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[将棋]「読み」の技術についての主観。駒の働きの潜在性と実在性から考える。

 こんにちは、ゆに@将棋戦略です。
それでは今回もクラと一緒にお話しを進めていきましょう。
今回のお話は「読み」の技術についてです。


ゆに「今まで駒の働きについて議論してきたけれど、それで本当に局面の良し悪しを判断できるの?という話をしてみたいんだ。」
クラ「ほほー。今日はどんなことをするのかな?また実験?」
ゆに「今日はちょっとした思考実験をしてみようと思うんだ。まず、以下に仮想図①と仮想図②を用意した。これらの局面を見ると、どちらも3九にポツンと銀がいるだろ?」
クラ「うん、そうだね。これを使ってどうするの?」
ゆに「仮想図①と②で、3九の銀の働きの違いが考えてみるんだ。でもね、ちょっと今までの方法だと難しいかもしれないんだ。」

ある思考実験

仮想図①。この時、3九にいる銀の働きはどう評価されるべきだろう。
仮想図②。こちらの局面での3九の銀はどうか。

ゆに「僕たちは今まで、駒を動かさないで、駒の働きを測ることによって局面の結論を推測しようと試みてきた。そのために駒の働きの性質についていろいろと議論してきたわけだけど、その立場からすれば、仮想図①と仮想図②において同じ位置にいる3九の銀は、少なくとも攻めや守りの働きとしては同じように評価されるべきだろう。第3の働きの観点では違うだろうが、果たしてそれだけの話だろうか。」

クラ「うーん・・・確かにそれだけじゃない気もするんだよね。うまく言えないけど。」
ゆに「それじゃあ、試しに駒を動かしてみようか。まずは仮想図①からだ。」

 仮想図①から
▲4八銀 △6四角 ▲1七香 △5五角 ▲6六歩 △4五歩
▲8八金上 △3六歩(結果図①)

結果図①。3九にいた銀は4八のまま取り残されてしまった。

ゆに「仮想図①でも②でも、先手の課題は3九の銀の働きだから、初手は▲4八銀とするよりない。それで、結果図①までは参考手順だけれど、こんな風に4八に銀が取り残されたまま局面が収束に向かうことになる。」
クラ「後手の△6四角は△3六歩の狙いがあるから、先手は銀を活用したくても、▲1七香とあまり価値のない手を指さざるを得ないんだね。▲6六歩とかも。」
ゆに「いいことに気がついたね。そのことについてはまた後で触れよう。
それじゃあ次に仮想図②を動かしてみよう。」

 仮想図②から
▲4八銀 △5四歩 ▲5六歩 △8四歩 ▲5七銀△2一飛
▲6八角 △7三桂 ▲6六銀(結果図②)

結果図②。元々3九にいた銀だが、6六まで来れば十分活躍できそうだ。

ゆに「さて、結果図②のようになったよ。二つを比べて、どう?」
クラ「今度は後手からの狙いがあんまりないみたい。だから、先手は銀を活用することに専念できて、▲6六銀とまで活用できた。とすると・・・さっき攻めや守りの働きは同じはずって言ったけど、実は全然違うってこと?」

ゆに「ふふふ。実はそーなのだ。確かに仮想図①も②も銀は3九に『実在』していた。でも結果図②では銀を6六まで活用できたし、もっと言えば展開によっては4六に出たかもしれないし、6八や7九にいるべきかもしれない。とすれば、『実在』とか『観測』とかって、将棋においてはどんな意味があるのだろうか?」
クラ「うー・・・どう考えればいいのかな。今までの駒の働きの話は何だったんだろう・・・?」

潜在性と実在性

ゆに「少なくとも僕はね、ある固定された局面において、駒の働きを確定させることは出来ないと考える。駒の働きは、そもそもこのような『不確定性』を持つんだ。」
クラ「えー!なんかいろいろひっくり返された気分・・・。」
ゆに「いや、これは実はとても当たり前のことだ。例えば生まれたばかりの赤ん坊について、将来どんな職業につくかその時点で推測したりできるだろうか?当然出来ないはずだ。」
クラ「それもそうだね。」

ゆに「つまりこう考えるんだ。全ての駒の働きは潜在性と実在性を併せ持っている。そして潜在性は、時間とともに実在性へと移り変わっていく。例えばある人が将来どんな職業につくかについて推測する時、赤ん坊の時よりも高校生や大学生の段階から推測する方が遥かに合理的だし精度が高いだろう。ここで簡単に言葉を整理しておくが、ある駒の働きにおいて潜在性が支配的である時、その駒の働きは『潜在的』であると言うことにしよう。その逆ならば『実在的』であると言うことにする。」

クラ「ふむふむ。てことはさ、私たちがある駒の働きを測ろうとする時、それがある局面で潜在的であったとしたら、実在的になるまで時計の針を進めてしまって、その局面で駒の働きを測ればいいってことじゃない?」
ゆに「うん、その方が局面の良し悪しを判断する精度は高くなるだろうね。つまり、仮想図②で3九の銀の働きを測ろうとするのは誤りなんだ。少なくとも結果図②ぐらいまでは時計の針を進めて、判断する必要がある。」

クラ「ちなみにさ、左辺の金銀についてはどうなの?これは実在的と見ていい気がするんだけど。」
ゆに「そうだね。これらの駒は既に十分時間をかけて、守りの働きを高めてあるからね。端的に言って、十分に働いている駒は実在的と言っていいと思う。すなわち、駒組の頂点に達した局面というのは、局面の良し悪しを判断する一つのポイントと言って良いと思う。」

事象

クラ「それじゃあさ、仮想図①の3九の銀はどうなの?同じように潜在的と見ていいの?」
ゆに「いや、実はそうじゃない。君はさっき、とても重要なことを指摘してたんだ。つまり、△6四角が△3六歩を狙っているから、銀を活用している暇がない、といった意味のことだね。実際、△3六歩と突かれてしまうと香車を取られてしまって、相手にポイントを稼がれてしまう。こういった時、先手側としてはポイントを奪われるのを防ぐか、別の場所で同程度のポイントを稼ぎにいくかしかバランスを取る方法はない。そのようにして、未来の可能性が圧縮されるんだ。僕はこのような未来の圧縮が起こるイベントのことを、『事象』と呼んで区別することにしているんだ。」

クラ「事象、ね。それはとても重要そうだね。事象が近づくと未来が圧縮されて実在的になるので、私たちが駒の働きを判断するもう一つのポイントは事象の近傍、ということになるのかな。」
ゆに「僕の考えでは、その通りだよ。」

「読み」の技術

ゆに「最後に話をまとめてみよう。もし局面が実在的であるなら、そのまま駒の働きを測って局面を判断すればいい。潜在的であるなら、ほんの少し探索を行って実在的な局面に移行し、そこで局面の判断すればいい。なお、局面が実在的であるかどうかは、事象や駒組の飽和度合いで判断する。」
クラ「ほむほむ。」

ゆに「加えて言うとね、その局面の判断の結果が自分に有利であるならそれでいいのだが、不利と判断した場合、一旦潜在的な局面に戻らなければいけないことが多い。事象によって未来が圧縮された局面は、まさに選択肢が狭まっているからね。選択肢が多い局面で別の手を検討した方がいいことが多いってわけだ。」

クラ「そうやって潜在的な局面と実在的な局面を行ったり来たりしながら局面を判断するわけね。」
ゆに「そう。僕はそのような往復運動こそが、読みの技術だと考えているんだ(読みの技術の図)。」
クラ「ついに読みの真相が明らかにー。って、それ皆やってるの?」
ゆに「他の人のことは知らない。自分がそうってだけ。」
クラ「なぁんだ(汗」

読みの技術の図。ゆにの頭の中はこうなっているらしい。もちろん他の人のことは分からない。

 というわけで、「読み」の技術のお話でした。なんだか当たり前のような、そうでもないような、よくわからないお話だったかもしれません(汗。ですが、局面の良し悪しをどの局面で判断するのかは重要なポイントと言えそうです。
 戦術論の一般的なお話はこれで終わりの予定です。今後はもう少し具体的なお話にシフトしていこうかと考えております。

 それでは読んで下さり有難うございました。引き続きよろしくお願いいたします。


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