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心の持ちよう|藤本渚四段

自分の奨励会時代の心の持ちようについて書きたいと思います。
奨励会に入会してすぐのころは、入れたことがうれしく伸び伸びと指せて、その結果2級までは順調に昇級することができました。その時は負ける事に関してはそれほどダメージを受けることはなく1勝2敗だったとき、最後が勝ちだった時は次に繋がると思えるほど前向きに考えられていました。必ずしもいい事ではないと思いますが、まだ小学生だった自分にはあっていたと思います。
そんな考え方が変わったのは2級から1級に上がるまでの間です。2級にここまで早くなれると思っていなかった自分はどこかフワフワした気持ちになっていて、またそれまで昇級戦では一度も負けていなかったこともあり危ない精神状態だったと思います。
すぐにまた上がれるという根拠の無い自信を持っていた自分は、最初に出来た昇級のチャンスを逃して一気にその自信を無くしてしまいました。
そこから一局負けるとものすごく落ち込むようになってしまいました。特に一局目に負けると気持ちの切り替えができずズルズルと負けを重ねることが多くなり、それがますます自信の喪失を加速させていきました。
そしてあるとき、一局目に勝てた時に次も勝てると思うなよという自分への戒めを込めて手に「敗」の字を書いて飲み込んで昼休みを過ごしたことがありました。するとなぜかその日は連勝できて、奇数調整のため4局指したこともあって突然次が昇級の一番になりました。当時の自分はそれに大喜びしてしまい、次の例会では冷静さを欠いて昇級の一番に負けて立ち直れずそのまま3連敗しました。
3局目が終わった時は最初は泣くのをこらえていましたが、喋ったらおそらく決壊してしまうほど危なくなって感想戦ができなくなってしまいました。幹事の北浜先生や対局相手の兄弟子の村田さんに迷惑をかけてしまい申し訳ない気持ちになりました。
それから自分に合った心の持ちようとは何なのかという事を考えるようになりました。答えは見つからなくても、考えて、気持ちを切り替えられるように意識するだけで結果は大きく変わってきました。3度目の昇級の一番で頓死で負けて、双方が昇級の一番だったため相手は昇級して自分はダメだった時もなんとか切り替えて次の対局に勝てたことは成長なんじゃないかと思いました。
そして5度目でようやく昇級できたあとはすぐに初段に上がれて、報われた気がしました。初段では2年停滞しましたが、2級の時のように上がれそうで上がれなかった訳ではなく負ければ降段点の対局を2度経験するなど純粋に棋力が足りていなかったので諦めもつきました。
それでも同じ段級に2年いたら退会も考えるということを両親と決めていたのでそれが近づいた時には焦りもありました。そして丁度その頃により強くなる環境にするため大阪へ引っ越すという事が決まりました。大きくなっていくプレッシャーに以前の自分なら押しつぶされよい将棋を指せなかったかもしれませんが、その時の自分はそれをある程度力に変えることができたんだと思います。二段はほぼ無駄星なしで上がれて、三段になってからもいい成績が続きました。
その頃はなぜ勝てているのかわからないうちに勝っていた感じが自分の中では強いですが、対局の時に負けてもしょうがないと思うことで精神的に楽になって手が伸び、結果として勝ちに繋がっていったのではないかと思います。
一番いいのは負ける気がしないと思えるほど努力し強くなることだと思うので、それを目指して心の持ちようを試行錯誤しつつ頑張っていきたいと思います。