを提供するクリエイターが増えていきます。この累積的な増加のサイクルが回ることが特徴です。

次に、自動車業界の中でもパフォーマンスには大きな差があることを説明していきます。大手15社の売上、時価総額、純利益の2016年から2023年の変遷を説明します。そして、この15社の中に、彗星の如く現れるのがテスラです。そしてテスラが本当の意味で戦略的に成功と言えるのかは大きな議論であるとも述べます。

そしてIT業界のトップ5社(Google、Amazon,Facebook,Tencent、Alibaba)の売上高、時価総額の変遷を紹介します。全ての会社が売上高は成長しています。しかしながら、時価総額には差が出てきています。Google,Amazonは大きな成長をしていますが、Facebookは時価総額は減少しています。さらに、中国系のTencent、Alibabaは時価総額が減少しています。とりわけ、Alibabaは減少していますが、中国政府の政策影響が出ていると説明します。

私は前職が自動車業界でしたので、自動車業界の勢力図についてはよく目にする機会がありました。しかし、今回のように業界を超えて、売上高、時価総額、純利益の変遷を見るのは面白いです。

FIT Framework

今回の戦略の講義は、このFIT Frameworkを用いて学びます。この3つの接続により戦略を規定していきます。そして従来のSWOT分析については、それが単に項目を列挙するだけになってしまうということを挙げています。以下のFIT Frameworkを用いて、Situation analysis (外部環境)、Value Proposition(戦略提案)、Strategy Execution(戦略実行)を繋げていきます。Situation analysisを通じてWhere to Playを検討します。Strategy executionでは、How to win、すなわち自社が何をやるかを考え、Value propositionにおいては、顧客に対する付加価値提供を検討します。

上の定義のところで述べたように、戦略とは、FIT(適合)であり、変わりゆく環境に対していかに組織を適合させていくかであり、それを考えるためのフレームワークになっています。

このフレームワークを使って、Vitalityという保険サービスを紹介します。Vitalityは南アフリカのDiscovery社が提供する新しい健康保険と生命保険の価値提案です。外部環境の変化として、健康を志向する人口の増加とApple Watchに代表されるウェアラブルデバイスに着目します。
生命保険業界というのは、日本だけに限らずすでに業界の構図が出来上がっている業界です。生命保険というのは多くの場合、お金を支払っている人(負担者)がメリットを受け取れないという、よく考えると少し変わったサービスです。なぜなら生命保険金を受け取るのは本人ではなく、遺族です。このVitalityというサービスはアプリを使い、健康的な生活、運動をすることでポイントが付与され、これらのポイントが航空会社のマイレージのようにいろんなところで使えます。健康的な行動を続けることで毎年の保険料も下がっていきます。以下の動画を見るとどのようなサービスかを理解できると思います。

https://www.youtube.com/watch?v=Zvt1t9AMjgE

保険会社としても健康的な方が増えることは良いことです。健康的な生活を好む顧客が増えていきますので、保険金支払いの機会が減ります。さらに保険の継続率も上昇していきます。
こういったサービスを提供するために社内の組織、従来の保険会社が苦手とするウェブサービス、アプリのインターフェース、パートナーシップ構築に取り組みます。いろいろな国の主要な保険会社と提携することで各国市場への迅速な適応を可能にします。

Trendを掴む(Analyzing Trend)

ビジネスを行う環境を分析するフレームワークとして、PESTLEを紹介しました。PESTについては知っていましたが、LEが付け加わったのですね。それぞれ頭文字から、Politics,Economy、Social,Technology,Legal,Environmentになります。

PESTLEのフレームワークを用いながら、上のテーブルのSituation Analysisを完成させていきます。ホテル業界を例に分析を行います。
まず、政治的要因として、多くの政府が観光産業を経済成長の重要な部分と認識し、積極的に推進しています。しかし、一部の自治体では、Airbnbのようなシェアリングエコノミープラットフォームに対する規制が導入されています。経済的要因としては、中国の経済成長と新たな中産階級や富裕層の出現により、グローバルな旅行需要が増加しています。一方で、サービス労働者の需要が高まり、労働市場の逼迫が課題となっています。

社会的要因として、観光客の増加により特定の地域では観光業が繁栄していますが、パンデミックの影響で旅行需要が激減しました。技術的要因では、インターネットの普及とシェアリングエコノミーの成長が大きな影響を与えています。法的要因としては、シェアリングエコノミーに対する規制が一部地域で進められています。最後に、環境的要因としてカーボンプレッジ、つまりCO2削減の誓約があり、これにより旅行需要が減少する可能性があります。

Trendの変化からImplicationを理解する

Implicationは大事な単語であると思います。implicationは日本語で「含意」や「暗示」と訳されますがあまり、使いませんよね。動詞「imply(暗示する、示唆する)」と関連付けて説明すると分かりやすいです。私はこの単語を聞くと、アラートが立ちます。「implication」は何かが直接的に明示されていないが、その背後に潜む意味や結果を読み解く必要があることを指すからです。Trend分析ができてもその意味合いを理解できないと戦略策定に活かすことができませんImplicationをしっかりと理解するために、Value Chainの観点から分析していきます。
AirBnBを例に説明します。Airbnbは従来のホテル業界のバリューチェーンを破壊的に変革しました。従来のホテル業界では、マリオットやアコーのようなオーナーオペレーターがホテルブランドを運営し、トムソンやアバスボヤージュなどの旅行代理店がその商品の販売を担当していました。それだけでなく、ホテルの建築業界、工事業界にも大きな影響を与えています。さらに、AirBnBは時価総額で、アコー、マリオットを抜き去ってしまっています。
AirBnBは、未使用の物件や自宅の一部を持つ個人を供給元とし、それを利用者に提供するプラットフォームを構築しました。これにより、マリオットやアコーのような伝統的なホテルオペレーターを直接的に脅かし、旅行代理店を含む従来の流通チャネルを無効化しました。さらに、Airbnbはインターネット上のレビューシステムを活用し、利用者が提供するレビューを基に信頼を築きました。これにより、従来のホテルが提供する品質保証システムに頼らず、低コストで高い信頼性を提供することが可能になりました。


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