朝日アマ振り返り

少し時間が経って気持ちが落ち着いてきたので、先日の朝日アマの振り返りでもしようかと思う。
去年の加古川、今回の朝日アマと私が公式戦に絡む大会に出続けていた理由を明記しておく。
1、就職活動の助け
2、プロ公式戦出場

2はともかくとして、直近の2年間履歴書にかける内容がない(自分で書いておきながらマジか)私にとっては、アマ大会で成績を残しておくと就活に有利だと考え、約1年前から無い知恵を絞りながら準備してきた。幸いにも内定獲得まで漕ぎ着けることが出来、「後は勝つだけ」という状態で当日を迎えることが出来た。 


本番の約1ヶ月前、トーナメント表が発表された。まずは自分の相手を見る。
知ってる。関西の元奨だこの人。強いじゃん。
そしてその隣。「三浦孝介」。
当時は香落ちと平手で1回ずつ負かされた強い先輩。三段にもなってるし、確かリーグでも12勝したことがあった気がする。公式戦の壁は高いことはよく分かった。
まあ、だからといって準備の段階でやることは普段と変わらなかった。相変わらず詰将棋と棋譜並べ中心のアナログスタイルに、当日の作戦を事前に決め込んでその戦型に絞ってソフト検討をひたすらやる。棋譜並べや検討で出た手順を後輩の奨励会員に聞いて意見交換し、自分の物にする。
毎週月曜日には研究会に参加して、現役の三段にも稽古をつけてもらったりした。

事前の準備に万全など存在しないが、それでもやるだけはやった。だが、前日の夜は全く眠れなかった。文字通り一睡も出来なかった。夜通し雨が降っていたのを覚えている。いつの間にか空が白んできて、アラームが鳴った。
言い訳じゃないが、当日の体調は全参加者で一番悪かったはずだ。何なら浜松町についた時、嘔吐しそうになった。しばらくぶりに本気で将棋をやったからこそ、「負けたら全て失う」状況に体もメンタルも追い付いていなかった。

「シャウトはメンタル豆腐だから」

修業時代の斎藤明日斗に吐き捨てるように言われたことを思い出す。当時は冗談半分の他愛もない煽り合いだった言葉が、ここに来て刺さる。
1局目。▲26歩△34歩▲25歩に、△84歩と指されて意表を突かれる。多分棋風は△33角からゆっくりした将棋になるんだろうなと思っていたら「絶対横歩取り殺すマン」の人だった。
相手の将棋の自己紹介が済んだところで、こちらも自己紹介。以前、加古川の準決勝で負けた我流を登板。どう見ても初見殺しの出だしなので相手も慎重に時間を使う。紆余曲折あったが、昔研究したことを思い出しながら最後はちゃんと詰まして勝ち。
あと1つ。ついにここまで来た。相手は三浦さんを倒し、公式戦でも2勝している方。この人も関西の元奨だ。どっちにしろ強いが、絶対勝って公式戦を指したい。もう一度正座で全力を出したい。
しかし悲しいかな、この将棋も出だしで予想外になり、あっという間に序盤で手も足も出なくなる。中飛車か三間飛車が来ると思ったら、4手目42飛からレグスぺにされて、まったく知識の無い展開。向こうだけ一方的に詳しい将棋になってる時点で評価値を超えて作戦負けの上といったところ。
ダラダラ組み合っても勝ちにくくなるだけと判断し、無理を承知で仕掛けを敢行。当然切れ気味だが、「プロ的には大差」故、相手もちょっとおかしくなっていたのかもしれない。楽勝に見えてなかなか攻めが切れない。雰囲気は出てきた。
形勢はまだ悪いが、こういうのを何回も修業時代逆転してきた。ここは腕の見せ所という場面で、一手ヌルい手を指すのがコツだ。流れが早い時にそういう手を指すと、経験上相手が「壊れる」。
候補手は嫌らしく▲63歩、もしくは本筋っぽく▲37桂の活用。迷っているうちに、更にヌルく▲44歩とパスしたらより良いのではと思って着手した瞬間、血の気が引いた。タダで取られる手を完全にうっかりした。それどころか遊んでいる飛車に自ら活を入れる大悪手だった。
将棋が終わった。
△同銀と取られた局面で投了しようか本気で考えた。一手で台無しにした。こんなくだらないミスで全てが水の泡になってしまった。自分への怒りと情けなさで暴れだしそうになるが、どうしても投げられなかった。退会届を書いた時の事を思い出しながら棋譜を汚して自陣に駒を埋める。1枚目は涙でぐちゃぐちゃになっちゃってダメにしたんだっけな……。

終わって相手が去った後も、しばらく立ち上がれなかった。結局いつもの私の負けパターンだった。自分に勝てなかった。それだけのことだ。

さて。以前の記事にも書いたが今回の朝日アマを以て、私がアマ大会に出るのは最後となる(職団戦、社団戦を除く)。当初の目的通り、就活が無事に済んで、今後は仕事で忙しくなるし、中途半端な気持ちで将棋を続けるのは嫌だからだ。自分のためにしかならない将棋を勉強してない段階で指しても何の得にもならないし、メリットがない。折角なら誰かのためになることをしたいので、団体戦だけは出ようかなと思う。その際は全力で鍛え直しておくので、チームメイトの方は安心して頂きたい。

最後に。今日まで応援してくれた全ての方々に感謝しています。鍛えてくれた後輩たち、新しい就職先の方々、バイト先の方々。そして父。もう将棋で恩返しすることは無いだろうと思うと寂しいけど、今後ともよろしくお願いします。

川村、四段になれよ。
それから、山川もな。


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