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第9回 INSEADでの学び どのように戦略を教えているのか?(Part2)

Peter Zemsky教授の指導する「戦略」についての2回目の投稿になります。Peter Zemsky教授は、Value-based approachの提唱者であり、今回はこちらについてメインに語っていきます。

以前から思っていたことですが、戦略についての本がいろいろと出ておりますが、本質的な意味ではもうこの数十年変わっていないと思います。たくさんの本がいろいろと出ていますが、結局のところは差別化です。差別化の方法として複数の理論が存在するというのが私の理解です。

今回も結論から書きます。Value-based-approachから考えた差別化ですが以下の要素に分解して、自分が獲得するValue Captureの最大化を狙うというものです。さらには、直接的な取引に参加しない人たちへの影響、外部性(プラスとマイナス双方ある)を考慮することが必要と言っています。


Value based approachに関する6つの概念


収益性に関する概念として以下の6つを説明します。
WTP: Willing to Pay、お客様が最大限支払っても良いという価格
TP:Transaction Price、実際の取引価格
TC:Total Cost、総コスト
PE:Price Erosin、独占状態、差別化ができていないために、失う(侵食される)価格。WTPとTPの差額。
TC:Total Cost、総コストであり、ECとICに分かれる
EC:External Cost、サービスを提供するにあたり外部に支払うコスト
IC:Internal Cost、サービスを提供するにあたり社内、自身で負担するコスト

Value Capture

戦略の本質を数値的な概念から説明していくことが面白かったです。一言で言うならば、Value Captureを最大化することが戦略です。あまり意識しないのですが、WTP(Willing to Pay)とTP(Transacition Price)には差額があるということです。例えば、スターバックスでコーヒーを買うとしましょう。いくらまででしたら出しますか?最大限許容できる価格のことをWTPといいます。もしかしたら50円、100円あがっても購入するのではないでしょうか。このように多くの場合、WTPは実際の購入価格であるTPよりも高いのです。ところが、競争環境があるゆえに、TPまで価格を落とさざるを得ないのです。この時に、販売者が値下げをする価格のことをPE(Price Erosion)、価格浸食と呼んでいます。他にも類似した商品、サービスを提供する人がいるのでWTPでの取引ができないのです。反対に、自分しか当該サービスを提供できないのであればPEの金額を小さくすることができる、つまりTPを限りなくWTPに近いところで設定できるようになります。Value based approachではこのように差別化、戦略を定義していきます。簡単には比べられない、ユニークな付加価値を提供すること、すなわち、WTPとTPの差をなくすということが戦略の本質になります。自社のユニークな価値がなくなってしまうとこれはかPEが大きくなり、どんどんTPが下がってしまうことになります。

TC(Total Cost)はIC(Internal Cost)とEC(External Cost)の合計で求められます。TCを低く抑えることができれば、その分だけ、Value Captureが大きくなるわけです。外部から調達するコストを最適化する、自社内部で発生するコストを抑えることでTCを低くすることができます。しかしながらこのコスト低減に戦略的な取り組みをすることも大切ではありますが、単なるコストダウンというのは長続きしませんし、サービスを提供してくれる会社とも良好な関係を築いていくことは長期的には必要になります。

実際にはTC(Total Cost)を抑えることは難しいと思います。なぜなら企業サイズが大きい会社しかそれは容易には実現できないからです。TCでを抑えることで優位に立てる会社はトヨタ、イオンなどの最大手企業だけです。私は日産で勤務しておりましたが、どう頑張ってもコスト競争でトヨタには勝てません。原価には変動費と固定費があって、固定費は数量が増えるほどに安くなるからです。企業規模の小さい中小企業の場合、TCを下げるということは、外部から調達するコストを下げることは難しいのでIC(Internal Cost)を下げるということになりますが、ICを下げるということは、人件費を削るような安易な手段になりがちです。しかしながら長期的視点に立てば、素晴らしい人材を安価で採用できるわけもなく、この方策が間違っていることは明らかです。以上より、TC削減は必要ですが、それよりも私は多くの場合は、WTPとTPの差額を小さくする、自社しか提供できない差別化、付加価値を提供することが大切であると思います。

外部性(Externality)についての考察

外部性、Externalityというものについてもかなりしっかりと説明しています。これは20年前の早稲田MBA時代には戦略の講義で説明を受けた記憶はほとんどないです。企業倫理であるとか、環境経営の中で教わったように記憶しています。外部性(Externality)というのは、直接的な経済取引に関与しない人に与える影響のことです。ポジティブな外部性とネガティブな外部性があります。

ポジティブな外部性とは、ある経済活動が第三者にプラスの影響を与えることです。例えば、教育などのサービスは、 一人の教育が社会全体に知識やスキルの恩恵をもたらします。ワクチン接種なども病気の予防が進み、他の人にも感染しにくくなります。

反対に負の外部性とは、ある経済活動が第三者にマイナスの影響を与えることです。工場の排煙が空気を汚染し、住民の健康や環境に悪影響を及ぼします。また、ある交通サービスを利用した場合に交通渋滞を引き起こし、他のドライバーに時間的損失やストレスを与えます。

このように、これからの時代は、単に直接的な取引関係のある人だけではなくて、取引の外側にいる人に対しても責任が求められるということです。具体的に説明されていたのは、Airbnbはという民泊サービスです。サイトやアプリからの予約により、現地の人々が所有する空き家に有償で宿泊したり、ホスト宅の一室で寝泊まりしたりすることができます。これにより、利用者は今までよりも安い値段で宿泊施設を利用することができるようになりました。反対に負の外部性としては、Airbnbの物件を利用する観光客が増えると騒音やごみの問題が発生することがあります。特にパーティーや集まりが頻繁に行われると、近隣住民にとっては大きな迷惑となり、地域の治安が悪化することもあります。さらには、短期的な滞在者が増えることで、地域コミュニティの一体感が失われることがあります。住民同士の交流が減り、地域社会の結びつきが弱まることがあります。

Uberサービスの負の外部性についても説明されました。このサービスの利用頻度が増えると交通渋滞の増加、環境への影響、地元タクシー業界への影響、労働者の権利問題、安全性と規制の問題が含まれます。具体的には、個人の車利用が増えることで交通量が増加し渋滞が発生しやすくなるほか、車の利用増加に伴い二酸化炭素(CO2)排出量が増加して環境への負荷が高まります。また、Uberの市場参入により伝統的なタクシー業界が競争圧力にさらされ、多くのタクシードライバーが収入を失い地元のタクシー会社が経営難に陥る可能性があることや、Uberドライバーが独立した契約者として扱われるため雇用保険や健康保険などの基本的な権利や福利厚生が保障されていないことから、ドライバーの生活の不安定化や労働条件の悪化が生じます。さらに、Uberのサービスは伝統的なタクシー業界と比較して規制が緩いため、安全性の問題が発生することもあり、例えば運転手のバックグラウンドチェックが不十分であったり車両の安全基準が満たされていなかったりすることがあります。

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