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[級位者向け将棋戦略論]駒得は裏切らない③。たれ歩の手筋をご紹介。

 こんにちは、ゆに@将棋戦略です。

 これまでに引き続き、駒得は裏切らないをテーマに、今回はたれ歩の手筋をご紹介したいと思います。これもいろいろな場面/目的で使われる手筋ですので、いくつかのパターンに分けてお話したいと思います。 


たれ歩の定義

 まずは定義からいきましょう。いつものことながらゆになりの定義で。たれ歩とは以下のような歩打ちを指します。

たれ歩:盤上2段目~4段目に打つ歩で、次のと金作りを目指したもの。ただし、直接相手の駒の前(頭)に打つ歩は除外する。

 と金作りのお話は初めてですね。と金は金と同じ動きができ、それに加えて相手に取られたら歩に戻ってしまうので、相手の駒との交換が有効です。とても強い駒と言えますね。駒得を目的としたと金作りはとてもよく用いられるので、本稿のテーマともマッチしています。

駒得のためのたれ歩

 それではいくつかのパターンに分けてお話していきましょう。まずは駒得のためのたれ歩です。何度も目にした図ですが、以下のような場面で有効です。

駒得のたれ歩①。以前紹介したように、▲2三歩の単打の歩は△1三角で失敗。

 単打の歩の▲2三歩は△1三角とかわされて、後続がないため有効でないことは、以前ご紹介しました。この場合は、▲2四歩のたれ歩が正解で、これで次の▲2三歩成を受けることが出来ません。▲2三歩成が実現すれば金と歩の交換になりますので、これにて駒得成功です。

 たれ歩を検討する際は、このようにまずは単打の歩を検討してみて、その後にたれ歩を検討する、ということが多いように思います。例えば以下のようなケース。

単打の歩とたれ歩の図①。▲2二歩と単打の歩を打つか、それとも▲2三歩や▲2四歩のたれ歩を打つか。

 まずは単打の歩を検討してみます。▲2二歩△1三桂▲2一歩成(単打の歩とたれ歩の図②)で銀と香車の両取り。飛車も成りこめそうですし、これはうまくいってそうですね。

単打の歩とたれ歩の図②。これは成功。

 それでは次にたれ歩を検討してみましょう。まずは▲2四歩と打つ場合ですが、これは△2二歩で簡単に受かってしまいますね。また、▲2三歩と打つ手にも、△1三角(単打の歩とたれ歩の図③)などとされて受かります。

単打の歩とたれ歩の図③。たれ歩は失敗。

 このように、大抵は3手~5手くらい読めば何とか判断がつく場合が多いので、ぜひ検討してみてください。

 なお、単打の歩やたれ歩を守る側の考え方としては、とにかく大駒の利きは歩で止めておく、というのが大事でしょう。例えば以下のような図。(ちなみに、こういう図を出す場合は左辺のことは考えないようにして下さいませ)

駒得のたれ歩②。

ここで、先手が▲2五飛と走ってきたら、すかさず△2三歩(駒得のたれ歩③)と打つようにしましょう。そうすれば先手は単打の歩もたれ歩も使えません。もちろん時には打たないで頑張る場合もありますが、大抵は打ってしまってOKです。

駒得のたれ歩③。受ける側は必ず大駒の利きを歩で止める。

 では逆に、先手の攻めの立場からすると、△2三歩と打たれてしまっては面白くありません。ここは先に▲2四歩(駒得のたれ歩④)とたれ歩を放っておくのが手筋です。

駒得のたれ歩④。予め▲2四歩のたれ歩を打っておくのが急所。

こうしておけば、次の▲2五飛から▲2三歩成が分かっていても、後手側はとても防ぎにくいです。唯一の受けは△3四歩▲2五飛△3三桂▲2八飛△2五歩(駒得のたれ歩⑤)のように飛車先を止める受け方ですが、後続の攻めがあります。これまでに紹介済みですので、わかりますよね?

駒得のたれ歩⑤。ここで後続の攻めがあります。

答えは▲3五歩ですね。△同歩に▲3四歩の単打の歩で駒得成功です。それでは最後に練習問題(駒得のたれ歩⑥)を。

駒得のたれ歩⑥。▲2二歩の単打の歩と▲2三歩のたれ歩どちらかが正解。

これは▲2二歩か▲2三歩のいずれかが正解ですので、是非自力で解いてみて下さい。

形を乱して駒得を狙うたれ歩

 たれ歩には叩きの歩のように、形を乱して駒得を狙うパターンもあります。それは次のような場合です。

乱しのたれ歩①。3筋に歩が利けば▲3二歩のたたきの歩が有効な場面。

 ここでもやはり弱点の桂頭を狙います。といっても、すぐに▲2二歩と打つのは△同銀と取られてしまいます。

▲3二歩と叩きの歩で形を乱す手が見えた方はお強いですね。でも、今回は3筋に歩を使えないようにしてあります(念のためですが、二歩になります)。

 それでは正解はと言うと、▲2四歩と垂らす手です。後手はこれに対して△3二銀や△2二銀と守るしかありませんが、すかさず▲2三歩成と成り捨てて△同銀に▲2二歩(乱しのたれ歩②)が実現します。

乱しのたれ歩②。

叩きの歩の場合もそうでしたが、このように指したい狙いを実現させたい時に、守っている駒の利きをずらす目的で乱しの手筋が用いられる場合が多いです。

 もう一つ例を出しましょう。以下の図(乱しのたれ歩③)ではどこに歩を打つのがいいでしょうか?先手としては何とか▲2三飛成と飛車先の突破を目指したいところです。

乱しのたれ歩③。▲4三歩や▲4四歩は歩を受けられて無効。

ここは▲4二歩と打つのがいいでしょう。これに△同金としてしまうと▲2三飛成で、桂香を拾う手が受からなくなります。△3一金と引くのも同様です。かといって放置するのも、▲4一歩成~▲4二とが厳しいです。一方、▲4三歩などと打ってしまうと△4一歩と受けられて手が出なくなってしまいます。他の手筋にも言えることですが、受ける側の手段にも注意して手を選びようにしましょう。

端攻めのためのたれ歩

 これは乱しのたれ歩の一種とも言えますが、重要なため別の分類としました。持ち駒に2~3枚の歩があれば生じますので、実戦でも常に意識しておきたい手筋の一つです。

 例を示しますと、次のような図(端攻め①)では▲1五歩と端攻めするのが有効です。

端攻め①。

一見、△同歩と取られて何も起こらないように見えますが、そこで▲1三歩(端攻め②)とたれ歩を放ちます。

端攻め②。△同香なら▲1二歩のたれ歩。△同桂なら▲1四歩の単打の歩。

これを放っておきますと、▲1五香と走ることが出来て、次の▲1二歩成が狙えます。かといって、△同香には▲1二歩のたれ歩(端攻め③)、△同桂には▲1四歩の単打の歩があって、後手は受けようがありません。ちなみにですが、歩が三枚あったら▲1三歩のたれ歩でなく、▲1二歩の叩きの歩でも構いません。

端攻め③。次の▲1一歩成から▲2一との駒得が確定。

 ちょっと駒得を狙う趣旨からずれてしまいますが、もう一つプロの実戦でも現れた、実戦形を紹介しましょう。下図(端攻め④)は銀冠対穴熊の形で、既に端攻めが成功していそうな局面ですが、攻め方に注意が必要です。

端攻め④。▲9三歩でも悪くないですが、▲9四歩がオススメ。

パッと見、▲9三歩と叩きの歩で攻めたくなります。もちろんそれも有力ですが、△同香▲同桂成△同銀となって、次に△8二金と金を活用されたり、△8二玉と逃げられたりして少し厄介です。また▲9五香は△同香なら▲9二歩△同玉▲9三歩で調子がいいのですが、▲9五香に△9三歩と低く受けられた時がちょっと面倒かも。

ここでは▲9四歩の方がオススメです。次の▲9五香と走れれば端が確実に破れるようになりますし、かといって△同香と取っても▲9三歩とさらにたれ歩を放って、状況が悪化します。なお、先ほどと同じように歩を3枚持っていたら▲9三歩の叩きの歩でOKです。

 いずれも香車を前につり出して、香車の裏側に歩を打つ筋と言えますね。頻出の筋ですので、実戦でぜひ検討してみて下さい。

実戦例

 それでは将棋ウォーズからの実戦例。実戦例①-1は後手番。後手は竜を作っていて、先手は歩切れ。だいぶ後手が良さそうですね。いろいろ手はあるのですが、確実な手といえばやはりたれ歩です。

実戦例①-1。後手番。いろいろ手はありますが、とりあえず確実な手を。

正解、とは必ずしも言い切れませんが、△8六歩(実戦例①-2)が確実な一手です。次に△8七歩成となれば駒得がほぼ確定します。ちなみに単打の歩の△8七歩はこの場合、あまり効果的でありませんので、ご確認の程。

実戦例①-2。これで歩成が受からない。

以下の進行の一例として、▲7九角△8七歩成▲5七角と角を逃がしてみますが、そこで△9八と(実戦例①-3)と竜の利きを通せば桂香両取りで駒得確定です。

実戦例①-3。と金を捨てて竜を通せば、駒得が確定。

 下図の実戦例②-1は先手番。手がなさそうに見えますが、たれ歩を使えば手が作れます(後続の攻めには、まだ説明していない攻め方が含まれます)。

実戦例②-1。先手番。手がなさそうですが、たれ歩を使えばうまく手を作れます。

正解は▲1五歩△同歩▲1三歩(実戦例②-1)。次に▲1五香が厳しいので、後手は△同香くらいです。先手はもう歩がありませんが、△1三同香に▲2五桂の銀、香両取りがあるので、攻めになっています。

実戦例②-2。歩が一枚しかないですが、この場合は▲2五桂があるので成立しています。

以下、△2四銀▲4五歩△同歩▲1三桂成△同銀▲4四香(実戦例②-3)となれば、金と香の交換となり駒得に成功します。ちょっと手順が長くて難しかったですね😅
なお、実戦では▲1五歩でなく、▲8八玉としてチャンスを逃してしまいました。

実戦例②-3。これで金と香の交換で駒得になります。

 というわけで、今回はたれ歩の手筋についてご紹介しました。次は合わせの歩、継ぎ歩についてご紹介する予定です。

 それでは読んで下さり有難うございました。引き続きよろしくお願いいたします。



 


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