苦境から生まれた戦法⑦(完)

前回の続き。


ソフト時代の到来により、棋士だけでなく奨励会員にもソフト研究の波が訪れました。

平手の研究にも当然力が入りますが、奨励会という場所は大体2、3局に1回は香落ちを指す所なので、人によっては香落ちの研究にもソフトを使う人がいました。

具体的な局面図を上げるとこんな感じです。

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そう、近年流行っているエルモ囲いですね。

この当時から知っている人はやってました。もう3年か4年くらい前ですが。実際に奨励会の実戦で指されたこともあります。

また、ソフトは香落ちの初期配置を大体+400〜+350くらいで評価していますが、従来の香落定跡のような対抗形になると途端に評価値が100〜150くらいまで減衰してしまうんですね。

1番人気は相振り飛車で、当時は常に+400前後くらい出てました。

つまり、▲3六歩戦法を全く評価してくれないんです泣

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この局面は例えばの話ですが、ソフトに▲3六歩戦法を試した場合に示された対策の1つです。上手が△4五歩&△5四歩が突くことが出来ていて、角の働きに自由度が高い上に、美濃囲いの堅陣に組めているので、これでは下手がやや不満です。序盤に▲1六歩と突いたものの、この展開では端攻めが間に合わなそうです。いつ頃からか、二段と香落ちを指す時にこの形を目指される事が増えました。

「評価値=答え」のような風潮は今でも僕は大嫌いですが、この時ばかりは痺れました。何せ、「対戦相手はソフト」のような感覚に陥りましたから。


時が流れ、僕自身の棋力向上が止まり、8年いた奨励会を退会することになりました。実質的に最後の一局となった対局も、何の因果か香落ちでした。

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もう、▲3六歩すら指させてもらえないのか…

病んでいるのでそんなことをふと思いましたが、上手が早石田にする作戦は昔からあり、ソフトの台頭によって見直されているようです。


ここまで7回に渡り、奨励会時代に考案した香落ち下手の戦法を紹介してみました。

いかがでしたでしょうか。現役時代に真似している人は見たことがありませんが(笑)、心血を注いで研究した戦法なので、少しでも読んでくれた方の棋力向上に繋がれば嬉しいです。


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