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文庫本の最後に載る解説は読んではいけないのだな、と今筆を持ってから気づいた。その分野に精通した人の解説は正しく頭に吸い込まれていってしまう。結果薄まってしまった自分の持った率直な感情は、検出しようとしてもなかなか出てこない。正しさとはそれほどに強く眩しい。 それでも、少しでも自分の感情は忘れてはいけないのだと思う。たとえ不確かで、散らかっていて、正しくなかったとしても。一つでも条件が異なれば違った結果が生まれてしまう。カオス理論だ。 伊坂幸太郎の『オーデュボンの祈り』を読ん

    • 日曜の夜にだけ書くnote 2

      外を歩くと初夏があった。 昼間の暑さは空気に溶け、気持ちのいい冷たさがシャツの内側まで滑り込んできた。六月の二週目。まだ梅雨はこない。 毎週末歩く工場の周りは静かだった。時折聞こえる木材を削る音が、鋭い波となって僕の肌を振動させた。 まだ灯りの灯っている工場の窓からは、木材の断面から放たれる茶色い匂いとニスの匂いが漏れていた。世界が回っていた。 エントロピーだ、と僕は思った。世界に取り巻く乱雑さは、僕の内側まで浸透して大切なものを奪っていった。奪われたものは僕の中にそれが

      • 日々思うことツァラトゥストラ 1

        突然だが私は薄毛家系である。 母方の家系は剛毛で白髪であるが、父方の家系は軟毛でハゲである。祖父はインディ・ジョーンズに出てきたクリスタル・スカルのような頭をしていた。 そして何を隠そう、私の髪の毛は「軟毛」である。 このままいけば私は間違いなくハゲるであろう。自分のことは自分が一番よくわかるものだ。隔世遺伝の魔の手が私の毛根を鷲掴みにしている。 しかも私はゴリゴリの日本人顔だ。醤油小さじ1にみりん、酒をひと回しで完成。私と一緒に根菜を炒めれば味の薄い金平が作れる。ジェイソ

        • 日曜の夜にだけ書くnote 1

          昔から栗の花の匂いが嫌いだった。 鼻の奥から耳にまで抜けていくような苦さを感じた。 僕の母親は極度の倹約家だった。初夏くらいの気温では決して車のエアコンをつけずに窓を開けてやり過ごす人で、毎年六月前後は車の中が栗の花の匂いで満ちた。僕はそれがひどく嫌で、度々エアコンをつけるよう説得したものの母の節約精神に返り討ちにされていた。 思春期に入り、僕はそれが精液の匂いと同じだと気がついた。 二十二歳の初夏、窓を開けて運転していると栗の花の匂いがした。不思議と昔のような嫌悪感はなく

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        記事

          カフェにおける目的の乖離とラテアートについての考察

           インスタントコーヒーの普及によるファーストウェーブ、『スターバックス』に代表されるシアトル系コーヒーによるコーヒーの風味を重要視したセカンドウェーブ、これらは全て2000年頃までの世界に起こったコーヒーブームの呼称である。これらの文化は目まぐるしいスピードで我々の生活に浸透し、「波」から「潮」へと変貌を遂げた。では2020年現在、日本におけるコーヒーシーンは何が起こっているのだろうか。  現在のコーヒーシーンを牽引している一つの言葉で「スペシャルティコーヒー」というものが

          カフェにおける目的の乖離とラテアートについての考察