日曜の夜に書いたやつ
昔から栗の花の匂いが嫌いだった。
鼻の奥から耳にまで抜けていくような苦さを感じた。
僕の母親は極度の倹約家だった。初夏くらいの気温では決して車のエアコンをつけずに窓を開けてやり過ごす人で、毎年六月前後は車の中が栗の花の匂いで満ちた。僕はそれがひどく嫌で、度々エアコンをつけるよう説得したものの母の節約精神に返り討ちにされていた。
思春期に入り、僕はそれが精液の匂いと同じだと気がついた。
二十二歳の初夏、窓を開けて運転していると栗の花の匂いがした。不思議と昔のような嫌悪感はなく