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[級位者向け将棋戦略論]駒を働かせるために⑦。弱いマスを意識しよう。

 こんにちは、ゆに@将棋戦略です。

 今回は「弱いマス」を意識しよう、をテーマに書いていきます。弱いマスとは、ここでは王様以外の駒が利いていないマス、と定義しておくことにします。前回の射線管理の話は、自陣の安全スペース、危険スペースと相手の攻めの方向をざっくりと捉えるお話でした。今回の弱いマスの話は、もうちょっとミクロなお話と考えて下さい。


弱いマスがあると駒が働きにくい

 なぜ弱いマスを意識する必要があるのでしょうか?この理由については、以前書いた戦略論記事にて言及しています。その繰り返しになりますが、改めてこの記事でも書くことにします。

 まずは以下の部分図(図①)は先手側が4枚の矢倉囲いで、ここから後手の立場に立って、先手の囲いを攻略することを考えてみましょう。なお、わかりやすくするために弱いマスに赤丸の目印をつけておきました。

図①。後手の立場に立って、先手側の囲いを攻略してみましょう。弱いマスを狙うのがポイントです。

こういう時は必ず弱いマスに注目します。最も効果的な攻めは、△6九銀や△8六桂のように7八の地点を狙う攻めです。例えば△6九銀とした局面は、次の△7八銀成からの詰めろになっています。実際にやってみましょう。まずは△7八銀成▲同玉△6九銀(参考図①)。

参考図①。

参考図①以下、▲同玉△5八金(参考図②)。

参考図②。

参考図②以下、▲同玉△4六桂(参考図③)。

参考図③。

参考図③以下、▲6九玉△5八角(参考図④)。

参考図④。

参考図④以下、▲7九玉△7八金(参考図⑤)。

参考図⑤。

参考図⑤以下、▲同玉△6九角(参考図⑥)。

参考図⑥。

参考図⑥以下、▲8八玉△7八飛(参考図⑦)で詰み。

参考図⑦。

一手ずつ丁寧に確かめてみました。注目して頂きたいのは2点。1点目は後手の指し手で、ほとんどの手が赤丸地点に着手されているのがわかりましたでしょうか?参考図⑦を見ればよくわかりますね。2点目は先手の金銀3枚が取り残されているということです。取り残されたということは、要するに機能しなかったということです。先手の囲いは金銀4枚の強固な囲いに見えますが、弱いマスがあると4枚分の働きが発揮できないことがあるのです。

弱いマスが発生するメカニズム:偶奇非対称性

 図①では金銀が4枚もいるのに、弱いマスのおかげであっという間に崩されたしまいました。では弱いマスをなるべく作らないように、どのようなことに心がければいいでしょうか?別の言い方をすれば、弱いマスはどのようなメカニズムで発生するのでしょうか?

 弱いマスのメカニズムを知るためには、マスの偶奇の概念が便利です。マスの偶奇については戦略論記事にて説明済ですが、以下のように定義します。

奇数マス:2三や6五のように、二つの数字を足して奇数となるマスを奇数マスと呼びます。
偶数マス:2四や6六のように、二つの数字を足して偶数となるマスを偶数マスと呼びます。

 なぜこのようなことを定義するのか、それは以下の参考図⑧を見れば明らかになります。図の見方についてですが、青色矢印と緑丸、赤丸がありますね。青色矢印は駒の利きを示しています。それに対して緑丸はその駒がいるマスと偶奇の等しいマス、赤丸は偶奇の異なるマスを示しています。

参考図⑧。矢印が駒の利きを表します。緑と赤の丸のそれぞれ、その駒がいるマスと偶奇の等しいマス、異なるマスを表します。

この図を使って、青矢印が向かう緑丸と赤丸の数を比較してみましょう。金の場合は緑:赤=2:4、銀の場合は緑:赤=4:1になっていますね。つまり、金は偶奇の等しいマスへの、銀は偶奇の異なるマスへの利きが少なく出来ているのです。金や銀という駒は本質的に、このような偶奇非対称性を持っています。したがって、駒の配置によっては偶奇非対称性を強調してしまう場合もありますし、逆に偶奇非対称性を打ち消すこともできます。偶奇対称性を強調すると弱いマスが増え、打ち消せば弱いマスが減ることは分かりますね。

 それでは次に、偶奇非対称性を強調してしまう/打ち消す金銀の位置関係について考えてみましょう。これは簡単な話ですね。例えば2枚の金について考えると、2枚の金が偶奇の等しいマスに配置されている時、偶奇非対称性はより強調されます。また、偶奇の等しいマスに配置されている時は、偶奇非対称性を打ち消すことができます。2枚の銀についても同様です。一方、1枚の金と1枚の銀について考えると、金と銀では偶奇非対称性が反転しているので、今度は金と銀が偶奇の等しいマスに配置されている時に偶奇非対称性が打ち消されます。また、偶奇の異なるマスに配置されている時は偶奇非対称性が強調されます。

 以上をまとめると、偶奇非対称性を打ち消して弱いマスを減らすためには、以下のように金銀を組み合わせる必要があります。

・同種の駒を偶奇の異なるマスに配置する
・異種の駒を偶奇の等しいマスに配置する

 この観点でもう一度図①を見てみましょう。銀どうしの関係を見ると、偶奇の等しいマスに配置されていて、偶奇非対称性を強調していますね。また、金どうしの関係についても同様です。また、金と銀の関係を見ると、偶奇の異なるマスに配置されているので、こちらも偶奇非対称性を強調する配置です。その結果として、図①に赤丸で示した弱いマスが現れます。赤丸の位置関係をよく見て下さい。9九のマスを除けば、ジグザグになっていますね。これらはいずれも奇数マスです。偶奇対称性を強調してしまった結果、奇数マスに集中して弱いマスが出来てしまったのです。

 試しに図①の6七金と6八銀を入れ替えてみましょう(参考図⑨)。そうすると見事に弱いマスが消えてくれます。参考図⑨になると詰めろはかかりませんし、参考図⑦のように金銀が取り残されることもないでしょう。

参考図⑨。金銀を入れ替えると、弱いマスが消えてしまいました。

 最後に一つ、具体例を示しておきます。図②は居飛車穴熊VS四間飛車の定跡形。ここで、昔は筋と言わんばかりに▲3七桂~▲4五桂打としていました。

図②。居飛車穴熊VS四間飛車の定跡形。昔は皆▲3七桂と跳ねていた。

でも、後手陣をよく見てみましょう。2枚の金がいずれも奇数マスに、5三の銀は偶数マスに配置されています。奇数マスにいる7二の銀がカバーしてはいるものの、全体的に奇数マスが弱い配置であることが分かりますでしょうか?

図②では▲3三飛成△同桂▲3四歩と攻めるのがオススメです。以下△4五桂▲3三歩成△4四飛と進みます。奇数マスが弱いという話と、全然関係ない手順じゃないかと思われるかもしれませんが、肝心なのは次の一手です。
△4四飛の後、奇数マスラインに打つ▲1六角(図③)が悶絶級の一撃なのです。

図③。奇数マスラインを突き刺す▲1六角が悶絶級の一撃。これで4三と~5二とが受からず、かつ先手玉が遠すぎるので先手有利。

図③は4三とから5二との奇数マス攻めが受からず、かつ先手玉が遠すぎるので、先手が有利の局面です。

 以上、弱いマスを意識しよう、でした。弱いマスを作らないためには、金銀の位置関係について
・同種の駒を偶奇の異なるマスに配置する
・異種の駒を偶奇の等しいマスに配置する
ことを心がけましょう。そうすると自然と弱いマスが少なくなります。
逆に、相手陣の弱いマスは徹底的に狙っていきましょう。

 それでは読んで下さり有難うございました。引き続きよろしくお願いいたします。

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